情報の交換と連係の確認

 突然声をかけられていきなり臨時メンバーに採用されたユウは目を白黒とさせた。つい先程まであれほど苦労していたのが嘘のような流れだ。


 新たな仲間に喜んでいるケネスが声を上げる。


「よし、それじゃ魔窟ダンジョンに行こうぜ!」


「中がどうなっているのか俺も知りたい。ユウ、歩きながら色々と話を聞かせてくれ」


「わかりました。冒険者ギルドで教えてもらったことも含めて話しますね」


 新たなパーティに参加できたことを喜ぶユウは3人で原っぱから出て魔窟ダンジョンを目指した。その間に説明を始める。


 話す内容は初心者講習と魔窟講習の内容が中心だ。まずは基本的なことから理解してもらい、次第に魔窟ダンジョンのことについて詳しく話す。


 どちらもケネスもジュードも経験のある冒険者なので飲み込みは早い。やり取りしながら終わりなき魔窟エンドレスダンジョンについてすぐに理解を深めていく。


 ただ、入口から通路に入った途端に周囲の声が乱反射して聞き取りにくくなったのには3人とも困った。とても説明を聞ける状態ではない。


 最初の部屋に入るとユウが大きめの声で他の2人に話しかける。


「もっと周りの人が少なくなってきたら説明を再開します」


「そうしてくれ。うるさいな、ここ!」


「これだけ人がいるんだ。仕方ない」


 少し顔をしかめたケネスとジュードを率いてユウが脇の通路へと入った。地図を見ながら慣れた様子で歩く。最初の部屋から西側はいつも足を踏み入れているので迷いがない。


 しばらく進むとユウは立ち止まった。とある部屋の中だ。周囲にいる人は少ない。ここでようやく振り向いて口を開く。


「この辺りならもう話をしても大丈夫ですね」


「みたいだな。それにしても人の数が多いなぁ。魔窟ダンジョンの中に人がこんなにいるなんて初めて見たぜ」


「俺もだ。これでみんな稼げるっていうんだから相当なものなんだろう」


「人が多い分だけ奥へ行かないといけないですけど、充分稼げますよ。ここからだともう少し先から部屋に魔物が出てきます」


「へへ、腕が鳴るぜ!」


「とは言っても、出てくるのは小鬼ゴブリンが3匹なんだろう。さすがに瞬殺だな」


 聞いていた説明を覚えていた2人は余裕の態度だった。確かに人数が同等ならば普通は後れを取るような相手ではない。


 新しい仲間の態度を見ていたユウは気になったことを問いかける。


「これは重要なことなんですけど、2人は普段どうやって戦っているんですか?」


「いつもはオレが前に出て戦って、ジュードがその脇を固めてくれてるぜ」


「ケネスに繊細な戦い方は期待できないから、前で思うように戦わせているんだ。俺はこいつの死角を守ったり、取りこぼしを討ち取っている」


「そうなると、僕はどうします? 主戦力になるくらいの力はないですけど」


「だったら、ジュードと同じでいいんじゃねぇの?」


「お互いの戦い方を見ないとそこはわからないな」


「わかりました。それじゃ魔物のいる部屋まで進みましょう」


 肩をすくめたジュードの意見にうなずいたユウは再び歩き始めた。


 最初に魔物の部屋に入ったとき、3人はそれぞれ1匹ずつ小鬼ゴブリンを相手にする。


 最も早く駆け出したのはケネスだ。大きな叫び声を上げながら右手の戦斧バトルアックスを振りかぶって思い切り小鬼ゴブリンへと叩きつける。


「ぅるあぁぁ!」


「ギッ!?」


 手にしたナイフで受けようとした小鬼ゴブリンは支えられずにナイフごと頭をかち割られた。首元を縦に裂いたところで戦斧バトルアックスの刃先が止まる。


 次いで接敵したのはユウだった。この魔窟ダンジョンに入って以来散々相手をしていただけにまったく危なげなく倒す。槌矛メイスで的確に叩いて仕留めた。


 最後に戦ったのはジュードである。3人の中で最も大きな体にふさわしく、右手に長剣ロングソード、左手に大丸盾ラージシールドを持って突進した。そうして小鬼ゴブリンに近づくと大丸盾ラージシールドを思い切りぶつける。


