魔石採掘と薬草採取の合同パーティ(後)

 帰らずの森に入って2日目の夕方、今回の発掘対象の場所へと到着した。ホレスの指示で野営の準備が始まる。


 ユウたち薬草採取組のパーティは薪拾い担当だ。アルフィーの指示ですぐ野営場所から飛び出す。


「薪を拾いながらこの辺り一帯をざっと調べるんだ。明日は朝一から仕事が始まるから、薬草が群生している場所の目星を付けておくぞ」


 大雑把に割り当てられた場所に4人が散った。明日1日だけが自分たちの作業に割り当てられているので前日に作業場所を探しておくのだ。


 命令されたユウも薪を拾いながら周囲に目を向けた。ときおり草木をかき分けてその奥へと入ることもある。


 急速に暗くなっていく森の中で特定の植物を探し出すというのは難しかった。何しろ真っ先に暗くなる地面あたりにあるものを見分けないといけないのだ。


 それでもユウはあちこち見て回る。薪で腕がいっぱいになると野営地に戻り、また拾いに向かった。そうして都合3回繰り返して終わる。


 森林走者フォレストランナーの面々は薪拾いが終わるとすぐに集まった。自分たちの焚き火の周りに身を寄せて成果を話し合う。


「デール、エルマー、どうだった?」


「1ヵ所見つけたぜ。あれはたぶんディシン草だ。明日一番に採ってくる」


「ぼくは2ヵ所見つけたよ。どちらもラフリン草だった。結構生えてたよ」


 パーティメンバーの話を聞いたアルフィーはうなずいた。次いで自分が報告する。


「おれは1ヵ所だった。ダストール茸が生えていたから最初に採ってくる。ユウは?」


「3ヵ所見つけました。ラフリン草、クレナ草、ディシン草です。あと、カタリー草も木に巻き付いているのを見かけました。道具があるなら根っこごと取り出せると思います」


「カタリー草は時間がかかるから迷うな。それは後回しにしよう」


「あとはっきり確認できなかったんですけど、たぶんマギィ草を見つけました」


 ユウが報告した瞬間、3人の顔色が変わった。


 アルフィーが真剣な表情で問い返す。


「たぶんか。確実ではない?」


「日没前で暗くてはっきりとは見えなかったんです。形はそれっぽかったんですけど」


「わかった。エルマー、明日一番はユウについていってくれ。本当なら最優先すべきだ」


「そうだね。ラフリン草よりは価値があるし」


「本当にマギィ草だったら幸先がいい。ぜひそうあってほしいもんだ」


 真面目な顔だったアルフィーが相好を崩した。


 あまり騒いで情報を他に漏らしたくなかった4人はそこで報告会を打ち切る。以後は何でもない雑談をした。


 野営につきものの夜の見張り番はパーティ内で順番である。4人しかいない森林走者フォレストランナーは6人パーティに比べていささかきついが、今まで1人だったユウからすると安心して眠れるので大歓迎だった。


 そうして翌朝、いよいよ各パーティの作業が始まる。


 行動開始の宣言がホレスからなされると、まず魔石採掘の4パーティが四方の奥へと進んだ。これから1日かけて採掘場周辺を見て回り、獣や魔物を駆除していく。


 いくらか時間が過ぎてから今度は薬草採取の2パーティが動いた。8人が一斉に各地へと散って行く。場所は昨日目星を付けた薬草の群生地だ。


 ユウもエルマーと一緒に帰らずの森の中を小走りに進む。場所はそれほど遠くない。


 明るさで見た目の印象はがらりと変わるため、ユウは記憶している場所と目に見える風景のずれをすり合わしながら足を動かす。求める場所は見つかった。片膝を付いて顔を下に向ける。


