4人パーティでの最適化

 新たなメンバーを迎え入れた大きな手ビッグハンズは翌日早速4人で魔窟ダンジョンに入った。小鬼ゴブリン3匹ではもはや相手にならないので隠し扉の向こう側へと向かう。


 魔物のいる部屋までユウが地図を見て誘導する間、パーティメンバーでの会話が弾んだ。特にケネスが嬉しそうである。


「これでようやくメンバーが揃ったな! うまくいったらすぐに2階だぜ!」


「ケネスは2階にこだわるな。何かあるのか?」


「2階の方が稼げるって聞いてるからだよ。実際そうなんだろ?」


「確かにそうだが、充分準備をしないと危ないぞ。それでもダメなときはダメなんだが」


「儲けが大きい分、危険も大きいのは当然だろ。なぁに、このメンツならやっていけるって! 心配すんな!」


「ジュード、ケネスのこの自信はどこから湧いてくるんだ?」


「湧いてくるんじゃない。何も考えていないだけだ。気に入らないなら聞き流せばいい。俺はそうしてる」


「ひっでぇなぁ」


 ユウの後ろを歩くケネスが苦笑いした。ジュードの言葉を聞いても気にした様子もない。


 やがて周囲から他の冒険者の姿が消え、目の前に空いていない扉が現れた。地図を腰の麻袋にしまったユウが振り向く。


「ここから魔物がいるはずだよ。みんな準備して」


「よっしゃ、任せろ!」


「ユウ、ハリソン、最後の確認だ。先頭がケネスで俺がその背後、2人は俺の斜め後ろについてきてくれ。まずはこの形で戦えるか確認したい」


「わかった。オレはあんたの左後ろだな」


「僕とハリソンは牽制中心、倒せたら上等だっけ。ハリソンの手斧ハンドアックスの方が早く倒せる可能性があるんだよね」


「武器の方はそうなんだが、使うオレの腕力がな。ま、牽制くらいはできるよ」


 それぞれ武器を手にした4人が自分の位置に立った。先頭のケネスが扉を開ける。


 正方形の部屋の真ん中に今や見慣れた魔物が6匹立っていた。その姿を認めた途端にケネスが走り出す。ジュード、ユウ、ハリソンもそれに続いた。


 散開して襲いかかってくる犬鬼コボルトに対してケネスは真っ正面から突っ込んだ。これと狙った1匹に真っ向から戦斧バトルアックスを叩きつける。短い悲鳴を上げた犬鬼コボルトはそのまま体を床に叩きつけられた。


 続いてジュードがケネスを左側から襲おうとした犬鬼コボルトの鼻面に大丸盾ラージシールドを叩きつける。その1匹はもんどり打って床に倒れるが、それには目もくれず更に隣の1匹を長剣ロングソードで切り捨てた。


 それとほぼ同時にハリソンも1匹の犬鬼コボルトと対峙する。勢いよく突っ込んで来たそれを躱し、後ろに抜ける寸前に首筋へと手斧ハンドアックスを叩きつけた。短い悲鳴を上げたその1匹はそのまま床に転がる。


 最後にユウは2匹と向かい合っていた。ほぼ同時に襲われたために先に突っ込んで来た1匹の顔を槌矛メイスで真正面から殴りつける。その勢いそのままに自分は横に体をずらし、後から噛みつこうとした1匹の攻撃を躱した。最初の1匹は鼻を押さえて床にうずくまる。


「あああ!」


 迷わずユウはダガーを引き抜いて痛みで動けない犬鬼コボルトの首筋に突き刺した。無抵抗のそれが弱々しい声と共に倒れる。急いでダガーを引き抜くと残る1匹へと顔を向けた。すると、既にケネスがその1匹の脳天を叩き割っているのを目にする。


