実際はどんなものなのか
冒険者ギルドの老職員から手ほどきを受けるようになって以来、ユウの体から痛みが消えることはなかった。裂傷や打撲のような痛みではなく、体の内側から湧き上がる痛みだ。
当然
もう本当に慣れるしかないとユウは悟る。より一層新しい朝の鍛錬に力を入れた。一刻も早く体の痛みを取り除きたいのだ。
そんな自分の体との戦いを強いられるユウをよそに
とある大部屋で
「とりあえず大部屋を攻略できた感じはするよな、ジュード」
「相変わらず数の多さは面倒だが何とかなってきたとは思う」
「そろそろ3階に行ってみねぇ? どんなもんか様子を見に行くだけでもいいからよ」
「まぁそうだなぁ」
「今は集めた情報から推測して動いてるけどよ、1回やってみて体験した方がそろそろいいと思うぜ。なんていうか、感覚として具体的な距離感をはっきりさせておきてぇんだ」
「言いたいことはわかる。そうか、具体的な距離感か。確かに俺たちは知らないな」
相棒の主張を聞いたジュードが黙って考え込んだ。そのうち3階に上がるつもりではいても、今はその時期をうまく決められない状態でもあった。その感覚を掴むために1度3階を体験しておくというのは悪くないように思える。
黙るジュードから視線を外したケネスはハリソンに顔を向けた。じっとジュードを見ていたパーティメンバーに声をかける。
「ハリソンはどう思う? そろそろ3階を体験してもいい頃合いじゃねぇ?」
「最近は何をやっても手詰まり感が強くなってきたから、1度行くのも悪くないと思う。何をどう対策すればいいのかはっきりとわかるような手がかりが欲しい」
「だよな! 3階での経験は間違いなくきっかけになるぜ。キャロルはどうだ?」
「正直なところわからないねぇ。
「ん、そうだ」
順番に意見を聞いて回るケネスは悪くない反応に気を良くした。いつも慎重だったハリソンまでが前向きになっているというのは大きい。
最後にケネスはユウにも話を振る。
「ユウはどうだ?」
「挑戦したいっていう気持ちはある。同時にどれだけ通用するのかって不安はあるけど」
「その不安はオレだってあるぜ。けど、やってみたらどんなもんかわかるだろ?」
「確かにね。そうなると後は地図があればいいわけだ」
「罠には引っかかりたくねぇもんな」
「実は1枚だけ3階の地図を描いていたりするんだけど」
「なんだユウ、お前もやるきマンマンじゃねぇか!」
「いやちょっと時間の都合上1枚しか写せなかったから、それなら3階にしようかなって」
「いいね! やっぱこういう巡り合わせってあるんだよな!」
ほぼ全員から同意を得たケネスが嬉しそうに叫んだ。そうしてジュードへと向き直る。
「ジュード、行こうぜ!」
「そうだな。1度行ってみようか。ユウ、その描いた地図っていうのはどの辺りなんだ?」
「西側、
「数が少ない方だな。だったらいいんじゃないか。ここからだと反対側だから結構遠いが」
「お金を稼ぎながら進むならこのまま2階を通って行けばいいけど、早く行きたいなら一旦1階に降りた方がいいよ」
「稼ぐのは重要だから2階を通っていこう」
「決まりだな!だったらすぐに行こうぜ!」
意見がまとまると
昼食を挟んで西側の3階へ続く階段のある大部屋にたどり着いたユウたち6人は
「いよいよだなぁ! 高ぶってきたぜ!」
「今回は様子見だからそんなには進まないぞ、ケネス」
「わかってるって。あー楽しみだなぁ」
まるで子供のようにはしゃぐケネスをジュードがなだめた。それから全員で階段を登ってゆく。
初めて見た3階の様子は今までとまったく変わらなかった。通路の幅は10レテム程度、天井までの高さは約5レテム、床、壁、天井を構成する石材には発光素材が混入しているのでぼんやりとした明るさで光っている。
2階に初めて上がったときの経験から予想していた6人は周囲の光景に驚かなかった。それよりも魔物がいないことにケネスは少し落胆し、他の5人は安心する。
「最初はこんなもんか。ユウ、案内を頼むぜ」
「そのまままっすぐ進んで」
罠のない経路を確認しながらユウは前衛のケネス、ジュード、ハリソンに進む先を指示した。3階からは不意打ちもあるので背後も警戒しながら歩く。
最初にたどり着いた部屋は空っぽだった。ということは既に誰かが通った後ということになる。そのまま2つある扉のうち1つを開けて通路に足を踏み入れた。同じく魔物はいない。それを何度か繰り返す。
しかし、ついにとある通路で魔物と出会った。成人男性よりも一回り大きく黄土色の肌をした巨漢で頭部はほぼ豚だ。9匹の
「ピギィィィ!」
「うぉ!?」
棍棒を全力で振り回されたケネスはそれを躱すと
ケネスに一拍遅れてジュードとハリソンも
「ハリソン! ああくそ!」
「ピギャァァ!」
後衛であるキャロルがハリソンを助けようとした。しかし、前衛の間をすり抜けてきた
いきなり乱戦になってしまったことに驚きつつもユウは刃こぼれした槍を手にした
他の五人は色々な差異が出る。ケネスとジュードはアディの町に来る前にいろんな魔物と戦った経験があった。その中には
今まで魔物個体で見れば楽に戦える相手ばかりだったことから、その個体が強くなったことで
2匹目の
「お前ら生きてるか!?」
「ハリソンの方へ行け!」
同じく2匹目と戦っているジュードの声にケネスはすぐさま反応した。どうにか持ちこたえているハリソンを攻撃する
キャロルが相手をしていた
6人はしばらく魔石も拾わずに呆然としていた。放っておいたらいつまでもそのままのように見えたが、ハリソンの呻きでジュードが我に返る。
「ハリソン、怪我をしたのか」
「最初に押し込まれたときにちょっと腕をな」
「僕が治療するよ。ちょっとじっとしてて」
『あそこを突破するにゃ、地力を上げるしかねぇんだよ。小手先でなんとかなるほど甘くねぇ。その様子じゃ、陣形をいじったり、もっとうまく連係できるように練習したりしてんだろう。それも大切だが、自分の実力を上げねぇとダメだぞ』
その意味をユウは今回知った。過去の経験のおかげで
このパーティではまだ3階は早いということをユウは実感した。
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