「ああ良かった、間違いない。これです」


「本当だ! よく見つけたね!」


 森の中に差し込む柔らかい朝日を受けて、白地に銀の砂をまぶしたかのような花びらが輝いていた。


 その姿に2人は笑顔を浮かべる。望んでいたものがいきなり見つかった。


 背嚢はいのうから先端のみ鉄製の小さなスコップを取り出すと、ユウはマギィ草を採り出す。全部で7株だ。


 地面にマギィ草を並べるまでの動作を見ていたエルマーがわずかに目を見開く。


「丁寧だね。しかも速い」


「薬師志望の知り合いに教わったんですよ。冒険者になる前ですけどね」


「いい友達に教わったんじゃないかな。この手つきなら安心だよ。他に3ヵ所見つけてるんだよね。だったらこのまま採取していって。ぼくは自分の見つけた場所に行ってくる」


 手にしたマギィ草を地面に置いたエルマーはこれからの行動について伝えると立ち上がった。そうして、ユウが採取したものを片付けている間にその場を去る。


 気を良くしたユウは薬草の採取に乗り出した。めぼしい物は片っ端から採っていく。


 たまに遠くで誰かが戦っている音が聞こえた。多少の不安は覚えるものの、近場でないのなら作業は続ける。


 昼食を挟んで続けた薬草採取は上々の成果だった。夕方、手元が暗くなるまで採取する。


 昨晩使った焚き火の周りに戻ったユウは空いている場所に座った。すぐにアルフィーに声をかけられる。


「おかえり。エルマーから聞いたけど、マギィ草を発見したそうじゃないか。しかもいい仕事っぷりだとか」


「久しぶりにいいものを見せてもらったよ。ぼくも採りたかったなぁ」


「俺にも見せてくれよ!」


「デール、ちょっと待て。それより、ユウの成果を聞こうじゃないか」


「ラフリン草が90株、クレナ草が80株、ディシン草が60株、ベスティ草が60株、マギィ草が20株です」


 報告を聞いていた3人の顔が固まった。デールが生唾を飲み込む。


 気を落ち着かせようとアルフィーが大きな息を吐き出した。更に深呼吸をしてから口を開く。


「マギィ草を20株って今言ったかい?」


「はい。エルマーに見てもらった後も3ヵ所で見つけたんです。この辺って結構あるんですね。こんなに採れたのは初めですよ」


「おれたちは1株も見つけられなかったんだけどな。まぁいいや。ともかく、よくやってくれた。ユウ1人で4人の遠征費分を賄ってくれるとは嬉しい誤算だよ」


 肩の荷が下りたと言わんばかりに体の力を向いたアルフィーが安心しきった顔をユウに向けた。パーティの代表者として利益は最も気にかかることの1つだからだ。


 そんなアルフィーにユウがぽつりと漏らす。


「魔石が拾えたらもっと稼げたんですけどね」


「仕方ないよ。合同パーティの取り決めなんだから。おれたちは薬草のみ、あっちは魔石のみってね。今回は魔石なしでも充分な利益があった。これで良しとするさ」


「それよりもユウ、マギィ草を見せてくれよ!」


「ぼくはどうやってマギィ草を見つけるのか教えてほしいな」


 報告が終わるとデールとエルマーがユウに近寄ってきた。今回一番の功労者になった部外者に賞賛の目を向ける。


 その勢いに飲まれながらもユウは対応した。麻袋の中から丁寧な手つきでマギィ草を採りだしつつ、それを発見した状況を説明する。


 1人で薬草採取をしていたときには絶対になかった団欒をユウは楽しんだ。




 作業2日目と3日目は魔石採掘の4パーティが作業に取りかかった。道具を使って目星を付けていた場所から次々と地面を掘り返す。


 その間、ユウたち薬草採取組のパーティは周辺の警戒を担当した。こちらの2パーティは初日に作業を終えているので役割を交代するわけだ。


 警戒場所は初日の外敵駆逐作業のときの状況から判断された。ジョナスたち薬草採取人グラスピッカーは作業場の北側、アルフィーたち森林走者フォレストランナーは東側である。


 周辺の獣や魔物はあらかた駆逐したとホレスから伝えられたこともあり、ユウたちは基本的に立っているだけだった。それでは手持ち無沙汰すぎるので、2日目の昼からは各パーティがたまに西側と南側へ2人を見回りに遣る。


「はぁ、契約だから仕方ないけどよ、暇だなぁ」


「デールはそればっかりだよね。もう1回南を見回って来たらどう?」


「もう飽きたよ。どうせなにもないからな」


 3日目の昼下がり、デールとエルマーが立ちながら暇つぶしの雑談をしていた。


 それを背後から眺めながらユウはアルフィーに話しかける。


「あの人たちがこの辺から獣や魔物を追い払ってくれたから楽ですね」


「まったくだよ。自分たちが安心して採掘できるためにやったんだろうけど、そのおこぼれにあずかれるんだから悪くない」


「調子良さそうですもんね。知り合いがここは当たりだって言っていましたよ」


「ブレントだったか? ホレスの見立ては正しかったわけだね」


「安定して稼ぐなら魔石採掘の方がいいって言ってましたけど、あれを見ると確かに」


「あんまり言いふらさないでほしいものだね。今回、ジョナスのところは成果が渋かったみたいだから」


 マギィ草を探し当てたユウたちと違い、薬草採取人グラスピッカーは今回赤字が確定していた。そのため雰囲気が良くない。


 すべてが良くなることは早々にないものだとユウは強く感じる。目の前の2人の雑談を聞きながら小さくため息をついた。

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