新メンバーの歓迎会

 4人パーティでの連係の調整を一段落させたユウたちは魔窟ダンジョンから出てきた。稼ぎはいつもより少ないがそれ以上のものを手に入れたので全員笑顔である。


 その中でもユウは最も安心している1人だ。メンバー間の連係だけでなく、短剣ショートソードを手に入れたことで攻撃力不足の解消ができそうだからだ。そのために今日の稼ぎを仲間に譲ることになったが我慢である。


「今日の仕事はこれで終わりだ! 酒場に行こうぜ!」


「今日はハリソンの歓迎会も兼ねてるから派手にいこうか」


「ジュードがそんなこと言うなんて珍しいじゃねぇか。今晩は楽しくなりそうだな!」


 パーティの中心であるケネスが景気の良い声を上げた。ジュードも同調している辺り順調に物事が進んでいる証拠だ。


 向かうはすっかり馴染みとなった安酒場『黒鉄の酒樽亭』である。テーブルの一角を占めると4人が早速注文を始めた。


 給仕女が最初に木製のジョッキを持ってくると、手に取った全員がそれを突き上げる。


「みんな良くやってくれた! 今俺たちはいい感じで進んでる! ハリソンも正式に入ってくれたことだし、この調子でガンガン行こうぜ!」


「戦力としてあまり当てにならないと自分で言っていたが、なかなかどうしてうまく魔物を捌いてるじゃないか。俺もおかげで助かってる」


「ケネスとジュードにそう言ってもらえると嬉しいね。昨日まではこれからどうしようかと困ってたからな」


 うまそうに木製のジョッキを傾けたハリソンが大きな息を吐き出した。運ばれてきた肉の盛り合わせから豚の切り身を摘まんで囓る。


「実際、いくつかのパーティに声をかけて、戦力として不足してるからって断られてたからな。正直なところ、焦ってたんだ」


「そこのパーティに合わなかっただけなんだろうぜ。現にうちだとちゃんとやれてるし」


「みたいだな。まぁ、ケネスがいきなり話しかけてきたときは驚いたが」


「はっはっは、オレはいつもあんな感じだからな!」


「そうだな、今日1日でよくわかったよ」


 苦笑いしつつも肉を食べるハリソンにケネスは堂々と言い切った。隣でジュードが呆れているが気にしていない。


 それまで黒パンとスープを食べていたユウは黒パンを食べきると口を開く。


「でもやっと4人揃ったよね。僕なんか最初1人でこの町にやって来たから、そのときのことを考えると大した進歩だよ」


「ユウって前に誰かと組んでたんじゃなかったのか? ジュードも聞いてたよな?」


「ああ、そう聞いてたな」


「その人はここの貧民街出身なんだ。当時はまだ魔窟ダンジョンに入ったことがなくて、僕が声をかけて臨時パーティを組んで一緒に入ったんだよ」


「臨時パーティ? ということは、それを解消して1人になったってわけか」


「うん、相手の人が同じ貧民街の仲間と一緒にパーティを結成することになったから」


「あーなるほどなぁ」


 尋ねていたケネスが何ともいえない表情を浮かべた。仲間との繋がりは重要だということをよく知っているからだ。


 話を聞いていたハリソンが口を挟む。


「ユウはそれについてどう思ってるんだ?」


「そういう理由なら仕方がないと思っているよ。僕も故郷だと貧民街に住んでいたから事情は理解できるし。まぁ、ちょっと残念だとは思ったけれどね」


「どこも似たようなものだな」


「ハリソンはここの貧民街の出身だっけ?」


「そうだ。前のパーティはみんなそのときの友達だったんだがな」


「ああ、それは」


「生き残った連中とは喧嘩別れしたわけじゃないから、そこまで深刻に考えてはいないよ」


「ということは、ハリソンも仲間に呼ばれる可能性はあるの?」


「どうだろうな。あいつら、別のパーティに入ったからそっちでうまくやるんじゃないかな。オレを呼ぶ可能性は、どうだろう?」


 少し悩んだハリソンが首を傾げた。どうやら本当にわからないらしく、話が疑問形のまま続かない。


 そんなハリソンを見ていたケネスが噛んでいた鶏肉を飲み込むと話しかける。


「暗い話はその辺でいいだろ。それより、2階がどんな所なのか教えてくれよ、ハリソン」


「2階か。魔窟ダンジョンの造りは1階とまったく同じだったな。魔物は部屋だけじゃなく通路にも現れる。魔物の数は1階の3倍かな。大部屋は2倍弱くらいか」


「それはなかなか凄そうだな! 魔物はどんなやつが出てくるんだよ?」


「実は1階とあんまり変わらない。小鬼ゴブリン犬鬼コボルトが中心だ。けど、小鬼長ホブゴブリン上位犬鬼ハイコボルトなんかが混じってる」


上位犬鬼ハイコボルトかぁ、見たことねぇな」


「見た目は犬鬼コボルトと変わりないんだが、あいつらより大きいんだ」


 それからケネスとハリソンの魔物談義が始まった。戦うことに対して積極的なケネスは目を輝かせてハリソンに話をせっついてくる。反対に、ケネスは知っていることは思い付くままに喋った。


