魔石採掘と薬草採取の合同パーティ(前)

 臨時で組んだアルフィーのパーティが参加する合同パーティの出発当日、日の出直前にユウは待ち合わせ場所である冒険者ギルドの建物前にやって来た。自分たち以外のパーティもいくつか散見でき、その中からアルフィーたちを探す。


「アルフィー、おはようございます」


「来たね。調子はどうかな?」


「いいですよ。デールは昨日のお酒がちゃんと抜けてますか?」


「あのくらい大したことねぇって! いつも通りだぞ、ほら!」


「エルマーはちょっと顔色が悪い?」


「ぼくはいつもこんなものだよ。よく言われるけど」


「よし、みんな揃ったな。なら、ホレスのパーティに合流しよう」


 挨拶が終わったところでアルフィーが全員に声をかけた。


 かすかに白い息を吐きながら4人はアルフィーを先頭に場所を移動する。


 向かった先には30人程度の人だかりができていた。その中には見知った顔もいる。


「ユウじゃないか! 君も参加していたんだね!」


「ブレント、まさかここで会うことになるなんて思わなかったよ」


「それはこっちのセリフだよ! ここにいるってことは、どこかのパーティに入れたんだ」


「実は臨時で3人組のパーティと組んだんだ。でも、今まで1人だったから一歩前進だよ」


「確かに。どこのパーティだい?」


森林走者フォレストランナーってところ。リーダーは今主催者に挨拶してる人でアルフィーっていうんだ。こっちはデールでもう1人がエルマー」


「初めまして! ブレントだよ! 多色石カラーストーンズのメンバーなんだ」


 驚いているデールとエルマーに気にせずブレントは声をかけた。どうにか返事をした2人に笑顔を向けるとすぐにユウへと話しかける。


「うまくやっていけてるようで安心したよ」


多色石カラーストーンズって、今回の主催者のパーティだよね」


「その通り! 運良く町に来たばかりのときに入れたんだ。魔石採掘パーティでも結構優秀なところなんだよ!」


「へぇ」


 ブレントの話を聞きながらユウはちらりとアルフィーと話をしている人物に目を向けた。眼光が鋭い気の強そうな顔立ちをした冒険者だ。やり手だが打算的な言動が目立つ人物という評価を聞いている。


