知り合いと組む
13月も後半に入ったある日、ユウは帰らずの森から帰還して休養していた。朝の間に使用する道具を整備して、更には消耗品を買って補充する。
万全となった昼下がりは特に予定もなかったので適当にぶらついた。こういうときやることのない者は本当に暇だ。ユウもその類いの人間なので単に歩き回っているだけである。
その末に冒険者ギルドの建物へとたどり着いた。結局はやるべきことに行き着いてしまうわけだ。その事実を知ってユウはため息をつく。
「う~ん、宿で寝ててもいいんだけどなぁ。ああでも、あれから1ヵ月になるのか。だったらそろそろかな」
合同パーティに参加して以来、ユウはパーティへの参加活動をしていなかった。アルフィーの言葉を信じてしばらく待っていたわけだが、頃合いと判断して冒険者ギルドの建物へと入る。
最近足を運んでいなかった室内は相変わらず盛況だった。周囲を往来する冒険者のうち、薬草採取をしている冒険者かどうかは少し見分けられるようになってきている。
しばらく眺めていたユウは目星を付けた冒険者に声をかけようとしたとき、逆に名前を呼ばれた。驚いて背後を振り向く。
「あれ、ブレント?」
「やっぱりユウか! 久しぶりだね!」
意外な人物に呼び止められたユウはその場で固まった。冒険者ギルドの建物に冒険者がいても不思議ではないが、何となく意外に感じたのだ。
ブレントに向き直ったユウが不思議そうに尋ねる。
「今日はどうしたの? 魔石採掘には行ってないんだ」
「まぁね。あれから色々あってさ。ユウの方は調子はどうだい?」
「うん、悪くはないよ。何度か死にかけたけど、何とか生きているし」
「危ないなぁ。あんまり危険なことをするようには見えないんだけど」
「結果的に危険になっただけで、自分から進んで危険な目に遭いにいっているわけじゃないよ。ブレントの方はどうなの。前の遠征で
「それがね、俺、
「え、どうして?」
「ホレスについて行けなくなったんだよ。魔石を持って帰らなきゃ金が手に入らないのはわかるけど、仲間を見捨ててまでっていうのはさすがにね」
「ということは、あの後すぐ辞めたんだ」
「実はあと1回魔石採掘に行ったんだ。そのときもちょっとあって、その後だよ」
思わぬ話を聞いたユウは目を見開きっぱなしだった。しかし、そうなると別の疑問が湧いてくる。
「だったら、今はどうしているの? また別のパーティに入ったの?」
「いや、実は1人なんだ。けど、1人だとなかなかうまくいかなくてね。特に襲われたときや夜の見張りなんかがきつくて」
「あーうん、わかる。きついよね、あれ。でも、この町に来たばかりのときはすぐにパーティに入れたのに、今回は時間がかかってるじゃない。帰らずの森で活動している経験があるんなら他のパーティに入るのは難しくないんじゃないの?」
「それが、そう簡単じゃないんだ」
言いにくそうにしているブレントの姿を見たユウは首を傾げた。言えないことがあるのは誰でも同じだが、ブレントの態度は少し違うように見える。
ユウがじっと待っているとブレントがため息をついた。それから口を開く。
「実は、俺の悪い噂が流れているんだ。知らない?」
「魔石採掘の冒険者の話は聞かないなぁ。薬草採取の方だと少しは耳にするけど」
「もっと色々と聞き回った方がいいよ。知らないなら言うけど、俺が仲間を見捨てる人でなしって噂なんだ」
「なにそれ? なんでそんな噂が流れるの?」
「推測だけど、恐らくホレスが言って回ったんだと思う。さっきパーティを抜けたって言ったろう? あの直前、動けない仲間を森の中で見捨てるのは良くないってホレスに言ったんだ。そしたら散々喚き散らされてお前はクビだって追い出されたんだけど、俺とホレスの立場を逆にして噂を流されているんだよ」
「それはひどい。でも、みんなそんな簡単に信じるんだ」
「最近のホレスは落ち目でみんなあんまり信じなくなってるみたいなんだけど、そこで問題を起こした奴をわざわざ仲間にしたくないっていう反応ばかりなんだ」
「ああ、厄介者扱いなんだ」
知らない間に知り合いが苦境に陥っていることにユウは眉をひそめた。冒険者ギルドに所属する冒険者は他にいくらでもいる。判断がつかない人物よりも確実に身ぎれいな者を迎え入れたいと思うのは人情として当然だ。