 その傍らで薄切りの豚肉を噛んでいたジュードがユウに顔を向ける。


「ユウ、魔窟ダンジョンで拾った短剣ショートソードは使えそうか?」


「どうにか。久しぶりに剣を手にしたんで最初は戸惑ったけど今はかなり慣れた、というより思い出した。切ったり突いたりできるのは便利だよね」


槌矛メイスだと殴るだけだからな。攻め方に幅が出るのは当然だろう。ということは、2匹相手でももう大丈夫なのか」


「大丈夫だよ。ただ、きちんと手入れをしたらもっと切れ味が良くなるんだけどな」


「宿に戻ったらやったらいい。俺のも手入れをする必要があるから一緒にやるか」


「いいね。そうだ、剣の手入れの仕方を教えてほしい。一応やり方は知ってるけど、剣使いの人はどうやっているのか知りたいんだ」


「いいぞ。それじゃ、明日やろうか」


「明日は休みにするの?」


魔窟ダンジョンに入るのを昼からにしよう。ケネスの戦斧バトルアックスもそろそろしっかり手入れをするべきだしな」


「大部屋に挑戦する前にはやっておきたいよね」


「まったくだ」


 木製のジョッキに口を付けたジュードがケネスに視線を向けた。楽しそうにハリソンと話している相棒の姿が見える。


 一旦言葉を切って口に物を入れたユウもケネスに顔を向けた。いつの間にか魔物の話から魔窟ダンジョン全体の話に変わっている。


「3階に行くと不意打ちされることがあるのかぁ。やっぱり後ろから襲ってくんのか?」


「それが一番多いとは聞いてる。下手をすると通路で前後を魔物で挟まれることになるから相当危ないらしい」


こえぇなぁ」


「同感だね。3階で活動してるパーティの冒険者はみんな一流だ。それくらいになるとみんなかなり金回りがいいらしいから、装備も上等なやつばかりだな」


「羨ましいねぇ! なぁ、ジュード!」


「そうだな。ちまちまカネのことを考えて準備するよりも、パッと使って充分用意できる方がいい。ただ、すぐにそんなことはできないから、俺の当面の目標は宿の個室だね」


「1人1部屋か? 豪勢だなぁ」


 ジュードの近い目標を聞いたケネスが感心したようにうなずいた。そうして牛肉を手に取ると大口を開けて突っ込む。その豪快な食べ方にハリソンが目を剥いた。


 同じようにその様子を見ていたジュードが思い出したようにケネスへ話しかける。


「ケネス、武器の手入れをしたいから、明日は昼から魔窟ダンジョンに入ろう」


「ん? へいれ?」


「口の物を飲み込んでから喋れ。で、手入れで合ってる。特にお前は最近やってないだろう。とりあえず適当に布で拭いてるだけなのは知ってるんだぞ」


「うっ」


「俺のもそろそろしっかり手入れしたいし、ユウも魔窟ダンジョンで見つけた剣をきちんと使えるようにしたいと言ってる。一緒にお前の戦斧バトルアックスもやってしまおう」


「んぐっ、はぁ。わかったよ、いずれはやらなきゃいけねぇしな」


 一瞬喉を詰まらせたかのように見えたケネスが口の中の肉を無理矢理飲み込んでからうなずいた。


 そこへスープを飲んだユウが口を挟む。


「武器の手入れが終わったら、昼からは大部屋に行くんだよね。そのための準備だと思っているんだけど」


「なるほど、大部屋に挑戦するための準備か。そりゃしなきゃいけねぇな!」


「そうでしょ。ハリソンはどうするの?」


「手入れはこの前やったばっかりなんだ。簡単な点検くらいはするつもりだが」


「なら、僕とケネスとジュードの3人が武器の手入れをするんだね。冒険者ギルドの2階の打合せ室を使おうかな」


「ああ、そんなところもあったなぁ。オレはほとんど使ったことはないが」


「なんだそれ?」


「冒険者ギルドが僕たちに提供している部屋だよ。文字通り話し合いに使う場所なんだけど、僕は昼ご飯を食べたり他の作業をしたりするときに使っているよ」


「マジかよ」


 初めて知ったというケネスが目を見開いた。ジュードも興味深そうにユウへと顔を向ける。唯一興味なさそうなのはハリソンだけだ。


 その後、酔った勢いで脱線しながらも冒険者ギルドの打合せ室で武器の手入れをすることに決まる。その後は再び楽しい宴に戻った。

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