仲間探しがうまくいかない

 旅の汚れを洗い落として更に綻びを繕った翌日、ユウは朝一番から冒険者ギルドへと向かった。助言に従って室内を見渡し、冒険者の様子を窺う。


「本当だ、シャベルやスコップを持っている人がいる。しかも結構多い」


 ユウの目算で半分以上の冒険者が土を掘る道具を持っていた。一方、残る冒険者はどうなのかと目を凝らしたが見分けがつかない。汚れ具合は誰もが同じように見える。


 しばらく眺めていたユウは顔を引き締めて4人組の集団に近づいた。怪訝そうな顔で迎えられつつも声をかける。


「薬草採取をしているパーティですか?」


「いや違う。オレたちは魔石採掘の方だ。お前、あっちの方をしてんのか?」


「この町に来たのは最近なんです。それで、ここでどこか入れてもらえるパーティを探すように助言してもらったんです」


「なんだ新入りか。安定して稼げる魔石採掘の方がいいぞ。それでもオレたちのところは無理だけどな」


「魔石の採掘をしている人はシャベルやスコップを持っているって聞きましたけど」


「仕事に行くときは持ってるさ。けど今日は違うんだ。いつも持っているわけじゃない」


「そうですか」


 話し相手が肩をすくめたのを最後にユウはその場を離れた。そして肩を落とす。間違ったのはともかく、いきなり魔石の採掘を勧められたからだ。


 しかし、それ以上に困ったことも判明した。シャベルやスコップを持っていないというのは案外当てにならないということだ。


 それでもユウは意を決して声をかけ続ける。


 立て続けに5回魔石採掘のパーティだった。最初こそ気を取り直して次に臨んでいたが、畑違いのパーティにばかり声をかけ続けるのは精神的にきつい。6回目に挑戦しようとする頃にはこのやり方では無理なのではと思えてくる。


 落ち込みつつもユウは一度深呼吸して平静を取り戻した。そうして次に見定めた3人組に声をかける。


「薬草採取をしているパーティですか?」


「そうだよ。何か用かな?」


 ようやく薬草採取パーティに巡り会えたユウは笑顔を取り戻した。まだ用件すら話していないが目を輝かせる。


 全体的に線が細い体をした青年が体を向けてきた。わずかな言動から物腰が柔らかい態度の人物であることがわかる。


「僕、薬草の採取がしたくて参加させてもらえるパーティを探しているんです」


「珍しいね。大抵は安定した収入のある魔石の採掘を希望するのに。そういえば、見ない顔だな。もしかして最近この町に来た?」


「2日前に来ました。前に別の町で薬草の採取をしていたことがあったんで、こっちの方がやりやすいかなって思っているんです」


「あーなるほどなぁ」


 線の細い青年が良いとも悪いとも取れるようなうなずき方をした。そのまま黙ると、背が低くがっちりとした体格の青年が口を開く。


「別の町の経験者かぁ。だったら納得だね。でも残念! 俺たちのパーティは人を追加する予定がないんだ。アルフィーもちゃんと言ってやらないと!」


「お前ははっきりといいすぎなんだよ、デール」


 顔をしかめたアルフィーがデールを小突いた。それによって一瞬目を見開いたデールだったがユウへの言葉は止まらない。


「こういうときははっきりと言った方がいいんだよ! そもそも、性格も能力もわからないヤツを簡単には迎えられないでしょ? まずは1人で森に行って働くことだね!」


「でも、1人は危ないからパーティに入った方がいいって助言してもらったんですけど」


「どうせ冒険者ギルドの職員だろう? 確かに正論だけどさ、迎える方の事情は何にも考えていないよね」


「何かあったんですか?」


「薬草採取ってさ、繊細なんだよ。相手は植物だからいい加減に扱うと傷付いて売り物にならないし、それ以前に似たような雑草をちゃんと区別してより分けられないと話にならないんだ」


「僕できますよ」


「それが本当かどうか俺たちは知らないんだ。だから、まずは1人で仕事をしてくれよ。それを俺たちがたまたま通りかかったら見るからさ」


「えぇ、お試しでパーティに入って確認してもらうんじゃ駄目なんですか?」


「なんで俺たちそんな面倒なことをしないといけないのさ?」


 考え方がまるで違うことにユウは呆然とした。思いの外厳しい試され方に言葉を失う。


 そこへ丸い鼻をした頼りなさそうな雰囲気の青年が口を挟んでくる。


「能力の問題もあるんだけど、一番困るのはせっかく受け入れてもすぐに辞められてしまうことなんだ」


「すぐ辞めちゃうんですか?」


「そうなんだ。あの帰らずの森にはあちこち魔石があるんだけど、それを拾うだけである程度の収入になるんだ。それが小遣い稼ぎ程度だったらいいんだけど、そのうち魔石を採掘する方がいいって考えを変えてパーティを抜けるんだよ」


