薬草採取の護衛(後)
冒険者になってからのユウは
その制限は夜明けの森でも有効な場合があり、実際の戦いでも禁じられているものもある。もちろんこれはいつでも仲間がユウを助けられるという前提があるためだ。
しかし、当然そんなことを言っていられない場合がある。
「ピギィ!」
一向に攻撃をしてこないユウに対して
真正面の敵からは目を離さずにユウは右手で腰から悪臭玉を取り出した。そして、無造作に槍を突いてくる相手の顔に退きながらその玉を下手で投げつける。
「ピギィィィイイィィィィ!?」
鼻面で悪臭玉を受けた
その強烈な効果を見てユウは安心した。効かなければほぼ詰んでいたのだ。体の力が抜けそうになる。しかし、気合いを入れ直すと、痙攣する
一息ついたユウは戦う音の方へ顔を向けた。1つ息を吸って吐き出すと仲間の元へと走る。
最も近かったのはジェイクだった。
「ジェイク、こいつは僕が引き受ける! レックスのところへ!」
「お前が? さっきの1頭は?」
「殺した!」
「わかった、なら任せるぞ!」
簡単な会話でジェイクは引き下がった。ユウに自分の
制限なしだとそこまで怖い相手ではないことを知ったユウは、錆びた剣を持って襲いかかってくる
「ピギャァァァァァ!?」
頭部を中心にハラシュ草の粉末が飛び散ったことで
暴れる
「アーロン! 僕も加勢する!」
「てめぇ、自分の
「殺した! ジェイクのは悪臭玉を喰らわせたら地面に転がったよ!」
「ひでぇことしやがる! だがよくやった! ということはあと2匹だな!」
話している途中でも
「僕に作戦があるんだ。フレッド、悪臭玉をあいつの真正面から投げてほしい。はいこれ。僕が離れたら好きなときに投げていいから」
「おっしゃいいぜ!」
「俺はどーすんだよ?」
「あいつが悶絶したらとどめを刺して!」
「いい作戦だな、乗ったぜ!」
にかっと笑ったアーロンとフレッドからユウはすぐに離れた。
様子を窺っていたフレッドが、ユウが立ち止まるのを見てすぐに悪臭玉を投げつけた。それはとっさに後退する
しかし、1つめの悪臭玉がはたき落とされる瞬間にユウが2つめを投げつける。ユウへは意識を向けていなかった
「ピガァァァァ!?」
頭部全体にハラシュ草の粉末を浴びた
「よっしゃ今だ!」
かけ声と共にアーロンが飛び出してまずは足を切りつけた。次いでフレッドが
こうなるともう勝負は付いたも同然だった。後にジェイクとレックスも参加して
「やったか? やったな。よっしゃ、
動かなくなった
興奮冷めやらぬ
最後にクレイグとダニーが去って行った方角へと5人は向かった。周囲を警戒しつつも小走りに進む。
6頭いた
追いかける方も追いかけられる方も周りに気を遣う余裕はないようで、6人と2頭の通った経路には何かしらの跡が残っていた。熟練冒険者ならば充分に追える。
「聞こえた。まだ戦ってるみたいだぞ。こっちだ」
最初に察知したのはジェイクだった。仲間の先頭を小走りに進む。すると、戦う音が唐突に消えた。
5人が更に進むと
4人の前に姿を現したアーロンはクレイグへと声をかける。
「他の2人はどうした?」
「あっちに隠れてる。こいつらと戦うときは邪魔になるからな。見ての通り、こっちは今終わったところだ。そっちは、うまく逃げてきたわけだ」
「いや、全部片付けてきたぜ!」
「は?
「そうだぜ。切り札を使ったんでな。まさか本当にやれるとは思わなかったが」
「一体どうやったんだ?」
「獣の森の薬草採取のグループがよく使う悪臭玉ってあるだろ? あれをあいつらの鼻面に投げつけてやったんだ。こっちも驚くほど効いたぜ」
「よくそんなのを思い付いたな」
「うちの若手がやったのさ。な、ユウ!」
「え? あ、はい」
「その悪臭玉で、
突然声をかけられたユウは目をぱちくりとさせて固まった。それを仲間4人がにやにやして見ている。一方、
同じく呆然としていたダニーだったが、絞り出すような声でユウに話しかける。
「なぁ、お前本当にやったのか? あの
「ダニーから引き受けた
「
「あれはもう1人の仲間と一緒に悪臭玉を投げて悶絶させてから、みんなと一緒にとどめを刺したよ」
「お前、いつの間にそんなことができるようになったんだ?」
「いやいつの間にって言われても、やってることは獣の森でやっていたことと変わらないよ。最初に悪臭玉で怯ませて、それから殴って弱らせて最後にとどめを刺すって。ダニーも見たことあるはずだよ。っていうか、ダニーもやったことあるよね?」
格上の魔物を倒したことはユウ自身も未だに信じられないところはあった。しかし、倒した戦い方自体は今までと同じやり方だ。誰でも知っていると言っていい。
なのになぜダニーがそこまで驚いているのかユウには理解できなかった。てっきりさすがオレのダチと言って喜んでくれると思っていたのだ。
ダニーの様子がおかしいことは周囲にも伝わったようで、アーロンたちもクレイグたちも困惑した。その中でクレイグが最初に口を開く。
「なんか驚きすぎてるみたいだな。まぁ
「そうかい。なら帰ろう。さすがに俺たちも疲れちまったからな」
クレイグに応じたアーロンが肩をすくめた。疲れたというのは本当事実である。近年珍しい苦戦だったのだ。これ以上戦い続けるのは正しい選択とはいえない。
何となく微妙な雰囲気になりながらも、2つのパーティは帰路についた。丘の上の森は厄介な場所ではあるが、アドヴェントの町からそう遠くないので帰るのは難しくない。
その日の夕方、空が真っ赤になる時期にユウたちは町へと戻った。クレイグたちの問題はともかく、ユウたちは目的を達したので依頼料をもらって別れる。
後は魔物の部位を換金して報酬を受け取り、安宿に戻って寝るだけだった。
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