事情を知ったユウは考え込む。ブレントがひどい人物ではないことは信じられる。ならば、まだ他のパーティに入れてもらえるあてがない自分と組むのはどうだろうか。
良い案のようにユウは思えた。そのうちほとぼりが冷めるだろうし、仮にユウまで悪く言われるようなら町を出て行けばいい。それよりも当面の仲間が必要だ。
軽くうなずいたユウはブレントに話しかける。
「実は僕もまだ1人のままなんだ。1度いいところまでいったんだけど駄目になってね。しばらくあてもないままだし、どうせなら一緒に仕事をしない?」
「そりゃ嬉しいけど、俺と一緒だとなんて言われるかわからないよ?」
「別にいいよ。それでどうにもならなくなったら、そのときはそのときだ。それより、今1人で活動しているけどきつくてね、何とかしたいと思っていたところなんだ」
「ありがとう! 嬉しいよ! これで森の中でも安心して眠れるってもんだ!」
「やっぱり考えることは同じだね」
飛び上がって喜ぶブレントを見てユウは苦笑いした。余程困っていたらしく喜びようが激しい。
新しい仲間の興奮が収まるのを待ってユウは話を続ける。
「ところで、組むのはいいんだけど、僕は薬草を採取している。でも、ブレントは魔石を採掘しているよね。普通はどちらか一方に合わせるべきなんだろうけど」
「とはいえ、俺は薬草のことは何も知らないしなぁ。でも、ユウに魔石を採れっていうのも何だし」
「先月の合同パーティのときは魔石採掘のパーティに僕たち薬草採取のパーティが参加したよね。あれと同じことをパーティ内でやってもいいんじゃないかな」
「つまり、俺もユウも今まで通り作業するってこと?」
「うん。僕の方としては薬草が生えていない場所なら別に地面を掘り返されても困らないから、薬草が群生していない場所で採掘してくれたら両立するんじゃない?」
「なるほどな。別に薬草が生えてる場所に魔石が集中してるわけじゃないんだし、その隣で作業をすればいいのか。冴えてるな、ユウ!」
「ただし、常に周囲に気を配らないといけないけどね。結構厄介かもしれない」
「だったらこうしよう。夜の見張りと同じで、一定の時間ごとに交代で作業するんだ。そうしたら、1人は必ず周りを警戒することになるだろう?」
「いいね、そうしよう!」
具体的なことが比較的すんなりと決まったことに2人は気を良くした。どちらも笑顔で話を進める。
「ところで、魔石と薬草の利益はどうする? 俺は半分ずつでいいと思うけど」
「いいの? 魔石の方が安定してお金になるって聞いているよ。それだとブレントが不利じゃない?」
「そもそもどこのパーティにも入れないんだから文句なんて言えないよ。それに、さっきも言ったけど、獣や魔物の襲撃や夜の見張りは1人だときつすぎる。金で多少損をしても、俺が得られる利益は大きいよ」
「わかった。それじゃ半分ずつにしよう」
「よし、決まりだな! 早速明日から働こう!」
「準備なんかはいいの?」
「実はこの3日は町にいたんだ。休養を兼ねてね。でも、そろそろ金が尽きそうで」
照れ笑いをしながらブレントが懐具合を語った。生活費の問題は切実なのでユウは気の毒そうな目を向ける。
「わかった。それじゃ、僕がいつも行っている場所に案内するよ。片道で3日間平原を歩かなきゃいけないけど」
「え、普段一体どんなところに行ってるんだ!?」
「でも、稼ぎは悪くないよ。少なくとも黒字になっているからね。そこは安心してほしい」
「往復6日間分の利益を稼げる場所って、本当にそんな所があるのか?」
尚も不審がっているブレントではあるが拒否はしなかった。代わりに別の質問をユウに投げかける。
「そうだ、ペアになったんだからパーティ名がいるよね。何がいい?」
「ああ、それなら最初から決まっているんだ」
「へぇ、どんな名前かな」
「
「なんでまたその名前なの?」
「引き継いだんだ。僕の先輩から」
何とも言えない微妙な視線をブレントから向けられたユウは誇らしげに語った。いつかパーティを結成したときに使おうと決めていたことなので、これは譲れない。
さも決定事項のようにユウが宣言したことから、何か言いたげなブレントも黙る。その瞬間、ユウが旅を出てから始めて結成したパーティの名称が決まった。
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