 それでもユウはあまり気にしていなかった。直接話をする機会はそうないはずだからだ。しかし、ブレントがそのパーティに入っていることは意外だった。


 一旦間を置いてからユウは言葉を返す。


「その様子だと、ブレントはかなりうまくやっているんだ」


「まぁね。本当の冒険を始めるまではここでガンガン稼ぐよ!」


「ああ、あの探索ってやつだっけ?」


「そうそう! やっと運が向いてきたって感じさ」


「良かったじゃない。ところで、今回6パーティが集まっているらしいけど、全部多色石カラーストーンズの知り合いなの?」


「リーダーの知り合いってのは聞いてる。魔石採掘側が4パーティ24人に薬草採取側が2パーティ8人で、合計32人。結構大きいよね!」


「そうだね。あれ、あの人は?」


 自慢げに話をするブレントに合わせて周囲を眺めたユウは知っている顔に目をとどめた。暗い茶髪で柔和な目元の人物だ。明るく親しげに隣の冒険者と話をしている。


魔石採掘人ストーンマイナーズのリーダーだよ。確かヘイデンって言ったかな。もしかして知り合い?」


「違うよ。始めて帰らずの森に入ったときに、採掘現場で出会ったんだ。そのときに少し話をしただけだよ」


「面識があるってわけか。面白いね」


 2人でヘイデンを眺めていると、ブレントが誰かに呼ばれた。目を見開いた知り合いがユウに告げる。


「ごめん、もう行かなきゃ。また後でね!」


 明るく喋り続けていたブレントは片手を上げると踵を返して去って行った。


 ぼんやりとその後ろ姿を見送っていたユウに背後からデールが声をかける。


「何て言うか、勢いのある奴だったな。口を挟めなかったぞ。知り合いか?」


「この町に来るときに一緒に荷馬車の護衛をしていたんですよ。いい人なんですけどね」


「たぶんそうなんだろうな」


 毒気を抜かれたような顔をしたデールが力なく答えた。


 一旦話が途切れたあと、ユウはエルマーに顔を向ける。


「そうだ、もう1つの薬草採取のパーティって薬草採取人グラスピッカーっていうんですよね。どの辺りにいる人たちなんですか?」


「あの辺りだよ。あの4人はぼくたちと同じように地面を掘る道具を持ってないだろう」


「なるほど。あ、あの金髪の人、森の中で見たことありますね」


「あのパーティのリーダーだよ。ジョナスっていうんだ。森で出会ったのかい?」


「薬草を探しているときに見つけた場所で、先に採っていた人たちです」


「薬草が群生している場所を見つけるのがうまいからな、あの人」


 肩をすくめたエルマーが首を左右に振った。隣でデールがうなずいている。


 そうやって雑談して待っているとアルフィーが白い息を吐きながら戻ってきた。


「みんな、そろそろ出発するぞ。もうすぐホレスから号令がかかるからな」


「いつでもいいぜ! 準備はできてるからよ!」


「ぼくも大丈夫ですよ。ちょっと寒いから早く体を動かしたいくらいです」


「僕もいつでもいけます」


 ユウが声を上げたときだった。ホレスが出発と叫んだ。そうして、次々と参加パーティが歩き始める。


 その中に混じってユウたちも北に向かった。




 今回の合同パーティの目的は魔石発掘で一山当てようというものだ。主催者は多色石カラーストーンズのリーダー、ホレスである。


 場所はターミンドの町の北側だ。平原を2日ほど進み、更に帰らずの森の中を2日歩いた所である。作業予定は3日間だ。


 作業手順としては目星を付けた場所に到着すると、初日は魔石採掘の4パーティが周辺の獣や魔物を駆逐しつつ、その間に薬草採取の2パーティが薬草を採る。2日目と3日目は魔石の採掘をするというものだ。


 魔石採掘のパーティのホレスが薬草採取のパーティに配慮したわけだが、これは冒険者ギルドと薬師ギルドへの配慮である。有望な薬草の群生地を掘り返すときはまず薬草を採取させるようにと普段から声をかけられていたのだ。これに応えたわけである。


 こうして普段からいい顔をしておけば、いざというときに無理が利くというわけだ。実際にホレスは過去1度、人から恨まれたときに窮地を脱したことがある。


 ただし、薬草採取の冒険者にはあまり配慮はしていない。都合11日間の食費は自腹で、道具の破損や体の負傷もすべて自己責任だ。また、魔石を採掘中の警護を薬草採取の2パーティに任せている。


 このような条件では薬草採取のパーティは赤字になる可能性が高い。だが、マギィ草のような高価な薬草があるかもしれないというホレスの言葉に期待してアルフィーとジョナスのパーティは参加を決めた。採掘されていない場所に可能性があるのは確かだからだ。


 ターミンドの町を出発して2日後の夕方、合同パーティの一行は帰らずの森の端にたどり着いた。ここで1泊野営をしてから翌日森の中へと踏み入る。


 一方、ユウは今回遠征で黒字は期待していなかった。何しろ都合11日間分の利益を1日で回収するなど無理だからだ。それよりも、自分の働きぶりをアルフィーたち3人、更にはジョナスのパーティにも見てもらい、薬草採取界隈での評価を高めるのが目的である。


 1人ユウだけ他の面々とは違う理由で張り切っていたが、そのようなこととは関係なく合同パーティ一行は森の中を進んで行った。


 森林走者フォレストランナー内で最後尾を歩いていたエルマーがぽつりと漏らす。


「マギィ草、あるかなぁ」


「きっとあるさ。何しろあんまり人が行かない場所だからな。うまくすれば密集してるかもしれないぜ?」


 つぶやきを耳にしたデールが振り向いて答えた。一瞬驚いた表情を浮かべたエルマーだったが、笑顔を浮かべてうなずく。


「それはいいよねぇ」


「100株くらいまとまってあったら、ちょっとした金持ちになるよな! そしたらたまにはいいモンが食えるよな!」


「ダストール茸もほしいよね。あれも結構いい値がするし」


「夢が広がるよなぁ!」


「それはおれも期待しているが、今は周りに気を付けるんだぞ。いつどこから襲われるかわからないんだからな」


「わかってるって。でも、こんな大人数に刃向かってくる獣や魔物なんていや」


 デールが話している途中で前の方から襲撃という声が聞こえた。すぐに全員が武器を手にして他の静かな方角に注意を向ける。


 脇を歩いていたユウも右手に武器を握って周囲を窺った。今のところ何かが襲ってくる気配はない。合同パーティの前の方から聞こえてくる戦闘音が耳を打つ。


 すぐには何もないと判断したユウはちらりと後ろを振り返った。臨時で組んだパーティのメンバーは他の方角を警戒している。


 唯一、デールが似たような方向に構えていた。若干ばつが悪そうな表情を浮かべている。


 それを目にしたユウはわずかに苦笑いをしてから別の方角へと顔を向けた。

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