「はっ!」


「ギヘッ!?」


 ナイフごと顔面を盾で叩かれた小鬼ゴブリンは後ろによろめいた。明らかに前後不覚になっている。そんな相手の首を長剣ロングソードで両断した。


 戦闘開始直後に終わってしまった部屋の中で3人が立ち止まる。ユウは何でもないという様子で、ケネスは上機嫌に、ジュードは余裕の表情でお互いを見合った。


 最初に口を開いたケネスがユウを見る。


「これじゃ腕試しにもなんねぇな。もっと他にいねぇのか?」


「1階の敵はこの3匹が基本なんです。大部屋に行くとまた違うそうですけど、僕はまだ行ったことがないですね」


「んじゃ次は大部屋だな。これじゃ稼ぎにならんだろうし」


「ところがそうでもないんですよ。数をこなす必要はありますけど、その数さえこなせたらこれでも結構稼げるんです。だから、駆け出しの冒険者でも生活していけるんです」


「へぇ、そうなんだ。けど、他に手段があるんなら、ちまちま稼ぎたくねぇなぁ」


「気持ちはわかりますけどね。僕も可能ならたくさん稼ぎたいですし」


「だよな。どうせならこうガッツリと稼ぎてぇよな!」


 意見が同じだとわかったユウにケネスは笑みを見せた。その喜び様はまるっきり小さな子供だ。感情を遠慮なく見せてくる。


 そんなケネスに対してジュードが声をかけた。屑魔石を指で挟んで軽く振る。


「ケネス、しゃべるのはいいが最後まで仕事をするべきだ。こいつを拾わないと稼ぎにならないんだからな」


「おっとそうだった。ふーん、屑魔石ねぇ。死んで消える魔物にこいつか。不思議な魔窟ダンジョンだよなぁ、ここは」


「次は2人だけで戦ってもらえますか? どんな風に戦うのか見てみたいんで」


「よっしゃ任せろ! って言っても、こいつらだけじゃオレ1人で充分だけどな」


「でも、3匹以上が相手だとお前、たまに後ろに回り込まれるよな?」


「ジュードぉ、つまんねぇこと言うなよ」


「でもそいうときにジュードがどう動くのか僕は見てみたいですね」


「その機会はすぐにやって来るさ」


 嫌そうな顔をするケネスの横でジュードがにやりと笑った。その様子から割とよくあることだとユウは想像する。

話がまとまると3人は次の部屋へと足を踏み込んだ。魔物の数は3匹、種類は小鬼ゴブリン、手にしているのはぼろぼろの短剣ショートソードである。


 扉の前で立ち止まったユウを追い抜いてケネスとジュードが前に出た。先頭はケネスだ。真ん中の小鬼ゴブリンに駆け寄る。その両脇から残る2匹が剣を突きつけてきた。


 ところが、真正面の小鬼ゴブリンの左脇腹に戦斧バトルアックスを叩き込んだケネスはその勢いをそのままに、刃先で引っかけたその体を左の小鬼ゴブリンへと吹き飛ばす。対応しきれなかった左の小鬼ゴブリンは飛んで来た仲間の体にぶつかって倒れた。


 非常に豪快な戦い方をするケネスではあるが、その分だけ隙も大きい。体を捻ったせいで右側に背を向けたために反対側から突っ込んで来た小鬼ゴブリンに無防備となる。


 そこへ割って入ってきたのがジュードだった。剣で突き刺そうとしていた右の小鬼ゴブリン大丸盾ラージシールドごと突っ込んで吹き飛ばす。そうして倒れたところを長剣ロングソードでとどめを刺した。その間にケネスも2匹目を仕留める。


 相手が弱いということもあるが、それでも実にきれいな連係だった。ずっと見ていたユウが目を見張る。


「すごいですね。つけいる隙がないように見えました」


「だろう? へへ、何年も一緒にやってるから慣れたもんさ!」


「ケネスの癖はよく知ってるからな。そう簡単にこの連係は崩せないぞ」


「そうですよねぇ。うーん、でもそうなると、僕はどうしようかなぁ」


 次第に声を小さくしていくユウを見たケネスとジュードは顔を見合わせた。2人の中にユウを入れて3人で連係となると根本的に動きを変えないといけない。


 微妙な表情をしたケネスが口を開く。


「どうしたもんかな。ジュードがオレをサポートしてくれてるように、ユウがオレたちをサポートするのが一番なんじゃねぇか?」


「ケネス、それを言うのは簡単だがな、2人の動きを見て動くのはなかなか大変だぞ。ユウの魔物の倒し方を見てなかなかやることはわかったが、お前のいうような連係は結構高度なんだ」


「いやそりゃわかってるけどよ、オレたちに混じってってなるとそれはそれで大変だろ」


「1度ケネスの言った通りにやりましょうか。2人の中に入って3人で連係するよりかはまだやれそうな気がします」


 ケネスの提案を受け入れる発言をしたユウが2人に顔を向けられた。


 実際のところ、ケネスとジュードの言い分はどちらも正しい。慣れた2人に混じって動くのは難しいし、そんな2人を支援するべく動き回るのも高度なことだ。しかし、どちらがましかと問われればユウは後者だと答える。


 実のところ、修業時代に先輩相手にそういったことをしていたからだ。連係するときの立ち回り方も教えてもらっている。なので、ユウはケネスとジュードを支援することは可能だと考えているのだ。


 結局、ユウが引き受けることで最後はそのようになる。宝箱の解錠も任されたことで役割分担は決まった。

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