パーティの正式メンバー

 魔窟ダンジョンの探索を切り上げたユウたち3人は外に出た。空は半分以上が黒く染まっており、周囲はかなり暗くなっている。


 換金所で魔石と出現品の換金を終えたユウたち3人は門を潜って冒険者の道を南へと歩いた。目指すは冒険者の歓楽街である。


「いやぁ、終わった終わった! 終わりなき魔窟エンドレスダンジョンっていうからどんな所だと思ってたけど、案外チョロいな!」


「1階はな。さすがに小鬼ゴブリン3匹が相手だとあんなものだろう」


「しかし、1日の成果が全部で銅貨7枚かぁ。微妙だな」


「充分な成果だと思うが、思っていたほどではないな。このくらいの額なら他の場所でも稼げてた。ユウ、実際のところはどうなんだ?」


 計りかねたジュードがユウに顔を向けた。もっと稼げると期待していたらしい。


 少し苦笑いしつつもユウは2人に語る。


「まだ慣れていないからですよ。もっと効率良く魔窟ダンジョンを回れるようになったら収入は増えます。僕が前に駆け出しの人と活動していたときはこれの3分の2くらいでしたけど、この3人だともっと稼げますよ」


「やっぱそうか。楽しみだな!」


「まぁ今日は肩慣らしと確認みたいなのだったからな。次に期待か」


 話を聞いた2人はユウの説明にうなずいた。ケネスなどは目を輝かせている。


 歓楽街に差しかかるとユウは路地に入った。周囲を見ながらケネスが尋ねる。


「ところでユウ、今からどこに行くんだ?」


「僕がよく行く酒場ですよ。安いところで、『黒鉄の酒樽亭』っていうところです。駆け出しの冒険者が多いところなんですよ」


「安酒場か。ま、今日の稼ぎだとそんなところかな」


「いくらか蓄えはあるが、そう簡単に使いたくはないからな。妥当だと思う」


「オレはうまけりゃ何でもいいけどな!」


「お前はエールが飲めたら何でもいいからな。何しろ腐った肉を食っても腹を壊さないくらい丈夫なんだ。羨ましいよ」


「ばかやろう、オレをなんだと思ってるんだ。前に食ったやつは腐りかけだろうが。しかもちゃんと焼いたんだから問題ねぇ」


「焼けたときの臭いがひどかったあれを問題ないっていう時点で問題なんだ」


 ケネスとジュードが気になる話をしているのを聞きつつ、ユウは安酒場『黒鉄の酒樽亭』へと2人を連れて入った。開いている丸テーブルを見つけて荷物を脇に置いて座る。


「いらっしゃい。あらあんた、今日はお友達を連れてきてくれたの? 嬉しいわね」


「臨時メンバーとして入れてもらったんですよ。それで、エール1つと黒パン3つ、スープに肉の盛り合わせをください。2人はどうします?」


「オレもエール! 2杯だ!」


「俺もエール1杯と黒パン1個、スープに肉の盛り合わせだ」


「ジュード、肉の盛り合わせはユウが頼んでるぜ?」


「俺が頼んだのはお前専用の分だ。ひたすら肉とエールばっかりだろう」


 相棒に指摘されたケネスは嬉しそうに頭を掻いた。その間に代金を支払う。


 給仕女が去るとユウたち3人は改めて向き合った。まだジョッキすら届いていないので手持ち無沙汰であるが話は途切れない。


 最初に切り出したのはケネスだ。ジュードに目を向けて口を開く。


「さてと、メシの前に片付けておこうぜ。ジュード、ユウはどうだった?」


「俺は良いと思う。小鬼ゴブリン3匹ばかりだと計りかねるところはあるが、それでも俺たちの邪魔にならないように立ち回れるというのは悪くないからな」


「だよな。オレがユウを意識せずに戦えて、ジュードが邪魔じゃないって思えるんだから立ち回りはうまいと思うぜ。ああいう戦い方は慣れてんのか?」


「2年ほど冒険者として修行していたときに先輩から教えてもらったんです」


「へぇ、修行か。オレたちそういうのなかったよなぁ?」


「お前は完全に我流だが、俺は一時期習っていたぞ」


「マジで!? いつそんなことやってたんだよ?」


「駆け出し前後の頃だ。時間のやり繰りがきつかったが、あれは習って正解だった」


 目を剥いて驚くケネスにジュードがすました顔で答えた。隠し事がないように見える2人だが、ケネスは色々と見えていないところはあるようだ。


 話をしていると給仕女が木製のジョッキを運んできた。料理はすぐに持ってくると伝えてまた離れていく。


 木製のジョッキを手にしたユウたち3人はすぐにお互いのジョッキをぶつけ合った。それから口を付けて傾ける。


「っあぁ! いいねぇ、この1杯のために生きてるってもんだ! さて、後は肉だな」


