せめてあと1人
生活の目処が立ったユウは蓄えを増やすためにターミンドの町の南側へと通った。1回の遠征が9日間と結構時間がかかるものの、安定して収入が得られるので悪くない。
ただ、やはり1人で行動するのはきつかった。相変わらず獣や魔物の対応には苦労し、夜もろくに眠れない。いくら若くてもそう長くは続けられるものではなかった。
どうにかして他のパーティに入れないかと、ユウは遠征の合間に冒険者ギルドや薬草買取カウンターの建物の前で他の冒険者に声をかける。しかし、思うようにはいかなかった。たまに単独行動の冒険者にも声をかけるが、条件が合わないなどを理由に断られる。
「仕事ぶりを見せろって言われても、稼げないと生活できないもんなぁ」
何度か断られた後、ユウはため息をついた。仕事ぶりを見てもらうためには稼げない場所で活動しないといけないのだが、そのためには切り崩せるだけの蓄えが必要だ。これがないと仕事ぶりを見てもらうことすらできない。
魔石採掘にみんな転向してしまう理由が未だに理解できてしまい、ユウは悲しかった。
暦は12月に入る。すっかり晩秋に染まった気候は日に日に体に厳しくなる。
この日のユウは冒険者ギルドに来ていた。ギルドの職員に相談するためだ。
受付カウンターの列に並ぼうとすると見たことのある3人組が視界を遮った。アルフィーたちだ。相手も気付いたらしく声をかけられる。
「やぁ。君はこの前声をかけてきた、えーっと」
「ユウです。まだ名乗ってなかったですね、そういえば」
「そうだったんだ。それじゃ改めて、おれはアルフィー、こっちの背の低いのがデール、反対側がエルマーだ」
「お久しぶりです」
「あれから1ヵ月以上過ぎてまだここにいるってことは、一応稼げているってことかな?」
「なんとか。でも、かなりきついです」
「その口ぶりだと、まだ1人なのかい?」
「はい。仲間探しがうまくいかなかったんで、先に収入を安定させることにしたんですよ」
「1人でかい?」
「はい? そうですけど」
怪訝な表情をされたユウは首を傾げた。自分ではおかしなことを言ったつもりはないので不思議がられる理由がわからない。
アルフィー共々黙ると、横からデールが口を挟んでくる。
「1人で生活を安定させることなんて無理だぜ。だからみんなパーティに入りたがるんじゃないか」
「でも、仕事ぶりを見てもらえる場所だと稼げないから、まずお金を蓄えないといけないでしょう?」
「そんなの魔石採掘を手伝うか町の人足仕事をするだろう、普通は」
「え?」
「え? お前、どうやって稼いでるんだ?」
「どうやってって、薬草を採って、たまに魔石を拾ってですけど」
「一体どこで採ってるんだよ? お前の話を他のパーティからも聞いたことがないぞ」
「1人で稼ぐってそんなにおかしなことなんですか?」
「おかしいっていうか、そもそも無理だろう。お前が言ったように人に見てもらえる場所は稼げないし、稼げる場所は大抵1人じゃ危険なところばっかりだ」
「そりゃまぁ確かに」
「で、どこで薬草を採ってるんだ?」
「町の南に行ったところです。片道3日間は平原を歩かないといけないですけど」
「は? お前、あんな所に行ってるのか?」
ユウの返答を聞いたデールが目を剥いた。
そのまま絶句するデールに代わって、今度はエルマーが話しかけてくる。
「あそこは確かにほとんど誰もかない所だから薬草はたくさんあるかもしれない。でも、往復で6日間を移動だけで費やす上に、獣や魔物も多いから割が合わないことで有名なんだ。今じゃ魔石採掘のパーティだって掘り尽くしたって寄らないからね」
「確かにかなりきついですよ。でも、前にアルフィーが教えてくれたところよりは稼げたから何とかなるかなって思って」
「ぼくはきみがそこでどうやって稼いでいるか気になってきたな。アルフィー、デール、例の件、このユウを臨時で組んでもいいんじゃない?」
仲間2人に顔を向けたエルマーが気軽に問いかけた。虚を突かれた様子の2人のうち、デールが反論する。
「いやそんな簡単に決めていいことじゃないだろう。そもそもこいつの言ってることが本当かさえもわからないってのに」
「でも、あれから1ヵ月以上は生活できているみたいじゃないか」
「だからその証拠がないだろう」
「だったら、買取カウンターで業者に聞けばいい。薬草を換金しているなら顔を覚えられているだろうし、どれだけの薬草を換金したのかもわかるでしょ」
