夜明けの森の捜索
捜索開始当日、天気はどんよりとした曇り空だった。夏が近いこともあって蒸し暑い。いっそ雨が降ってくれた方が涼しいくらいだ。
そんないつも通りの朝、二の刻の鐘が鳴ると同時にユウたちは起きる。日の出と同時に宿の裏手で用を足し、
準備をすべて終えると
その顔ぶれを見たユウが口を開く。
「
「あそこは攻撃力に特化してるからな。今回は呼ばれなかったらしいぜ」
「その割に僕たちは呼ばれたんですか? 似たような感じなのに」
「年の功で選んだんだとさ。人のことを年寄り扱いしやがって、まったく」
あまり面白くなさそうな顔のアーロンがつまらなさそうにユウへと返答した。
集まったパーティは待っている間に周りの知り合いと雑談にふける。誰もが膨れ上がった背嚢を背負っていた。何人かの冒険者が荷物の重さを愚痴っている。
何人かの知り合いと話をしては別れるということを繰り返したユウは、ふとダニーの姿を認めた。ほぼ同時にダニーもユウを見つけて手を振ってくる。
「ユウもいるじゃねーか!」
「おはよう。まさか見かけるとは思わなかったよ」
「なんでだ! 薬草採取をしてっから森のことは詳しいって前に話したろ? こーゆーときこそオレたち
「そうだったね。僕のところに指名が来た方が不思議なくらいだったよ」
「わかりゃいーんだよ。ところで、テリーは見かけなかったか?」
「さっきあっちで別の人と話をしていたよ。まだ話してなかったの?」
「そーなんだよ。あれか。それじゃ、ちょっと行ってくらぁ」
忙しそうにしゃべるとダニーはテリーに向けて歩いて行った。
聞きたいことを聞きそびれたユウは半ば呆然とする。ため息を1つつくと仕方ないという顔をして踵を返した。
しばらくすると、冒険者ギルド城外支所の建物から出てきた職員が集合するよう呼びかけてくる。雑談していた冒険者たちはパーティ単位でそちらに向かった。
その職員によると、今ここに集まっているのが今回の捜索に参加するパーティのすべてとのことだ。そのため、効率良く捜索するために担当地域を割り当てると伝えられた。事前に各パーティの能力は確認しているので実行可能な範囲を申しつけられる。
ユウたちも担当地域を割り当てられた。その範囲を聞いてジェイクがつぶやく。
「ぎりぎりじゃないか」
「いい線突いてきやがる。できねぇこたぁねぇが、なかなかきつい。他の連中も顔をしかめてる奴が結構いるな」
あちこちから聞こえる絞り出すような声を聞いたアーロンが顎に手をやった。近場は普通に魔物狩りをするパーティが良く往来するので探す意味がない。なので遠くを捜索させるため、各パーティの上限を見極めている形だ。優秀な職員が差配したことが推測できる。
担当地域の割り当てが決まると、すぐに出発するよう職員が号令した。特に質問がないパーティから順に夜明けの森へと向かう。
やがて最後のパーティと
「がんばれよー!」
「そっちもなぁ! くたばんじゃねぇぞぉ!」
リーダー同士で明るく挨拶をしてからお互いに進み始めた。ここからが本番である。
つい先日に魔物の間引き期間が終わったので魔物の数は少ない、と思ったら大間違いだ。魔物は春から夏にかけて増える。つまり、間引きが終わっても少しずつ増えるのだ。
魔物に出会った
「数は少ねぇぞ! そのまま叩っ殺せ!」
「ユウ、1匹行ったぞ!」
「あああ!」
あの延々と襲いかかってくる魔物をさばききったユウにとって、今や
魔物と遭遇する頻度は間引き期間に比べてずっと少ないが、秋や冬に比べると多い。半年前のユウであれば相当苦戦していただろう。そういう意味では良い時期に冒険者になったともいえる。
ともかく、魔物と戦いつつも
そうして3日が過ぎて4日目の朝になった。朝食の干し肉を囓りながらアーロンが仲間に伝える。
「今日が折り返しの日だ。こっから半日ほど更に進んで探した後に戻るぜ」
「やっとか。あー早く帰りてぇ」
干し肉を噛みながらレックスが言葉を吐き出した。面白い仕事ではないのでやる気があまりない。
水袋から口を離したフレッドがアーロンに尋ねる。
「兄貴はあと半日探して誰か見つかると思うか?」
「わかんねぇな。今までよりかは見つかる可能性は高いだろうが」
言葉を途中で切ったアーロンは水袋を傾けた。既に魔物の間引き期間の最終日から数えても10日ほど過ぎている。短期間だけしか夜明けの森に入る準備をしていなければそろそろ限界だ。ということは、生きた状態で発見できる可能性は低い。
何も見つからない方が良いのか、それとも何かしら見つけた方が良いのか、各々が迷いながらも朝食後に出発した。
その日の朝は不思議と魔物に出会わなかった。これほど奥まで入って無反応というのは珍しい。特に魔物の間引き期間を経験した直後なので違和感を抱くほどだ。
結局、昼食のときまで戦うことはなかった。ジェイクもしきりに首をかしげている。
「いくら何でもおかしい。何かあるんじゃないのか?」
「俺もそう思うが、問題なのは何があるのかってことだな。今までのことを考えたら、ここでこんなに静かなのは考えられねぇ」
食の進みが遅いアーロンが天を仰いだ。かすかに不安と苛立ちが顔に浮かぶ。
そこへユウがぽつりとつぶやく。
「捜索するには都合がいいんですけどね」
「そうだな。だが、あまりにも都合が良すぎる。この森はそんなに優しくねぇ」
そう言い切ったきり、アーロンは黙った。
何もわからないまま昼食を終えた
ところが、そんなのんきな感想は吹き飛ぶものが現れた。人間の2倍以上の体格がある巨漢で全身が岩でできている魔物だ。それがゆっくりと近づいてくる。
「
声を上げずに近づいてくる
しかも、次第に濃くなる白いもやの中から更に2体目、3体目の
次第に囲まれていく中、アーロンは仲間に声をかける。
「逃げるぞ、ついてこい!」
そう言い放つとアーロンは踵を返して走り出した。普段の姿からすると驚くくらいの逃げっぷりである。それに、ジェイク、フレッド、レックスと続いた。
突然のことに混乱するユウだったが、はぐれないよう4人の後を懸命に走る。白いもやが濃くなる一方なので少しずつ見えづらくなっていくのが恐怖心を煽った。
走りながらユウは左右を見るが魔物の姿は見えない。というより、木々すらも見えにくかった。足下もおぼつかなくなってきて蹴躓かないように気を遣う。
「どこまで走るんです!?」
「黙ってついてきやがれ!」
ユウの叫びに対して前を走るレックスが叫んだ。反応があるということはまだはぐれていない証拠である。
わずかに安心したユウは周囲と足下に気を配りながら走った。こんな状況は初めてなので顔が引きつる。
それでもやはり完全ではなかった。足先に何かを引っかけて倒れてしまう。
「あぅっ!」
地面に倒れた瞬間、ユウは痛さよりも恐ろしさを感じた。ここで仲間とはぐれるわけにはいかない。魔物の間引き期間に
すぐに立ち上がったユウは再び走り始めた。もう
しかし、ユウはしばらくして異変を感じ取った。先程まで聞こえていた前を走る仲間の足音が聞こえない。あまり考えたくないことが脳裏をよぎる。
あれだけ濃かった白いもやが晴れてきた。周囲の樹木が姿を現し、開けた場所に出る。
「あれ?」
足を止めたユウの目の前には見たことのない建物が建っていた。
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