冒険者との繋がり

 冒険者ギルドの戦闘講習でダガーの使い方を学んだユウは、その技法を身に付けるべく練習を重ねる。とは言っても、対人戦が中心なので1人で訓練するには限界があった。


 そこでユウはウォルトに話を持ちかける。


「ダガーの練習相手になってくれないかな? 代わりに棍棒を使った戦い方を教えるから」


「いいっすねぇ! 前からユウの戦い方は気になってたんすよ!」


 同意を得られたユウは週に1回、休息日の朝にウォルトと貧民街の外れで訓練を始めた。元はマークとの勉強会に使っていた時間帯だがそれと差し替えである。1年以上教えて文字と算術をある程度学べたマークは週3日の夕食までの時間で充分と判断したのだ。


 ウォルトとの訓練は対ダガーの格闘戦が中心である。何しろ相手がいた方が断然身になるのだ。自分のダガーをウォルトに持たせてユウは素手で組み手を行う。


「へぇ、ダガーってこう使うんっすねぇ。けど獣相手に頼りなくないっすか?」


「獣相手だととどめを刺すために使うからいいんだ。ダガー1本で戦うつもりはないから」


「獣の森で仕事をするのにこの選択はどうなんっすかねぇ」


「当時の僕にも色々あったんだよ」


 方々で似たようなことを言われるユウは渋い表情を浮かべた。選ぶのが今だったら絶対に違う選択をしていただけに反論しにくい。


 何度か格闘戦をこなしながらウォルトがしゃべる。


「やっぱ冒険者を目指すなら剣とか槍っすよね! なんってったって間合いと威力が違うっすから!」


「それは否定しないけど、他の武器があってもいいんじゃないかな?」


「そりゃそうなんっすけど、やっぱ花形は剣っすよ。みんな言ってますもん」


「みんなって、ウォルトの友達が?」


「そうっすよ。それに、知り合いの冒険者もっす」


「え、冒険者に知り合いがいるんだ」


「もちろんっすよ。冒険者になるのが夢なんっすから、繋がりは持っとかないとっす」


 対ダガーの格闘戦をしながらユウは内心で驚いた。後輩のウォルトでも冒険者との繋がりがあることにだ。貧民は横の繋がりがあるとはよく聞くが、これもその一環なのかと考える。


 ほぼなし崩し的に冒険者を目指しているユウは、どうやってそんな繋がりを得られるのか不思議で仕方なかった。幼い頃から貧民でないといけないのか、それとも繋がり方に問題があるのかわからない。


 冒険者を目指すのならば冒険者と直接繋がっておくことは必要だろう。当人たちの話を直接聞く機会はあった方が絶対に良い。そういえば、テリーもダニーも冒険者との繋がりがあった。


 考えていると気になったことがあったのでユウはウォルトに尋ねてみる。


「冒険者とどうやって知り合ったの?」


「そりゃ、先輩後輩の縁で知り合うのが一般的っすね。後は友達を通じてとかっす。ユウはそういうのはないっすか?」


「う~ん、僕はこの街に来てまだ2年しか経ってないからなぁ」


「時間はあんまり関係ないと思うっすよ? 知り合いの伝手をたどったら何とか冒険者と知り合えるっすから」


「うっ」


 ばっさりとウォルトに言い切られたユウは顔を引きつらせた。しかし、冒険者の知り合いと言えばテリーとダニーの2人になるが、どこにいるのかわからない。ニックがいたらテリーと会えたかもしれないが既にここを去っている。


