魔石採掘を継続するか終了するか

 作業3日目の日が暮れつつあった。魔石採掘の4パーティはその手を止めて野営地に戻ってくる。周辺を警戒していたユウたちも同じように戻ってきた。アルフィー以外はすっかり気の抜けた様子だ。


 首を鳴らしたデールがあくびをする。


「ふわぁ、やっと終わった。これで町に帰れるぜ。今回は換金が楽しみだ」


「珍しく魔石なしでも稼げたからね。マギィ草様々だよ」


 背伸びをしながら歩くエルマーが応じた。焚き火のある場所に着くと腰を下ろす。


 焚き火に火を点けるのはユウの役目だ。この手の作業が一番うまいことがわかったので一任されている。


 他のパーティも自分たちの焚き火の周辺で寛ぎ始めたのを尻目に、ユウたちは夕食である干し肉を取り出した。水袋を片手に囓る。


 4人とも体の力を抜いて談笑していると、眼光が鋭い気の強そうな男がやって来た。ホレスである。


「アルフィー、話があるから来てくれないか。他のパーティリーダーも集めてるんだ」


「そりゃいいけど、何の話かな?」


「明日についてだよ」


 言い終わったホレスは踵を返して別パーティへと向かった。


 その後ろ姿を見ていたアルフィーは食べかけの干し肉をしまって立ち上がる。


「あんまり面白そうな話じゃなさそうだけど行ってくるよ」


 仲間の返事を待たずにアルフィーは多色石カラーストーンズのメンバーがいる焚き火へと向かった。他のパーティからも代表者が集まってくる。


 その様子を見ていたユウたちは少し間を置いてから顔を寄せた。最初に口を開いたのはエルマーである。


「何の話だろう? 明日ってもう帰るはずなんだけど」


「魔石採掘の連中は絶好調って言ってたからな。もっと掘りたいって言うんじゃないか?」


「えー、やだな。ぼくたちにいいことなんてないじゃないか」


「そんなことを俺に言われてもな。決めるのはリーダーたちだし。まぁでも、俺もイヤだな。ユウはどう思う?」


「1日余計に滞在するとなると、銅貨2枚分だけ僕たちは損をするよね。もし魔石採掘の人たちが採掘を続けたいっていうのなら、そこのところどうするんだろう?」


 首を傾げながら考えを披露したユウの顔を見ていた2人は目を見張った。そのとき、ホレスの声がかすかに聞こえてくる。


「魔石の採掘はこの2日間、非常に好調だった。この辺りは予想以上に魔石が眠っていてまだ採り尽くせる気配がない。そこで、本来なら明日帰還するはずだったが、予定を変更してもう1日採掘したい」


 その後もホレスは色々と話を続けていたが、ユウたちの知りたいことは最初の言葉だった。耳を傾けていた3人は再び顔を向け合う。


「ほらな! やっぱりそうだった!」


「どうして延長するのかな。今度また改めて掘りに来たらいいだろうに」


「何言ってんだ、エルマー。こう言うのはめざとい奴がすぐに気付くから、採れるうちに採っておこうってハラだろ」


「それじゃデールは延長に賛成なのかい?」


「反対に決まってるだろう。俺たちには何にも利益がないんだから。今のは魔石採掘の連中の理屈だよ」


「ユウはどう思う?」


「僕もデールと同じかな。今回は魔石をいくら掘り出しても僕たちの利益にはならないんだし、賛成する理由がないから」


 3人が話をしている間にもリーダー同士の話し合いは続けられていた。魔石採掘のパーティ対薬草採取のパーティに別れて対立すると思いきや、魔石採掘人ストーンマイナーズのヘイデンが採掘延長に反対している。


「今回はもう充分に採れたんだから、1度町に戻ってまた来たらいい」


「ヘイデン、何を言ってるんだ。1度に採れるだけ採るのは基本だろう」


「だから期間いっぱい採ったじゃないか。明日も採掘してここら辺の魔石を全部採れるっていう保証もないのに、ずるずると長居するのは良くないよ」


「こういうことはもっと臨機応変にやるべきだ。調子のいいときはできるだけ採ろうぜ!」


 同じ魔石採掘のリーダー2人が意見を応酬し合っていた。他のリーダーも口を挟んでいるがホレスとヘイデンほどではない。


 話を聞くに、反対しているのは薬草採取組のリーダーであるアルフィーとジョナス、そして盛んに主張しているヘイデンだ。パーティ数で言えば3対3と拮抗している。


 どちらの意見も間違いではない。それだけに意見は交わらなかった。


 一瞬渋い表情をしたホレスだったが、すぐに表情を戻してアルフィーとジョナスへと顔を向ける。


「あんたら2人が反対するのはわかる。そっちは薬草の収入しかないから、1日延長されたその分損するだけだもんな。だからこうしよう、魔石を採掘するオレたちから、あんたらのパーティメンバー全員に銅貨2枚を支払う。これで延長に同意してくれないか?」