「そんなに魔石が採れるんですか?」


「採れる。ぼくたちも薬草を採る合間に拾ってるくらいだよ。ただ、それはあくまで副収入なんだ。それにのめり込んでしまう人とは一緒にできないってことなんだ」


 困った感じの表情を浮かべて話す青年の事情にユウは言葉を返せなかった。それほど短期間で辞めることなど想像すらしていなかっただけに衝撃を受ける。


 再び黙ったユウにアルフィーが顔を向けた。少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「エルマーの言ったことは本当なんだ。これで何度か俺たちのパーティからも辞めた奴がいてね。簡単には受け入れられないんだ」


「あぁ、それだったら確かに無理ですよね」


「悪いな。お詫びと言ってはなんだけど、いくらか助言しようと思う」


「はい」


「デールは1人で薬草を採れって言ったけど、あれは実際にきつい。作業がというよりも、獣や魔物に襲われたときに1人で対処しないといけないっていうのと、野営するときの見張りをどうするのかという問題が常にあるから」


「それは聞いたことがあります」


「だから1つのやり方として、比較的人がよく通りかかる森の入り口近くで作業をする方法がある。ここなら奥に比べてほとんど獣や魔物は来ないからある程度安心できるよ」


「帰らずの森は奥に行くほど獣や魔物がよく出るんですか」


「正確には、人の出入りするところは誰かが獣や魔物を駆除しているから安心なんだよ。だから、人の出入りが少ない所だと森の入り口辺りでも危ない」


「この町からだと、どこが安全なんですか?」


「北東側だね。まっすぐ北東に行くんだ。あそこが一番安全だよ。何しろ1日で森に着くからみんなよく行くんだ。次いで東と南東、更に北かな。北になると2日近くかかるけど」


「なるほど」


「安全だということは人がよく往来しているということだし、その分だけよく働きぶりを見てもらえるということでもある。パーティに入りたいならこの方法が一番確実だ。ただし、薬草はあんまりないから収入がきつい。これは覚悟してくれ」


「生活と天秤にかけてということですね」


「その通りだ」


 難しい顔をしたアルフィーを見たユウが真剣にうなずいた。


 真面目に話を聞いているユウに対してアルフィーが更に言葉続ける。


「他には、パーティは3人から4人で組むことが多いから、声をかけるなら2人組を狙うと一番入れてもらいやすいな」


「そういえば、薬草採取パーティって少人数が多いって聞きましたけど、どうしてなんです?」


「みんな魔石採掘に行くからだよ。常に人不足で、もうそれが当たり前になってるんだ」


「なるほどそれは」


「もっとも、今の薬草の採れ具合だと多くても4人かな。人数が多いと獣や魔物に対処しやすいけど、収入を頭数で割るとちょっとね」


「それ難しいですよね。ここだと銅貨1枚のために何十株も集めないといけないみたいですし」


「そうなんだよ! もうちょっと融通を利かせてくれてもいいと思うんだけどなぁ」


 アルフィーの嘆きを聞いたユウはうなずいた。


 いささか肩を落としたアルフィーが気を取り直すと話を続ける。


「最後に、自分が中心になって単独の薬草採取冒険者に声をかけるのもありだと思う。実際それでパーティメンバーを4人まで増やした知り合いもいるしね」


「それが一番応じてくれそうな気がしますけど」


「まぁね。でも、単独で作業をしている冒険者は、あの森で活動するための知識と経験が不足していることが多い。だからそこをどうするかだな」


「どうして知識と経験が不足しているんです?」


「君みたいにこの町に来て間もないからだよ。まぁこんなところかな」


「ありがとうございます。かなり助かりました」


「おれもどうせなら薬草採りの仲間が増えてほしいから、君にはぜひ頑張ってほしい」


 色々と教えてくれたアルフィーたちに礼を述べるとユウはその場を離れた。そして、そのまま冒険者ギルドの建物から出る。


 難しい顔をしたユウはそのまま歩くに任せて先に進んだ。

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