「ああ落ち着く。っとそうだ。ユウの件がまだ途中だったな。俺は正式に入れてもいいと思うぞ。宝箱の罠の解除は俺たちじゃできないしな」


「そうなんだよな! ユウは今回初めて宝箱の罠を解除したんだっけ? その割には慣れた手つきに見えたが」


「冒険者ギルドの職員に特別に教えてもらったんですよ。それで散々練習した結果です」


「ここのギルドってそんなことも教えてんのか?」


「普通は教えていないそうです。だから特別だって言ったんですよ」


「はー、どうやってそんなこと教えてもらったんだよ?」


「宝箱の罠を解除する方法を教えてくださいって頼んだら教えてくれましたよ」


「なんだそれ? あんな盗賊まがいの技術わざをそんな簡単に教えてくれるもんなのか?」


「隣にいた別の職員はケネスと同じように驚いていましたけど」


「だよなぁ。怪しい職員だぜ」


「おいケネス、話が脱線してるぞ。ユウを正式メンバーにするかどうかどうするんだ?」


「ああ? そんなのメンバーにするに決まってんだろ。オレが最初に声をかけたんだぜ?」


「だそうだ。これからよろしくな、ユウ」


「はい、こちらこそよろしくお願いいたします!」


 会話が迷走しつつもユウは大きな手ビッグハンズのメンバーとして認められた。ようやくしっかりとした居場所が確保できたことを喜ぶ。


 その間に給仕女によって次々と料理が運ばれてきた。黒パン、スープ、肉の盛り合わせなどだ。3人とも一旦木製のジョッキを手放すと料理に手を付ける。


 空になった木製のジョッキからもう1杯へと切り替えたケネスが給仕女にエールを追加注文した。それからすぐにユウへと向き直る。


「よし、これで決まりだ! ところで、ユウ、前から気になってたんだが、随分と堅苦しい喋り方をするんだな。別に普段通りでいいんだぜ?」


「そんなに堅苦しいですか? うーん、それじゃ、こんな感じでいいの?」


「お、そうそう。同じパーティメンバーなんだ。遠慮するこたぁねぇからな」


「その意見は俺も賛成だな」


 うなずく2人の言葉を聞いたユウは更に機嫌が良くなった。かつて貧民街で暮らしていたときのことを思い出す。あのような温かい場所が得られるのならばそれは幸せなことだ。


 スープを掬った黒パンを噛みちぎったユウはそれを飲み込んで息をつく。


「それにしても、戦い方が決まって良かった。後は慣れるまで繰り返し練習するだけだよ」


「だな。オレは慣れたら2階に行きたいな。1階は歯ごたえがなさ過ぎる。それに、2階の方が稼げるんだろ?」


「確かにその通りだけど。2階かぁ。考えたこともなかったな」


「おいおい、向上心がないのはダメだろ。もっと夢を持たなきゃな!」


「もしかしてパーティ名の大きな手ビッグハンズって、大きな夢をつかみ取るとかそんなところから来てるの?」


「その通り、よくわかったな!」


「違うだろう。大金を手に入れたいっていう理由だったじゃないか」


「それも夢の1つだろ。ジュードにだってなんかあったよな」


「俺はもっと稼いで個室のある部屋に泊まりたい」


「なんだよちっせぇなぁ」


「うるさい。だったらお前は大金を使って何をするんだ?」


「そりゃ、うまい酒と料理を食うに決まってるだろ」


「大して変わらないぞ」


「そんなことねぇって」


 突然ケネスとジュードで言い合いが始まったことにユウはうろたえた。後でいつものことだと教えられたが、今はまだそのことを知らない。


 どうにかしようとしてユウは口を開く。


「ところで、2人はどこから来たの? 僕は西の果てにあるアドヴェントの町からやって来たんだ」


「どこだそれ? 初めて聞くな。ジュード、知ってるか?」


「いや、俺も知らない」


「チャレン王国のトレジャー辺境伯領にあるんだけど、誰も知らないって言うんだよね。古代遺跡の中で変な魔方陣を踏んでここに飛ばされちゃったのが運の尽きなんだけど」


「おいおい待てよ、なんだその面白そうな話は。聞かせろよ!」


 言い争っていたケネスが体ごとユウに向き直って顔を突き出してきた。ジュードも興味ありげだ。


 そこでユウは自分が故郷を出てここまでやって来たことを話し始める。各地の町、それを繋ぐ街道、そして森の中の古代遺跡についてケネスとジュードは夢中になって聞いた。


 話が終わるとユウは2人から質問攻めに遭う。この後の話題はユウが独占したが、その代わりかなり疲れることになった。

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