急ぎの欠員対策

 また1人夢を掴んで巣立っていった後、ユウたちは次にどんな人を迎え入れるのか話し合った。その結果、将来狩猟組に転向してくれる薬草採取の経験がある人物ということで一致する。これには現在のグループの事情が反映されていた。


 現在、ダニーが抜けたことでグループの狩猟組はニックとケントの2人である。この欠員を埋めるのは前から準備をしていたユウだ。そうなると採取組はビリーとマークの2人のみになるのだが、単純にパットを当てて埋めるのでは先がない。


 そこで、今回はグループに専属で入ってもらう人物を引き入れることにしたのだ。留守番組で街の仕事を一手に引き受けられるのが現状パットだけなので、あまり獣の森での仕事に使いたくないのである。


「で、さっきから見てますけど、都合のいい人なんてどうやって見つけるんですか?」


「基本はそれっぽい奴に声をかけていくしかないな」


 壁にもたれているニックが周囲を見回しているユウに静かに語った。


 冒険者ギルド城外支所の建物内の南側壁面で、ニック、ケント、ユウの3人は立っている。習慣としてこの辺りでグループのメンバー探しが行われているからだ。


 本来参加するべきビリーは休息日は丸1日出かけているので、ユウが代役をしている。グループ内の序列としてそろそろ参加するべきとニックが判断したのもあった。


 三の刻の鐘が鳴る前から南側の壁に3人で立っているが、既に何人かに声をかけられている。いずれも貧民ばかりだ。残念ながらいずれも条件は合わなかったが。


 徐々に困った表情になっていくユウがニックに尋ねる。


「でも、まだ誰にも声をかけていませんよね?」


「良さそうな奴がいないからな」


「さすがにすぐには見つからないですか」


「今日中に見つかったら御の字だ。ケント、お前の方はどうだ?」


「見つからない」


 無表情で返答したケントはそのまま黙った。こちらも良さそうな人物は見つけられないでいるらしい。


 結局、四の刻の鐘が鳴るまで立ち続けたが、思うような人物は見つけられなかった。3人は1度帰宅して昼食を済ませると、昼からも南側の壁辺りに立つ。


 数人の貧民に声をかけられて全員断った後、しばらくしてニックが反応した。茶髪で角張った顔に大きな体を汚れた麻製のチュニックとズボンで包んでいる。しばらく様子を窺っていたが、どうやら人を探しているらしい。


 もたれていた壁から離れたニックがユウに声をかける。


「あいつに声をかけてみよう」


「あの人って薬草採取のグループに入りたがってるんですか?」


「わからん。もしかしたらどこかのグループの代表かもしれん。でも、話しかけてみないとわからないしな。勘違いだったら笑って次の奴に声をかけたらいいさ」


 返答し終えるとニックは目当ての人物に向かって歩いた。相手もこちらに気付いたようで体を向ける。体つきだけを見れば青年だ。


 相手の目の前で立ち止まったニックが声をかける。


「ちょっと話をしていいか? もしかして、どこかの薬草採取のグループに入りたがってる?」


「そうっす。所属していたグループが昨日解散したんすよ。また別のところへ入って稼がないといけないっす。あんたは?」


「俺とのところは1人抜けたばかりで、その穴埋めのメンバーを探してるところなのさ」


「お、ちょうどいいっすね! オレはウォルトっす」


「ニック。グループのまとめ役をやってる。こっちがケント、もう1人がユウだ」


「初めまして。見ての通り体力はあるっすよ! グループに入れてくれないっすか?」


「条件が合えばね。いくつか質問するから答えてくれ」


「いいっすよ、何でも聞いてくれっす!」


 割と簡単に話が進んでいくのを見てユウは半ば呆然とみていた。たまにケントへと目を向けるが終始無言である。


 ニックの質問に特別なものはなかった。何ができるかできないか、仕事の好き嫌い、性格など、今のユウでも質問できそうなことばかりである。もっとも、その上でどう判断するのかというところがさっぱりなわけだが。


 そうして2人が話を進めるとウォルトについてわかってきた。


 当人は体力と腕力に優れており、いずれ冒険者になって活躍したいと考えている。今はそのための貯金をしているところらしい。その割に剣の1本も持ってないことをニックは不思議がったが、体格とは裏腹にユウに年が近いと知ってユウたちは驚いた。


 次いで、ウォルトが所属していたグループが解散した理由は、獣の襲撃を受けて死傷者が発生したためらしい。狩猟組3人が全員死傷したので、ウォルトたち採取組は別グループに入ることにしたのだ。


