獣討伐隊の遠征(中)
吹きさらしの場所で外套1枚の野宿は体が冷える。ユウたちは戦士ギルドの宿舎の壁に寄り添うように身を固めて眠ったが、それでも春先の夜は厳しかった。その冷え込みに耐えきれず、村はずれの獣の森に入っていく者もいたくらいだ。
そうして一夜明けたときには体がすっかり冷えていた。これはいけないとユウは思い立ち、仲間をせき立てて獣の森で薪を集めさせる。生木であっても構わず拾って来た枝を積み重ねて
5人で火を囲むと強ばった顔が次々をほぐれていく。
「おーあったけーぜー」
「でかしたぞ、ユウ。これ、昨日もやっときゃよかったな!」
焚き火に手を当てながらレックスとアーロンが声を漏らした。
それはともかく、ユウたちは合同パーティを組む相手を待つ間、周囲の様子をよく観察する。前日森に入ったパーティの成果や愚痴の話、今日森に入るパーティの装備、そして冒険者ギルドの職員の雑談など、わずかずつ有用な情報を集めた。
その間にも、ウェスティニーの村にはぽつぽつと冒険者パーティがやって来る。冬の夜明けの森の稼ぎは夏に比べて低くなるので、こちらで稼ごうという面々だ。
枝を抱えたユウが近寄るとローマンが声をかけてくる。
「ユウ! 久しぶりだな!」
「ここ1ヵ月間は会わなかったね」
「色々とあっちこっち行ってたんだ。最近忙しいんだよ」
「僕らのところも去年の秋から依頼を受けるようになったんだ。どこも大変そうだね」
「やぁ、2人とも。今回も稼ごうじゃないか」
背後からマイルズが話しかけてきた。ユウとローマンが振り向くと、右手を上げながら近づいてくるのが見える。
「ピーターんところがいねぇのは残念だが、オレら3パーティでガンガン稼ごうぜ!」
「2ヵ月後には魔物の間引き期間が始まるし、その前哨戦ってところかな」
「でも、熊や虎みたいに狩るのが大変な動物もいるから、完全に魔物より格下ってわけじゃないよ」
気勢を上げているローマンとマイルズに対して、ユウは少し不安そうに声をかけた。
そんなユウの肩をローマンが叩く。
「わかってるさ。オレたちだって最初はこの森で薬草採取をしてたんだしな! あんときゃ何もできなくて逃げてばっかりだったよ」
「そうそう。でも今は違う。対抗手段があるからやれる」
「そっか。ならいいんだ。僕も逃げることが多かったから、どうしても苦手意識があって」
「わかる。俺も少しはあるからね。でも大丈夫、きっとやれる」
力強くマイルズが言い切ったのを見てユウはうなずいた。
そこでパーティリーダーから声がかかる。全員が注目したところでこれからの方針が伝えられた。原則としては夜明けの森での魔物狩りと同じである。3日間獣の森に入り、1日休みを繰り返すことも説明された。
説明が終わるとリーダーたちは話をしながら戦士ギルドの宿舎へと入っていく。残されたパーティメンバーは荷物番を残して獣の森へと枝を拾いに行った。
「テリー、獣の森って懐かしいですね」
「そうだな。ユウと一緒に入っていたのはいつだったかなぁ」
「4年ほど前だったかな。今思えば半年くらいしか一緒にいなかったんですよね」
「意外と短いな。何年も一緒に薬草採取をしていた気がするよ」
「僕もです。ところで、テリーのところって、熊や虎が出てきたらどう対処するつもりなんですか?」
「どっちも普通は単独でいる獣だから、囲んで戦うかな。ユウのところは?」
「去年熊狩りをしたときは、悪臭玉を使ってのたうち回っているところをみんなで叩きました。だから今回も同じようにしようかなと思っています」
「あれかぁ。懐かしいな」
「今はもう使っていないんですか?」
「そうだね。全員戦えるからあまり必要なくなったっていうのもあるかな。それに、みんな最後は剣なんかを持って攻撃するから、近づけなくなる道具は嫌われるんだ」
テリーの返答を聞いたユウは半ば呆然とした。悪臭玉の使い方を教えてくれた1人だっただけに、もう使っていないと返答されるとは思っていなかったのだ。
