知り合いとの集い
まだ1年にも満たないが、それでも今やユウはすっかり冒険者らしくなりつつあった。夜明けの森に入って大いに魔物を狩り、街で疲れを癒やす。アーロンたちからはともかく、周囲の冒険者からは対等な存在として認められていた。
そのユウは特に仲の良い3人とよくつるんでいる。いずれも銅級冒険者だが鉄級のユウと波長が合うようだ。
この日も日没が近づく六の刻の鐘を合図に安酒場『泥酔亭』に集まった。今日はユウのおごりでの飲み食いだ。酒と料理が丸テーブルに置かれるとまずは乾杯する。
「はぁ、おいしいねぇ」
「おお、ユウもこういうのがわかるようになってきたのか!」
「ローマンみたいにいきなり1杯を飲み干すのはできないけどね。それ途中でむせない?」
「むせねぇな。全部一気に飲めちまうぜ!」
側頭部をそり上げた筋肉質な青年ローマンが以前とは違うユウの飲みっぷりに気付いた。素直に驚いている。
黒の混じった茶髪の明るい青年がそれを面白そうに見ていた。木製のジョッキから口を離してしゃべる。
「ユウ、気を付けなよ。こいつ、飲めるとわかったら際限なく飲ませようとするからね。僕は1度それで酔い潰されたことがあるんだ」
「いーじゃねーかよ、ピーター。自分の限界が知れたんだし。ユウも知っとくべきだぜ!」
「限界なんか知らなさそうな奴に言われてもねぇ」
「知ってるぜ。オレ、クリフさんと飲んで潰れたことあるからな!」
「ああそうだった。
嫌なことを思い出したとばかりにピーターが顔をしかめた天井を仰いだ。
それを見ていた角張った顔の青年がピーターに尋ねる。
「リーダーが飲ませることって
「ないね。バートがそういうの嫌いだから。
「強引に飲ませるっていうのはない。でも、気付いたら飲まされてたっていうのはある。エディはそういうの得意だから」
「何それ怖い。マイルズもやられたのかい?」
窺うようなピーターの質問にマイルズはうなずいた。それから木製のジョッキに口を付ける。ピーターの目が見開いた。
そんなどうでもよい話から始まって仲間内での宴会が始まる。お互いに遠慮することなどないので話はあちこちに飛んで容赦なく突っ込みが入った。それがまた楽しい。
ある程度酔いが回ってきたところでユウが足を踏みならす。
「そうだ! 僕昨日ブーツを新しいのに変えたんだよ! 前のは小さくなってちょっと足が痛かったしね。ほら!」
「ほらっつーてもわかんねーよ。どうせ中古だろうしって、ほんとだ。新品なのか?」
「中古だよ。ジェナの道具屋で買ったんだ」
「あの口の悪いババァのところか。前に喧嘩して以来行ってねーな」
「ローマン、なんで喧嘩したの?」
「いや、あんまりにも口が悪くてちょっと言い返したらそのまま言い合いになっちまって」
「あーうん。確かに口は悪いよね」
「だろ? お前あんなところで道具を買ってんのか。もっといいところ紹介してやるぜ?」
「ありがとう。でもいいよ。あそこだって悪くないし」
「マジか。オレの周りだと評判
木製ジョッキを空にしたローマンが少し目を見開いてユウを見た。
一方、ピーターがにこやかにマイルズと話をしている。
「今年は魔物の間引き期間で鉄級のパーティがたくさんやられたけど、ようやくその数も持ち直してきたね!」
「とりあえず数はね。けど、質についてはまだ全然当てにならないよ。まだメンバーとの連携がうまくいかないって嘆いてる人と話したことがあるし」
「そうなると、まだしばらくは安心できないって感じなのかな?」
「いや、それほど不安がることはないよ。魔物の数はこれから冬にかけて減るから、経験を積むにはちょうどいいと思うし。来年の春にはそれなりになるんじゃない?」
「ということは、来年の魔物の間引き期間は安心ってわけだ!」
「今年みたいにやたらと増えるってことがなければ。誰かが変なことをやらかさなきゃ」
「あー前の探検隊みたいにね」
苦笑いしたピーターがソーセージを摘まんだ。結局魔物が例年より増えた原因は不明ということに落ち着いたものの、冒険者の間では春先の探検隊のせいと思っている者も多い。ピーターもその1人だった。
話が一区切りすると、今度はマイルズが話題を提供する。
「俺が気にしているのは冒険者の数よりも、最近出てきた盗賊の話だね。境界の街道で隊商や旅人を襲ってるって聞いたことがあるよ」