 話を聞いていたケントが初めて口を挟む。


「戦った経験はあるのか?」


「あるっすよ。基本的に薬草を採る側で、怪我人が出たときに護衛側に回ったっす」


「その割に武器を持っていなさそうだが?」


「確かに持ってないっす。護衛側に回ったときは、怪我人から借りていたんすよ」


「使っていた武器は?」


「剣っす。あんたの腰にあるやつよりボロかったすけどね」


 苦笑いしながらウォルトは肩をすくめた。


 話を聞いていたユウはこちらの条件に合っているのではとニックの様子を窺う。ケントからも目を向けられていたニックはうなずいた。ウォルトへと顔を向ける。


「聞いている分にはいい感じだな。今度はそっちの聞きたいことを聞いてくれ」


「うっす! それじゃ最初は」


 聞くだけ聞いたニックは次いでウォルトの質問に答えていった。分け前、生活費、規則、習慣など、気になることを正しく伝える。


 脇で会話を聞いていたユウはどちらの話も熱心に聞いた。自分もいずれ両方の立場になって話をすることになるからだ。これはどんな仕事でも根っこの部分は変わりない。


 割と楽しく話をしている2人を見ていると、そのうちウォルトが両手を軽く広げる。


「ありがとうっす。聞きたいことは聞いたっす」


「それじゃ、俺たちの家に行こうか。今日から泊まった方がいいんだろ?」


「助かるっす! 貯めた金は武器を買うのに使いたいからっすね」


 交渉がまとまるとユウたちはウォルトを連れて家路についた。貧民街に入ると環境が一気に悪化するが、貧民であるウォルトは気にした様子もない。


 帰宅すると、泥酔亭で働いているエラ以外は全員揃っていた。チャドとマークが台所で夕食の準備をしている。チャドがマークに指示していた。


 最初に室内へ入ったニックが声を上げる。


「帰ったぞ」


「おかえり。おや、どうやら新しい人を見つけてきたようだね」


「やっとのんびりとできるな、アルフ。これからグループの採取組に入るウォルトだ。以前別のグループに入っていて、たまに狩猟組としても働いていたんだそうだ」


「ウォルトっす! 冒険者を目指してるっす。力仕事は任せてくれっす」


 右腕を上げて力こぶを作ったウォルトはにこっと笑った。アルフはニコニコと笑いながらその様子を見ている。


 丸椅子に座ってウォルトを見ていたビリーが片手を上げた。そのまま自己紹介に移る。


「同じ採取組のビリーだよ。台所にいるあっちの方がマーク。経験者らしいけど、一応最初は僕が面倒みるね」


「僕がマークだよ。よろしくね」


「よろしくっす。2人とも色々と教えてくれっす」


 同じ採取組の2人にウォルトは手を上げて応えた。次いでパットが口を開く。


「僕はパット。普段は留守番組として家の仕事や街の仕事をしてる。あっちのマークの反対側にいるチャドとまだ帰って来てないエラと一緒に働いてるよ。それと、グループに怪我人が出たりすると、僕もそっちの仕事をすることがあるから」


「よろしくっす!」


 あまり感情を見せないパットにウォルトは笑顔を見せた。きちんと挨拶を返すので皆の印象が良い。


 そこへ台所からチャドがやって来た。ウォルトへと顔を向ける。


「僕はチャド。最近昼間に働きに出てる。あんまり会わないかもだけど、よろしく」


 以前は人見知りが激しかったチャドだが、スコットの店で働き始めてからその癖が消えつつあった。なので、初めて会うウォルトにも目の前で挨拶をする。


「ニック、ケント、お鍋をこっちに移して」


「オレもやるっす。重い物を持つのは得意なんすよ」


「それじゃお願い」


 頼まれた2人よりも先に名乗り出たウォルトが台所へと向かった。その後にケントとチャドが続く。


 鍋を長机に移すと全員が丸椅子に座った。そこでアルフがウォルトへ顔を向ける。


「自己紹介が遅れたね。俺はアルフ。グループと留守番組のまとめ役をしている。生活で何か困ったことがあったら相談に乗るよ」


「はい、お願いするっすよ!」


「それじゃ食べようか」


 全員の紹介が終わるとアルフが夕食の開始を宣言した。1人ずつ順番に木の皿へとスープを入れていく。


 こうして、新しい仲間との生活が始まった。

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