6人パーティでの行動

 奇しくも利害が一致した大きな手ビッグハンズ頑丈な剣スターディソードはキャロル側がケネスのパーティに入って3階を目指すことになった。


 そこで問題になったのが陣形だ。4人から6人に増えたので陣形を組み替えないといけない。問題はどのように変更するかだ。


 戦力として見ると、ケネス、ジュード、キャロル、ボビーが前衛を担当できる。この中で盾を持っていないのはボビーだけだが、それは槍斧ハルバードを両手で扱うからだ。ケネスよりも攻撃に特化しているといえる。


 これに関しては割とすんなり決まった。元のペアであるケネスとジュード、キャロルとボビーの2組に分けるのだ。これなら連係の調整が最小限で済む。そこへハリソンがケネス組、ユウがキャロル組を支援するという形だ。


 組み分けが決まると次はどうやって運用するかに移る。通路は簡単だった。3人1組が交代で前衛を担当すれば良い。ケネス組ならケネスを中央の先頭にジュードとハリソンがその脇を固め、キャロル組ならボビーを中心にキャロルとユウが支えるのだ。


 問題は部屋で戦うときだ。この点を2階の大部屋で敗退したハリソンが助言する。


「一番大変だったのが、魔物に全周囲から襲われる圧力がきついってことだった。魔物は考えなしに空いてる場所から突っ込んでくるんだが、それが逆に大変なんだ。何しろ空き場所を作るとそこから背後に回ろうとするからな。更に、陣形も何も関係なく突っ込んでくるということは、強い魔物がどこから攻めてくるかわからないってことだ。こっちが前衛を強いヤツで固めても、弱い後衛に強い魔物が襲いかかってくる可能性がある。オレたちはこれでやられたんだ」


 つまり、支援担当であるユウとハリソンも準戦力として見做せるくらい強くならないと2階の大部屋は無理なのだ。これは事実上、全周囲が前衛になるということである。


 これを念頭に6人で相談した結果、部屋ではパーティの左側をケネス組が担当し、右側をキャロル組が担当することになった。それぞれ、前衛がケネスとボビー、中衛がジュードとキャロル、後衛がハリソンとユウである。これで中衛が少し外側に膨らむことで円陣を組むのだ。


 3階を見据えての陣形ができあがると、ユウたち6人は早速魔窟ダンジョンへと入る。


「とりあえず連係の調整と陣形の確認からだな。ユウ、どこに行きゃいいんだ?」


「最初は魔窟ダンジョンの西側にしよう。あそこなら東側よりも魔物の数が少ないし」


「それで慣れたら東側ってわけか。よし、それじゃ行こうか!」


 助言を受けたケネスが宣言すると大きな手ビッグハンズの一行は移動を始めた。


 最初に活動を始めた場所は小鬼ゴブリンが最大で10匹程度出てくる魔窟ダンジョンの2階だ。通路はもちろんのこと、部屋でも簡単に対応できた。


 あっさりとした手応えにジュードが感想を漏らす。


「思ったよりも簡単だな。それとも魔物の数が少なすぎたか?」


「連係の確認にはちょうどいいじゃないか。終始こっちのペースで戦えるんだから」


「この状態が続くようなら、この辺りの大部屋に挑戦してみるか。キャロルはどう思う?」


「この辺りの大部屋だと20匹から25匹くらいだった? 出てくるのは小鬼ゴブリン小鬼長ホブゴブリンとなると、いけそうな気はするねぇ」


 普段慎重な意見が多いジュードとキャロルも乗り気になっていた。


 話を聞いていたケネスが嬉しそうに口を挟んでくる。


「だったら今から行ってみるか?」


「そうだな。どうせ大部屋に着くまでに普通の部屋も通るから、その間に更に調整すればいいだろう。ハリソン、どうだ?」


「これなら構わないと思う」


 ジュードに問われたハリソンがうなずいた。最も慎重だったメンバーが賛成したのだ。もはやためらう理由はない。キャロル側も賛意を示したことで2階の大部屋に向かうことになった。


 途中、通過する部屋や通路での戦いを通して連係と陣形の調整を繰り返しつつ、ユウたち6人は大部屋の扉の手前にたどり着く。縦2列に並んで陣形を整えた。


 扉に手をかけたケネスが振り向く。


「オレたちが3階でも通用することを示すぜ!」


 仲間の返事を背にケネスは扉を開けた。大部屋の大きさは1階と同じだが、中央で群れている魔物たちの数ははるかに多い。それらの敵意が一斉にユウたち6人に向けられた。


 室内に入ると、前衛のケネスとボビーはそのまま前に進み、中衛のジュードとキャロルは人1人分左右に広がる。後衛のハリソンとユウはそのままだ。これで円陣が完成する。

そこへ魔物の群れが突っ込んで来た。


 最初に会敵したのはケネスとボビーの前衛組だ。迫ってくる小鬼ゴブリン小鬼長ホブゴブリンの群れに戦斧バトルアックス槍斧ハルバードを叩き込む。ケネスは盾で受けつつ、ボビーは長柄を振り回しながら魔物を蹴散らした。