自分を見るユウの表情を見たテリーが苦笑いする。
「最初は俺にも抵抗があったんだけどね。使わなくてもやっていけることがわかったら、すっかり使わないことに慣れたよ」
「そうですか。それじゃ、今回も使わない方がいいですか?」
「それはまず今の仲間と相談するべきだろう。合同するとはいえ、別のパーティメンバーと決めていいことじゃないよ」
「ああ、そっか。わかりました」
指摘されたユウは赤面した。昔からの知り合いではあるが、優先順位は今のパーティメンバーの方が上なのだ。なんであれ、相談をする順番というものはある。
その後も雑談をしていると、枝を抱えた面々がぽつりぽつりと戻ってきた。枝を組み合わせているのを見たユウは、火を熾しやすいようにと自分たちの焚き火から火を分ける。
パーティメンバーがほぼ揃ってからは、誰もが入れ替わり立ち替わり雑談をしたり相談をしたりした。パーティリーダーが戻ってきてからは、合同パーティについての変更点の説明も加わる。
こうして、明日に向けての準備は整えられた。
翌朝、ユウたちがウェスティニーの村に到着して3日目にしてついに獣の森へと入った。場所は違えどユウにとっても久しぶりの森である。夜明けの森と植生はあまり変わらないので懐かしさはないものの、代わりに妙な感慨が湧いてきた。
獣の森には
すると、入ってしばらくして獣に襲われた。草木の陰から飛び出してくる。
「野犬だ! くそ、まとまって来やがる!」
「あああ!」
当然ユウも野犬に狙われた。大きな口を開けて牙を剥いてくる野犬の横っ面を
薬草採取のグループで狩猟組をしていたときに比べて、ユウは段違いに対応力が高くなっていた。自分でも驚くくらいに体が動く。
4頭目を倒したところで戦いは終わった。すぐに討伐証明の部位を削ぎ始める。
「レックス、1年ちょっと前まで獣の森で薬草採取してたんだけど、こんなに獣が出たことはなかったんだ。レックスのときはどうでした?」
「オレんときもこんなに出た記憶はねーな」
「これが異常事態だってことは知ってますけど、森の入り口近くでこんなに襲われるとなると中はもっと大変なんでしょうね」
「考えたくねーなー」
面白くなさそうな顔のレックスがため息をついた。
討伐証明の部位を削ぎ終わった後、合同パーティはすぐに獣の森の奥へと進む。しかし、野犬を始め、狼、鹿、猪、猿など、実に多種多様な獣たちが次々と襲ってきた。その数の多さに誰もが最初は驚き、次第に辟易していく。
確かに獣の活動が活発だと聞いていたが、さすがにここまでとは誰も予想していなかった。わざわざ探すまでもなく、歩いているだけで獣の方からやって来る。しかも、冬眠していてもおかしくない獣までいるのだから不可思議だ。
雑な数え方をすれば、初日にして1人平均30頭は殺した。各パーティが持ってきた麻袋が早速重い。夜になるとさすがに頻度は下がったが、それでも襲撃は繰り返される。
翌朝、朝食時にパーティリーダーが集まってその日の方針を確認した。あまり眠れていないため顔色の冴えないアーロンが口を開く。
「奥に進むのは危険だぜ。今日半日はこの辺りをうろついて、獣の襲撃ペースが昨日と同じなら森の入り口に戻るべきだ」
「俺も賛成だ。昼はともかく、夜もああ襲われたら休めないからな。危なくなったら森の外にすぐ出られる場所にいた方がいい」
他の2人の意見を聞いた
「寝られねぇってのはきついもんな」
成果は上がったものの、予想を上回る危険に曝されたことに3人は歯噛みした。充分に戦えるという手応えを感じていただけに悔しさが滲む。
それでも、1つ間違えれば一気に全滅の憂き目に遭うことだけは全員認識していた。なので、ここでは無理をしない。
方針を固めたところで、3パーティは2日目の獣狩りを始めた。
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