一通り片付いた後

 夕方、合同パーティの一行はターミンドの町に帰還した。冒険者ギルドの建物の前に到着すると大半が崩れ落ちるように地面へとへたり込む。


 ユウも地面に座りたかったがやるべきことがあった。その前にアルフィーに声をかける。


「アルフィー、僕は今から薬草を換金してきます」


「頼むよ。おれはこれからホレスのところへ行ってくる。エルマー、ユウと一緒に薬草を換金しに行ってくれ。デールはここに残って荷物番だ」


「うん、わかった。ユウ、この簡易台はもらっていいかな。デールを宿まで運びたいんだ」


「使い終わったら分解して薪にするといいよ」


「あーちくしょう、動けないのが情けねぇなぁ」


 悔しがるデールをよそに他の3人は行動を始めた。


 背嚢はいのうを背中から下ろしたユウは、エルマーと共に薬草の入った麻袋を抱えて薬草買取カウンターの建物へと向かう。


 いつも取り引きしているやや神経質そうな薬師は目を剥いた。カウンターの上に積まれる麻袋と見比べながらユウに声をかける。


「苦労してきたみたいだな」


「ええ、かなり。パーティに入る前に合同パーティに参加したんですけど、あれも考えものですね。山っ気のある人物がいるとろくなことにはならないです」


「否定はしないが、冒険者そのものが大なり小なり山っ気があるもんだろう」


「それにしたって、ですよ。結果論になりますけど、やっぱり欲をかきすぎるのは良くないです。ともかく、これを換金してください」


 疲れた表情のユウは麻袋から順番に薬草を取り出した。数えて小分けしては薬師の手元に置いていく。


「これで終わりだな。ということは、全部で銅貨112枚だ。いい稼ぎじゃないか」


「散々な目に遭わなければですけどね」


「そう腐るな。全部銅貨でいいか?」


「いえ、銀貨8枚と銅貨32枚にしてください。その方が分けやすいですから」


「わかった。ほら、確認してくれ」


 カウンターの上に置かれた銀貨と銅貨をユウは計算した。それが終わると自分の分を差し引いて残りをエルマーの元に寄せる。


「これは森林走者フォレストランナーの分です。エルマーが持って行ってください」


「ありがとう。ようやくこれで人心地付いたよ」


「後は銅貨4枚をもらえるかですね。あの状態だとどこのパーティも支払うのを嫌がりそう」


「そこはアルフィーに任せてるからいいんじゃない。ぼくはやりたくないけど」


 建物を出た2人は北に足を向けてデールのいる場所に戻った。空はすっかり朱い。


 デールはまだ1人だった。少し寒そうにしている仲間にエルマーが声をかける。


「換金してきたよ。これがデールの分」


「おお、早かったな! へへ、こいつのために働いてるんだよな。ああでも、これからはしばらく動けねぇんだよなぁ。まぁたカネがなくなっちまう」


「仕方ないよ。こういうときもある。ところで、アルフィーはまだ戻って来ないの?」


「ああ。あそこでまだ揉めてる。でっけぇ声で言い合ってるのが聞こえるだろう?」


 指差された方にエルマーだけでなくユウも顔を向けた。周囲の人々もちらほらとホレスを中心とした代表者の感情的な話し合いに目を向けている。


 その様子を見たユウはため息をついた。顔をデールに向ける。


「仲間が死んだ上に魔石も埋めなきゃいけなかったもんね。その上にお金を要求されたら。まぁ、気持ちはわかるかなぁ」


「それとこれは別だぜ。こっちだってカネを払うって約束で同意したんだからよ」


「アルフィー、大丈夫かな?」


「そこは心配してねぇぞ。こういうことは前にもあったからな。お、戻って来た」


 3人で話ながら待っているとアルフィーが戻って来た。その表情は疲れているが沈んではいない。


「エルマーたちも戻って来たんだ。換金できたかい?」


「できたよ、これがアルフィーの分。今回の状況だと悪くないんじゃないかな」


「確かに。おれたちはよくやった方だと思うよ。で、こっちなんだけど、何とか銅貨をもらってきた」


「さっすが! 俺は信じてたぜ!」


 目を輝かせるデールから順番にアルフィーは銅貨を配っていった。ユウも受け取って巾着袋に入れる。


 これで今回の合同パーティの仕事はすべて終わった。ユウは改めてアルフィーを見る。


「ありがとうございます。大変でしたけど、3人と一緒に仕事ができて良かったですよ」


「おれもだ。思った以上に働いてくれて嬉しいよ。特にマギィ草と簡易台、あれは本当に世話になった。あれがなかったら、もっとひどいことになっていたよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