「あ、それ知ってるぜ、オレ! アドヴェントの町から東側に延びる街道沿いの話だろ?」
ユウを相手に話をしていたローマンがマイルズへと顔を向けた。目を見開いたマイルズがローマンを見返す。
「ローマンも知ってたんだ」
「たりめーだぜ! と言いたいところだが、実際はクリフさんからの又聞きなんだよな。魔物の間引き期間の交易で商業が活発になったので狙われているらしいっつてたな」
「そうなんだよ! だから、最近はやっていなかった街道の警備の話も冒険者ギルド内で持ち上がってるそうなんだ」
「なんでギルドなんだ? 街道の警備なら町の騎士や兵隊の仕事だろ?」
「どんな理由かは知らないけど、それが俺たち冒険者にも回ってくるかもしれないんだってさ!」
「うわー、めんどくせー」
嫌そうな顔をしながらローマンが木製のジョッキを一気に呷った。マイルズは鶏肉をナイフで切って口に入れる。
木製ジョッキを口に付けながらユウは周りの話を聞いていた。どれも知らない話ばかりである。自分で直接そういった話を仕入れることができれば良いのだが、今のところうまくいっていない。
今の話を聞いていたピーターが珍しく笑顔を潜めて口を開く。
「今のマイルズの話、もしかしたらこれと繋がってるのかなぁ?」
「お、なんだよ、言ってみろよ」
「いやあのね、最初は税金が上がるって話を聞いたことがあるんだ。先月あたりだったかなぁ。僕たちは直接取られてるわけじゃないからそのときは聞き流してたんだけど、別の機会に税金が上がる理由が戦争だって聞いてね」
話を促したローマンが目をぱちくりとさせた。しゃべっているピーターは少し遠慮がちだ。眉をひそめたマイルズが尋ねる。
「どことどこが戦争するって?」
「そこまでは知らないんだ。けど、トレジャー辺境伯爵が戦争するから兵隊を集めてるっていう噂があるんだよ。これを聞いたときに税金が上がる理由はこれかなって思って」
「なるほど。でもそれが、街道の警備に俺たち冒険者が駆り出される理由にってそうか、この町も兵隊を出すから警備の人が足りないんだ!」
「そうそう。マイルズの話を聞いたときに思ったのがそれなんだ」
「えー、もう余計なことはしないでほしいなぁ」
木製ジョッキを丸テーブルに置いたマイルズが迷惑そうな顔をピーターに向けた。そのピーターは無言で首を横に振る。
じっと話を聞いていたユウは首をかしげた。しばらくしてローマンに顔を向ける。
「もし街道の警備が僕たちに回ってきたらどうなるの?」
「そうだなぁ。たぶん直接徴兵されることはねぇと思う。そうじゃなくて、冒険者ギルド経由で指名依頼としてくるだろうな。拒否権なしで」
「事実上の徴兵じゃない」
「そうだぜ、冒険者ギルドなんて町の領主にべったりだからな。特に本部の連中は大半が町民だし」
面白くないといった様子のローマンが何杯目かの木製ジョッキを傾けた。
そこへマイルズが口を挟んでくる。
「俺たちの扱いは傭兵とはまた違うらしいから、領主が直接集めるわけにはいかないらしいんだ」
「ふーん。だったら放っておいてくれたらいいのに」
「まったく! 俺もそう思うよ。でも、俺たち冒険者ってなかなか便利な存在らしくて無視できないらしいよ」
「便利ってどういう風に?」
「なかなかの戦力で雇うのに大した金がかからなくて、それでいて使い捨てできる」
「最悪じゃないか。聞かなきゃよかったよ」
「まぁでも、パーティ単位でしか集団行動ができないから戦場では使いにくいって聞いたこともあるね。だから、兵隊が抜けた穴を埋めるのに使われるのが一般的だと聞いている」
「本当かなぁ」
「どうだろうね。負けてきたらそんなことは言ってられないだろうし。まぁ今は信じてもいいんじゃないかな。そういった話はまだ出回っていないし」
「戦争なんて僕たちと関係ないところでやってほしいな」
しょんぼりとしたユウがため息をついた。
その後も話題はあちこちへと飛んだ。身近な話から遠い町の噂など多岐にわたる。
近頃は飲むことに慣れてきたユウであったが、まだまだ話題という面では他の3人は遠く及ばない。一体どうやったら追いつけるのだろうと内心で首をかしげながらも、ユウは友人の話に耳を傾けていた。
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