 しかし、魔物の数からして前衛だけでは支えきれない。渋滞した魔物たちは空いている場所へと次々に雪崩れ込もうとする。


 次に魔物たちと接敵したのはジュードとキャロルの中衛組だ。前衛を避けて襲いかかってくる。それを大丸盾ラージシールドで殴り止め、剣で斬り伏せていった。前衛のような派手さはないが非常に手堅い戦い方である。


 ここまでで結構な数の魔物を迎え撃った一行であったが、それでもまだすべての魔物を受け止められたわけではなかった。手の空いている魔物は更に空いている奥へと回り込もうとする。


 そんな魔物たちを待っていたのがハリソンとユウの後衛組だ。これまででかなり減ったとはいえ、それでも何匹もいる魔物に斬りかかる。


「あああ!」


 盾を持たないユウは魔物の攻撃を避けつつ短剣ショートソード小鬼長ホブゴブリンの首を切り裂いた。その脇から突っ込んでくる小鬼ゴブリンは一旦殴って止めてから斬り伏せる。キャロルを支援する余裕はないが1人でなら戦える数だ。


 一方、ハリソンも似たような状態だった。短剣ショートソードで魔物の足を止めてからとどめを刺している。


 全体的に見るとユウたち6人は充分戦えていた。さすがにあっさりというわけにはいかないが有利に戦いを進めている。そうして、圧倒されていた数がある程度減ると魔物の圧力は急激に衰えていった。


 時間はかかったものの、6人は大部屋の魔物をすべて倒しきる。終わってみれば特に危機を迎えることもなく、最後まで戦えたのだ。


 ただし、誰もが普通の部屋とは違って疲労の色を濃くしていた。戦闘直後は全員がその場に立ち尽くす。


 最初に口を開いたのはケネスだった。振り向いて仲間たちに声をかける。


「やったな! オレたちでもやれるじゃねぇか!」


「1度に相手をする数が多くて大変だったが」


「それでも捌ける程度だっただろ。ジュード、これなら3階に行けるぜ!」


「まぁ待て。他のみんなの話を聞いてからだ。キャロル、どうだった?」


「この数までならいけそう。それ以上だと厳しいねぇ、特に連戦は。ボビーは?」


「おれは大丈夫だった。けど、なんにも考えずに戦うならだけど。数がもっと増えて周りのことも気にしながらってことになると難しい」


 戦いの感想を求められたキャロルとボビーが自分たちの状態を伝えた。現状ではここが限界だと2人とも主張している。


 うなずいたジュードは続いてユウとハリソンへと目を向けた。全員が注目する中、ユウが先に口を開く。


「僕もこの数が限界かな。東側の犬鬼コボルトの方だと厳しいと思う。こっちよりも数が多いっていうのもあるけど、あっちの魔物の方がすばしっこいから」


「オレもだ。犬鬼コボルトほど走り回られたらこの数でも厳しくなる。あるいは、もっと強い魔物が現れてもきつい」


 メンバーの話を聞いたケネスは微妙な表情を顔に浮かべた。ジュードへと顔を向けると何とも言えない顔をしている。


「現状までならどうにかなるがそれ以上は厳しい、か。工夫すれば3階でもやっていけるんだろうが、このままだと厳しそうだな」


「ちぇ、もどかしいぜ。となると、もっといい装備に変えたらいけるのか?」


「そういう底上げはもちろん必要だろうが、もっと連係を密にする必要があるのかもしれないな」


「あー、メンバー2人を入れた上に陣形もガラッと変えたもんな。そうなると、当面はあっちこっちの大部屋に殴り込んで鍛えるのが一番か」


「乱暴だがそれがいいだろう。その間に各メンバーが自分の装備を充実させれば、いずれ3階に行けるんじゃないか」


「かぁ、やっぱもどかしいぜ!」


 渋い表情をしたケネスが不満を吐き出した。しかし、今は無理であることは本人にもわかっているのでそれ以上は口にしなかった。


 ユウの心情としては充分に稼げるのなら2階で活動し続けるのでも構わなかったが、3階に行きたいという希望も一応ある。何より、出現する魔法の道具というのを見てみたいのだ。


 一通り話し終えるとユウたち6人は床に落ちている魔石を拾い上げた。大半が屑魔石だが中には小魔石もちらほらある。


 更なる稼ぎを期待してユウはそれらを麻袋の中に入れた。

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