「おれたちとしてはきみを高く評価している。何もなければパーティに迎え入れたかったんだけど、今回はちょっと色々とありすぎてそれどころじゃない。悪いけど、他を当たってほしい」


「そうですか」


「それとなくユウのことはみんなに話をしておくから、機会があったら誰かから声がかかるかもしれないよ」


「わかりました。ありがとうございます」


「こちらこそだ。それじゃ、おれたちはデールを宿に運ぶからこれで」


「じゃぁな、ユウ。また会おうぜ!」


「ぼくも今度会うときは楽しい話がしたいね」


 別れの挨拶を告げた森林走者フォレストランナーの面々は簡易台と共に去った。


 残されたユウも背嚢を背負うと歩き始める。今回は困難なことがあって疲労困憊だった。未だ単独だが合同パーティの難しさを知る。いつばらばらになってもおかしくなかったが、外敵の脅威と利益の確保のためにかろうじて最後までまとまっていた。


 そうなると、かつて旅に出る前に参加した合同パーティがいかにうまく機能していたかよくわかる。あれを取りまとめていたパーティの代表者は本当に優秀だったのだ。


 合同パーティのことはともかく、ユウは今回の遠征でパーティに入る是非について改めて思うところがあった。


 安全という面では間違いなく文句なしである。やはり外敵の脅威に対抗するのは複数人が最も良い。収入という面も恐らく安定しているのだと推測できる。今回は薬草のみという縛りがあったが、普段は魔石も拾えるのならやっていけそうだ。


 なので、やはりパーティに入った方が良いという結論になる。


「けど、それでもやっぱり不安がつきまとうんだよなぁ」


 冒険者という職業そのものの不安定さを棚に上げたとしても、薬草採取は常に収入源の危険性があった。始めるまでは獣の森基準で考えていたユウだったが、帰らずの森の方が一般的なのだとしたら長期的にする仕事ではないと判断せざるを得ない。今すぐ魔石採掘に転向する気はユウにはないものの、魔石の拾いやすさを思うと心揺らぐのは確かだった。


 とはいうものの、そもそもユウはターミンドの町に定住する気はない。世の中を見て回るのが目的なのである程度蓄えができたら旅を再開する予定だ。引き返す旅路を思い出すといささか気が萎えてしまうのも確かだが。


 色々と考えていたユウだが、結局のところは当面1人で活動するというところに落ち着く。アルフィーたちがユウの話を広めてくれるにしてもある程度時間は必要だ。その間は今まで通りということになる。


「はぁ、結局1人か。でも、それなら試せることは試しておこうかな」


 一時は気落ちしたユウだったが、気を入れ直して前を向いた。着実に成果は上がっていると信じて進む。


 再び単独行動に戻ったユウが最初に取り組んだことは森での活動時間の延長だった。町の南方に遠征するときは往復で6日間は移動で消費するので、なるべく森に入って稼ぎたいと考えたのだ。具体的には作業日数を倍の6日に増やすのである。


 虫除けの水薬を入れる中瓶を更に買い増すなどして準備を整えたユウは2日間の休養後に早速出発した。


 今まで3日間だった作業時間が6日間に増えたということは、それだけ帰らずの森の奥へと進めることを意味する。更なる成果を求めたユウは森での活動範囲を広げたが、獣や魔物とより遭遇する頻度が高くなったのは当然だった。


 高価な薬草が手に入る一方で襲撃される回数も増えたために死にかけたこともある。木の上で寝ているときに歯長栗鼠ノーイングスクウォーラルに麻の縄を囓られたときは落ちそうになった。気を抜いているときが最も危ない。


「こ、これはちょっときついな。やっぱりパーティでないと何回も入れそうにないや」


 2度遠征して大変な目に遭ったユウはこれ以上は無理だと判断した。儲けは大きいが死亡率も高くなるのでは危険すぎて手を出せない。思わぬところでパーティの重要さを再確認した。


 ともかく、秋口にターミンドの町へ到着してから3ヵ月が過ぎた。季節はもう冬であり、旅を始めて以来同じ町に滞在している期間として圧倒的に長い。しかし、未だ町を出る目処は立っていない。


 割とのんびりとした性格のユウではあったが、そろそろ現状をどうにかしたいと強く感じるようになっていた。

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