 他の2人にユウが目を向けると同じように戦いを終えていた。どちらも魔石を拾っているのを見てユウもそれに倣う。


「みんな早いなぁ。ハリソンもちゃんと倒せてるじゃない」


「正面の1匹だけだったからな。2匹相手だともっと時間がかかってたよ。ユウも1匹倒したのか」


「うん。ただ、槌矛メイスだけで倒すのは時間がかかるからダガーも使っているんだ。やっぱり刃物で刺すと短時間で終わるよね」


「だったら、剣に乗り換えるのか?」


「どうしようかな。別に悪くないんだけど。もうこれに慣れちゃったからなぁ」


「試したいんなら、出現品が出たときに引き取ったらいい。あれなら店で買うよりずっと安くて済むから合わないと思ったらすぐに捨てられる」


「なるほど。いい案だね、ハリソン」


 面白い提案を受けたユウが乗り気になった。1階で出る低品質な剣の換金額を思い出す。今の懐具合なら痛い出費だが充分支払える金額だ。


 ユウとハリソンが話をしているとケネスが割り込んでくる。


「2人とも、なかなかの動きだったじゃねぇか。どうだ、いけそうか?」


「オレは平気だぞ。最近まで2階で活動していたんだ。このくらいは何ともない」


「2匹同時に仕留めろって言われたらきついけど、今みたいな感じなら僕も大丈夫かな。あくまでも牽制中心でいいんだよね?」


「それでいいぜ。オレとジュードがすぐに駆けつけてやるからな!」


「威勢がいいのは結構なことだがな、魔石はきちんと拾っておいてくれよ、ケネス」


「うっ、わかってるって。そんな目で見るなよ、ジュード」


 半目を向けられたケネスは顔を引きつらせてジュードに弁明した。たまに魔石を拾い忘れることがあるのでいつも小言を言われるのだ。


 話をしている間に再び地図を腰の麻袋から取り出したユウが仲間に声をかける。


「それじゃ、しばらくはこの辺りを巡っていくってことでいいのかな?」


「オレはいいぞ。もう何度か戦ってみんなとしっかり連係したいからな。特にジュードは直接関わることが多そうだからよく知っておきたい」


「確かに。俺もハリソンはよく知っておきたいな」


「オレは今日中に大部屋にも行きてぇな。これならやれる気がするんだよ。ジュード、どう思う?」


「行くにしても少し間を開けないと。今も言ったが、4人の連係をもっとしっかりとさせてからでないと危ない。これの倍以上の数を相手にするとなると焼き付け刃の連係では無理だろう」


「あー、まぁそりゃそうか」


 今まで元気が良かったケネスはジュードに反論せずに黙った。思い当たる節があるらしく、しょんぼりとする。子供のように表情の変化が激しい。


 そこへユウが口を挟む。


「大部屋だけど、行くなら小鬼ゴブリンの方にしよう。犬鬼コボルトの方は今の僕たちだと少しきついと思う」


「なんでだよ? そんなに変わんねぇだろ」


小鬼ゴブリンの方は全部で10匹から15匹くらいだけど、犬鬼コボルトの方は20匹を超えるみたいなんだよ。描き写した元資料にそう書いてあったんだ」


「魔物の数に差があるのかよ。なんでまた?」


「理由までは書いてなかったけど、たぶん普通の部屋に出てくる魔物の数が影響しているんじゃないかな。普通の部屋だと小鬼ゴブリンは3匹で犬鬼コボルトは6匹だから」


「なるほどな。20匹以上はさすがにきついな」


 しょんぼりとしていたケネスがユウと話しているうちに目つきが真剣なものに変化した。さすがに冒険者だけあって目の前の危険性については敏感だ。


 2人の話を聞いていたジュードが口を開く。


「ならこうしよう。連係を滑らかにできるようになるまではこの辺りで戦って、いけると自信が持ててから小鬼ゴブリンの方の大部屋に行こう」


犬鬼コボルトの方はどうすんだよ?」


小鬼ゴブリンの大部屋に慣れてからでいいだろう。急いで行く必要はないが、逃げ回る理由もないからな。2階に上がるためにも1度はそっちの大部屋に入っておきたい」


「だよな! よし、それで行こうぜ!」


 再び元気いっぱいになったケネスが声を上げると全員がうなずいた。


 それからユウたち4人は犬鬼コボルトが6匹現れる部屋を回る。ハリソンが慣れるに従って4人の連係は円滑になり、魔物と戦う時間も短くなっていった。


 その中で、ユウは自分の打撃不足が顕在化していくのを自覚する。巨漢の腕力にものを言わせて一撃で叩き潰せるならばともかく、一般的な体格の腕力ではどうしても魔物相手だと手間がかかってしまうのだ。今はダガーを使ってしのげているがいずれ限界が来るのは目に見えている。


 そんなとき、ユウの脳裏にハリソンの提案が浮かび上がった。剣の出現品を引き取るのだ。品質は低くても1階で通用するのは知っている。


 何度目かの戦いが終わった後、ユウは自分が倒した魔物の魔石を拾い上げた。ちょうどそのとき、ケネスから声がかかる。


「お、剣が出てきたな! ユウ、お前これを使うか?」


「出てきたの? うわ、本当だ」


「質はやっぱりよくねぇが、試しに使うんならいいんじゃねぇの。っていうか、剣なんて使えるのか?」


「まぁ一応は」


 短剣ショートソードを手にしたユウはそれを構えた。そこからかつて習った型を一通り再現してみる。体は覚えていたようで滑らかに動けた。


 それを見たジュードが感心する。


「ほう、意外に慣れてるな。案外いけるんじゃないか?」


「ジュードが褒めるのか。こりゃ期待だな!」


「実際に使ってみて慣れないとね。あとは手入れをしっかりしたら割と保つかな」


 あまり期待できない品質の武器とはいえ、それでもある程度は何とかできる術をユウは知っていた。本職の職人ではなくてもできることはあるのだ。


 手にした剣を見ながらユウはうなずいた。

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