「おいホレス、何勝手なこと言ってるんだ!」


「ヘイデン、昨日今日で魔石の収益をざっくりと計算しただろう? 全部で銅貨16枚、1パーティあたりで4枚だ。大した額じゃないだろう。銅貨4枚払うだけで何倍もの利益を掘り出せるんだぞ」


 何か言いたげなヘイデンを制してホレスがゆっくりと説明した。そのヘイデンがアルフィーとジョナスへと顔を向ける。


 魔石採掘のリーダー4人から目を向けられた2人は顔を見合わせた。困惑気味の2人ではあったが、最初に口を開いたのはジョナスである。


「1人銅貨4枚なら俺は1日延長に賛成する。こっちは赤字だったんでね、補填できる機会があるなら少しでも何とかしたいんだ」


「ジョナス、銅貨は3枚にしてくれないか?」


「何倍もの利益を掘り出せるんだったら少しくらい分けてくれよ。4枚だ」


「はぁ、わかったよ。で、アルフィーは?」


「魔石の運搬はそっちだけでするっていうのなら、まぁ」


「決まりだ! 明日1日延長して魔石を採掘するぞ!」


 アルフィーが曖昧な賛成を告げた瞬間、ホレスが大きく宣言した。元々延長に賛成していたリーダー2人が笑顔になる。一方、ヘイデンは面白くないという表情だ。


 話し合いが終わって各パーティの代表者が戻ってくる。アルフィーも焚き火の近くに腰を下ろした。


 白い息を大きく吐いたアルフィーが3人に話しかける。


「見てただろうから知ってると思うが、明日1日もここに留まることになった」


「銅貨4枚かぁ。立ってるだけなら悪くないな」


「もう飽きたって言ってたのに、デールは虫がいいよね」


「何だよ、どうせやんなきゃいけないなら、もらえるもんは欲しいだろうが」


「ユウ、俺たちはまだ食料に余裕があるが、きみはどうなんだ?」


「1日だけでしたら大丈夫です。それ以上は無理ですけど」


「それを聞いて安心したよ。決まってからきみのことを思い出してね、不安だったんだ」


「これ以上は延びないですよね?」


「そう願いたいね」


 苦笑いしながらアルフィーがユウに返答した。


 そこへ、デールと言い争っていたエルマーが口を挟んでくる。


「アルフィー、さっきの話し合いでどうして魔石の運搬なんて持ち出したんです? 自分たちの物は自分で運ぶなんて当たり前なのに」


「普通ならな。けれど、それについて前にホレスがやったことを思い出したんだ」


「やったこと? どんなことです」


「去年もこれと同じ合同パーティで魔石発掘をしたときに期日を延長したそうなんだ。そのせいでいつもより多く採れた魔石を薬草採取のパーティに運ばせたらしい。一応、金は払ったらしいけど、重い袋をいくつも持たされて帰る途中で魔物に襲われたそうなんだよ」


「うわ、それは」


「その人は幸い無事だったらしいけど、あんなことはもうやらないって言うのを直接その人から聞いたんだよ」


「あんな重い物を大量に持って動くなんて無理ですからね」


「まぁな」


 魔石も石であるため数が増えれば薬草の比ではないくらい重くなった。自分の荷物以外にそこまで重い物を普段は持ち運んでいない薬草採取の冒険者にとって、襲われたときに割と致命的になることだ。


 次いでデールがアルフィーに話しかける。


「明日も1日警戒するってなると、南を見回るときのペアはどうするんだよ?」


「おれとデール、エルマーとユウにしよう。このパターンだけまだやってないから」


「そんなのでいいのかよ?」


「お前が暇だっていうから、色々と飽きないようにしてやっているんじゃないか」


「ちぇっ、俺のせいかよ。あーあ、早く薬草を換金したいなぁ」


「みんな同じだよ。まだ当分はおあずけだ」


 色々と言ってくるデールの不満を慣れた様子でアルフィーは受け流した。文句を言っている方も本気ではないのでそれ以上は続かない。


 そんな3人のやり取りをユウは焚き火越しにぼんやりと眺める。このパーティは感じが良い。もし今回の仕事で評価してもらって誘われたら入りたいと思うくらいにはだ。そのためには町に帰るまで頑張らないといけない。


 徐々に見通しが明るくなってきたことをユウは内心喜んだ。

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