「そりゃぁ、まぁ」
的確に反論されたデールはしどろもどろになって口を閉じた。やり込めたエルマーの顔が笑顔に変わる。
しかし、話が変わってからというものユウには何のことかさっぱりわからないままだった。一方的に話が流れていく様子に戸惑いながらアルフィーに顔を向ける。
「あの、何の話ですか?」
「いや実は、近いうちにいくつかの魔石採掘パーティと薬草採取パーティが合同で仕事をしないかって話が持ち上がっているんだ。おれたちもそれに参加したいんだけど、困ったことにメンバーが4人以上でないと参加できないんだよ」
「なるほど、それであと1人が足りないわけですね」
「そういうこと。あんまり人の行かない所で仕事をするらしいから獣や魔物に襲われやすいらしいんだ。だから危険を分散させるって意味でも頭数は必要なんだよ」
「それで、僕はどうなんですか?」
「デールが言ったように、おれたちは君のことを知らない。ただ、前と今話をして悪い奴じゃなさそうだってことはわかった。あとは仕事ぶりだけど、エルマーの言う通り買取カウンターで確認してもいいかな?」
「別にいいですよ。今から行きますか? いつも取り引きしている人がいたら教えてくれますよ」
「ということだけど、デール、それでいいかい?」
「いいぜ。行こうじゃないか」
納得したデールがうなずくのを見たアルフィーはユウに案内を求めた。
臨時とはいえ一緒に仕事ができるかもしれないことに希望を見出したユウは、3人を連れて勇んで薬草買取カウンターの建物に入る。相変わらず閑散としている室内で見知った薬師に近づいた。不思議そうに自分たちを眺めるその薬師に声をかける。
「あの、ちょっと証言をしてほしいことがあるんですが」
「証言? どんな?」
「僕がちゃんと薬草をここで換金しているってことですよ」
「お前、薬草の横流しを疑われているのか?」
「いえそうじゃなくて、僕がちゃんと森で薬草を採ってきていることをです。この3人のパーティに臨時で組んでもらえるかどうかの判断として、話を聞きたいそうなんです」
説明を聞いたやや神経質そうな薬師は3人に顔を向けた。
代表してアルフィーが薬師に話しかける。
「魔石採掘パーティとの合同の仕事に参加できる条件が4人以上なんです。1人足りないから探しているところなんですよ」
「そういうことか。薬草ならちゃんと毎回ここで換金してくれているぞ。しかも結構な量をな」
「どのくらいなんです?」
「1度に銅貨換算で30枚ちょっとかな。遠くで採ってるらしいからぼろ儲けってわけじゃないらしいが、3日で稼ぐ額としてはいい方なんじゃないか?」
「1人でですよね?」
「1人でやっているとは聞いている。というか、でなきゃお前たちもそいつを誘えないだろう」
「はは、確かにそうですね」
薬師の返答にアルフィーは苦笑いした。それから振り向いて仲間に声をかける。
「デール、エルマー、どうだ? おれは臨時で組んでもいいと思うが」
「1日10枚か。1人でだろ? やるなぁ。俺は賛成だ」
「ぼくもいいと思う。今まで見てきた人の中でも優秀な方なんじゃないかな」
「決まりだ。ユウ、きみと組んで今度の合同の仕事を受けることにする」
「ありがとう!」
話のまとまった4人は買取カウンターの前で合意の握手を交わした。カウンターの奥にいる薬師も満足そうにうなずいている。
「さぁ話が決まったんなら帰った帰った。ここは酒場のテーブルじゃないんだからな」
「ありがとうございます!」
「ようやく足がかりを掴めたな。せいぜいいいところを見せるんだぞ」
薬師から激励の言葉をもらったユウはアルフィーたちと一緒に買取カウンターから離れた。その最中に知りたいことを質問する。
「その合同の仕事っていつ始まるんですか?」
「6日後だ。前日に1度集合して最終確認をしておきたいんだけど、いいかな?」
「わかりました。でしたらそれまでは別行動でいいんですね」
「構わないよ。森の中に行くのはいいけど、怪我はしないようにね」
「もちろんです。せっかくの機会をふいにしたくないですし」
お互い笑いながら会話を交わした。そのまま建物の外に出る。
ユウとアルフィーたちは次回の再会を約束してその場で別れた。
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