夜明けの森の奥へ(前)
吐く息と同じくらい白い雲が一面に広がる中、
昨日とは違い、今日のアーロンたちは遠慮なく森の奥へと進んでいく。一泊する予定なので日が暮れるまでは突き進んでも問題ないのだ。
最初の小休止に入ると、ユウが見張り役に選ばれた。座る仲間の近くで立って周囲を警戒する。その背後でアーロンとジェイクが話をしていた。雑談の類いではなく、今後の方針についてである。
「今日は丘の上には上がるのか?」
「いや、そこまでは考えてねぇな。平地のまま森の奥に進むつもりでいる」
「そうなると、今日は虫と戦わせるのか?」
「ああそんなのもいたなぁ。あれは集団でやって来ると厄介なんだよな。俺は動物の方を考えてたんだ」
「そっちか。まだ早くないかな?
「んなこと言ってたら、いつまで経っても先に進めねぇだろうがよ。新人の集まりじゃねぇんだ。できることはさっさとやらせねぇと」
背を向けているユウには2人の表情まではわからなかった。しかし、自分のこと真剣に考えてくれていることに少し頬が緩む。ただ、これは聞いて良いことなのか首をひねった。
小休止が終わるとまた森の奥目指して歩き始める。先頭からジェイク、フレッド、アーロン、ユウ、レックスと昨日と同じ順番の一列縦隊だ。
最初に見つけた魔物は
その報告を聞いたアーロンはうなった。ちらりとユウを見る。
「僕がいなかったら攻撃していたんですか?」
「まぁな。
「今の僕だと1匹を相手にするのがやっとですが、怯ませるだけならもう少し相手にできると思うんです」
「ほう、昨日の今日で自信がついたか?」
「それもあるんですけど、悪臭玉がありますから。あれって
「あれかぁ。通用するが、俺たちを巻き込むなよ?」
「だったらこうしましょう。最初に僕が先頭で突っ込んで、
提案を聞いたアーロンは一瞬虚を突かれたかのような表情をした。しかし、すぐに真顔になってジェイクへと顔を向ける。
「ジェイク、固まってるやつらはいたか?」
「5匹か6匹くらいは何か食ってたっぽかった」
「もう一度確認してくれ。半分くらいが集まってるってんなら、ユウの案でやってもいい」
「わかった」
うなずいたジェイクはすぐに草むらの奥へと消えた。
姿を消したジェイクの様子をちらりと目で追ってからアーロンはにやりと笑う。
「おもしれーことを思い付くな。よく使う手なのか?」
「たまに使ってました。複数の獣を相手にするときは1対1に持ち込まないと勝てませんでしたから。虎まででしたら何とか撃退してました」
「なるほどなぁ。棍棒だけじゃねーんだな」
「冒険者は悪臭玉を使わないんですか?」
「そういうわけじゃねーんだけどよ、どうしても武器を頼っちまうんだ。悪臭玉はなんつーか見栄えが悪いしよ。それに、風向きによっちゃ仲間も巻き込んじまうだろ」
「獣の森で戦っていたときは基本1人だったんで、あんまり仲間を気にしなくても良かったのは助かってたんですね」
「6人グループじゃねぇのか?」
「護衛と薬草採取の担当がペアを組んで3組ばらばらで活動するんです。戦いになったら薬草担当が木に登って退避するんですよ。危なくなったら逃げたり仲間に助けを求めたりしてました」
「へぇ、結構おもしれーことやってたんだな」
ユウの戦い方を聞いたアーロンが感心しながらうなずいた。
2人が話を弾ませているとジェイクが戻ってくる。その真剣な眼差しを見てアーロンも表情を引き締めた。仲間のそばまで近寄ったジェイクが告げる。
「5匹がまだ一塊になってた。他はばらばらだな」
「一番近くの草むらからその塊までの距離はどのくらいだ?」
「40から50レテムくらいだな」
「ユウ、いけるか?」
「その草むらから出てすぐ投げたらぎりぎり届くと思う。あんまり離れすぎると狙ったところに投げられないんです」
「ということは、ユウを中心に左右に2人ずつ配置して、ユウが悪臭玉を投げてから全員突撃だな。風はほとんどねぇから近づかなきゃあの臭いを吸い込むこともねぇだろ」
作戦内容を伝えたアーロンが仲間の顔を一巡り見た。全員がうなずく。
戦い方が決まれば行動は速い。ジェイクがユウを連れて魔物まで最短の草むらに案内する。
指定された場所に隠れたユウは草陰からその先を覗いた。何匹もの
魔物の様子を窺っているユウに対して、隣のジェイクが小声で伝える。
「今回はユウの判断で始めるんだ。お前が悪臭玉を投げて向こうに着弾したら俺たちは突撃する。いいな?」
「わかりました」
承知したユウを見たジェイクはうなずくと脇に下がった。
深呼吸したユウは再び草むらの向こうへと目を向ける。状況は何も変わっていない。そして、これから魔物がどう動くのかわからない以上、すぐに始めるべきだと判断する。
腰にぶら下げてある悪臭玉をユウは1つ右手に取った。棍棒は左手に持ち替える。そして、前を見据えて一気に飛び出し、何歩か進んだ後に振りかぶって投げた。
最初に気付いたのは徘徊していた
「キギャ?」
ただ、その反応は鈍いものだった。警戒して注目したというより、何か聞こえたから振り向いたという様子である。そのため、集まっていた5匹の
「ギヒャ!?」
突然の猛烈な悪臭に5匹の
周囲にいた
その隙を
最初に飛びかかったのはジェイクだった。両手に持った手斧で
奇襲効果もあっていきなり4匹が倒れたこともあり、
その乱戦の中でユウは1匹の
「あああ!」
「ギギャ!」
ユウの振り抜いた棍棒が
そこからは一方的である。ユウは武器をなくした
呼吸を整えながらユウが周囲を見ると、立っている
近くにいたフレッドがユウに近寄ってきた。笑顔で話しかけてくる。
「悪臭玉は凶悪だな! 見てるこっちの鼻もひん曲がりそうだぜ!」
「実際に吸ったらそれどころじゃないですよ。もう終わったんですか?」
「あいつらはみんな殺したぜ。数の割には楽勝だったな。ユウ、お前なかなか頭いいじゃないか」
「ありがとうございます」
褒められたユウははにかんだ。
楽しくユウとフレッドは話をしているとアーロンが近づいてくる。
「作戦は大成功だな! とりあえず、
「はい」
「任せてくれ、兄貴!」
「それとユウ、このやり方はこれからも使えそうだ。また機会があったらやるぞ」
「はい!」
踵を返してレックスのところへ向かうアーロンにユウは元気よく返事をした。次いで周囲を見ると倒れ伏した
ダガーを取り出したユウはしゃがんで
自分が提案した作戦が通用したことにユウは顔をほころばせた。手つきが軽くなる。そうして近くで倒れている
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