 かといってウォルトに紹介してもらうのは気が引けた。こういうことは後輩には頼みにくい。やはり自分で何とかするしかないだろう。


 ダガーの訓練を繰り返しながらユウはそう考えた。




 昼食を済ませたユウは昼から冒険者ギルド城外支所へと向かった。確たる理由があったわけではなく、冒険者のことなら冒険者ギルドに聞けばいいと思っただけだ。


 相変わらず誰も人が寄り付かないレセップの前にユウは立つ。


「レセップさん、ちょっと相談があるんですけど」


「ここはお悩み相談室じゃねぇぞ。相談なら自分の仲間にしろ。そのための仲間だろ」


「いやまぁそうなんですけど、仲間にはちょっと相談しづらいんですよ」


「何を相談する気なんだ、一体?」


「えっとですね、冒険者と繋がるためにはどうしたらいいのか知りたいんです」


「はぁ?」


 不思議な生き物を見る目つきでレセップはユウを見た。見られたユウは居心地悪そうに身じろぎする。実にいたたまれない。


 大きなため息をついたレセップが口を開く。


「んなもん、自分の先輩後輩の縁を頼ったり、ダチの伝手を使うのが当たり前だろうが」


「あーやっぱりそうなんですよね」


「知ってんじゃねーか。だったら知り合いに声をかけろよ」


「そうですよねぇ。ちなみに、そこら辺にいる冒険者に話しかけるってのはどうなんですか?」


「そりゃやめといた方がいい。いきなり声をかけてこられた方は身構えるからな。こういうのは相手の懐に飛び込むのが重要だから、知り合いの伝手を頼るんだよ」


「なるほど」


「んな回りくどいこと考えてねぇで、お前さんの知り合いに声をかけろって。絶対誰か何かしらで繋がってるからよ」


 そう言われて追い返されたユウは冒険者ギルド城外支所の建物から出た。


 帰りの道すがらユウはどうするべきか考える。仲間の顔を思い浮かべたところ、冒険者と縁がありそうなのはウォルトとティムだ。しかし、どちらも後輩なので頼みづらい。ジョナスは微妙だ。あとはケントなら知り合いに冒険者がいるかもしれない。


「ケントに相談すればいいのかな」


 先輩に当たるケントなら相談することにユウは抵抗はなかった。悪くない案に思える。


 他には何かないかと記憶を探っていると1つ思い出した。以前、エラが泥酔亭にテリーがやって来たと話をしてくれたことだ。エラなら相談しやすいし、相手の冒険者はかつての仲間である。


「もしかして最高の案じゃないか!?」


 思った以上に良い案を思い付けたとユウは喜んだ。家路を急ぐ。


 エラは毎日五の刻から七の刻まで泥酔亭で働いていた。その上家の仕事もこなしているのだが、最近は街の仕事をパットとロイに任せ気味なので休息日の昼は大抵家にいる。まだ五の刻までかなりあるのでエラは家にいるはずだった。


 足早に家へ帰るとユウは室内を見る。いるのはケント、アルフ、エラの3人だ。そのエラは台所に立っている。


「エラ、ちょっと話があるんだけどいいかな?」


「なに? 今くず野菜を細かくしてるから、このままで聞くわよ」


「別にいいよ。あのさ、前にテリーが泥酔亭に来たって言っていたでしょう? あれからも来てるの?」


「その1回きりねぇ。ただ、あたしは夕方からしかお店に行ってないから、昼間に来てたらわかんないわよ」


「そっかぁ」


 状況があまりよろしくないことにユウは少し肩を落とした。エラとの義理を果たすために1回だけ泥酔亭にやって来たという可能性がある。そうなると、この手段は使えない。


 ともかく、ユウは言うだけ言ってみることにする。


「あのね、もし次にテリーが店に来たら、僕と会えるか聞いておいてくれないかな」


「ユウと? テリーと会いたいの? どうして?」


「冒険者との繋がりがほしいからなんだ。テリーだったら直接知ってるし安心だからね」


「なるほど、確かにそうね。でもそれだったら、ユウが毎日お店に来てくれてもいいのよ?」


「お金に余裕があったらそうしていたんだけどね、今は自分の道具を買うので精一杯なんだよ」


「ふーん。まぁ冒険者ってなんやかやお金がかかるって聞くしねぇ。それにしても、ユウも冒険者を目指すんだ」


「うん、なんかそういう流れになったんだ」


「流れぇ? 大丈夫なの? 流されて命をかけるなんてバカらしいわよ」


「いやうん、わかっているよ。さすがに何となくだけでなるつもりはないから。というか、その辺の覚悟を決めるためにもテリーと話をしたいんだ」


「そういうことね。いいわよ。ただし、テリーがいつまた来てくれるかわかんないから、気を長くして待っててよ」


「わかっているよ。ありがとう」


 そうしてユウは再びいつもの生活を送りつつエラからの連絡を待った。数ヵ月単位で待つことも覚悟していたが、意外にも連絡はすぐに来る。エラによると悪くないのでたまに通うことにしたらしい。


 ユウの相談内容をエラが伝えるとテリーは二つ返事で承知したという。テリーとしてもユウに興味を持ったということだ。そのため、泥酔亭で会うことになる。日時は5月最初の休息日の夕方に夕食を食べることになった。


 伝言を伝えたエラがユウに見返りを求める。


「それじゃ、もっとお店に来てよ。食べるだけでも飲むだけでもいいから」


「う、うん。善処する」


 最後は泥酔亭に行くことを約束させられたユウは顔を引きつらせた。この辺り、エラはしっかりとしている。


 しかし、これで準備は整った。後はテリーと会うだけである。久しぶりの再会をユウは楽しみにした。

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