獣の森での薬草採取(前)
話がまとまったユウ、テリー、ビリーの3人は冒険者ギルド城外支所の建物の南側から外に出た。すると、3人の青年と少年が寄ってくる。テリーが右手を挙げた。
最初に口を開いたのはやや暗めの茶髪の生意気そうな少年である。
「テリー、おせーぞ!」
「人探しなんてこんなものだよ。むしろ早く終わったくらいだね」
「のんきだなぁ。で、コイツが新人なのか?」
「紹介しよう。今日町から出てきたユウだ。字の読み書きと算術ができるって聞いてる」
「字が書けるってーのに外に出てきただぁ?」
「ダニー、失礼だぞ」
胡散臭そうにユウを見るダニーをテリーが軽く睨んだ。注意されたダニーを少し口を尖らせて黙る。
その様子を見ていたユウは少し面食らっていたがテリーに目を向けた。うなずかれるとダニーたち3人を見る。
「ユウです。昨日まで商店で働いていました。その関係で字の読み書きと算術ができます。お試しで今日1日一緒に働くことになりました」
「お試しだぁ? どういうことだよ」
「お互いに合うか合わないか見たり、僕がちゃんとやれるか見てもらったりするんです」
「そりゃまぁ必要だな。いてぇ!?」
「ダニー、お前はなんでいつもそう喧嘩腰なんだ。っと、俺はニック、薬草を採る仲間を守る狩猟組だ。獣を追い払うか狩るのが仕事さ。こいつはダニー、ビリーと同じ薬草を採る採取組だ」
白っぽい茶髪に浅黒い肌の青年ニックがダニーもまとめて紹介をしてくれた。2人が並んで立つと、ニックの背が高く細い体が目立つ。どちらも革のベルトにはテリーやビリーと似た物をぶら下げているが、ニックだけは弓と矢筒を背負っていた。
次いで、茶髪でやや鼻が丸く少し小柄な体つきな少年が口を開く。
「ケント。狩猟組だ」
「あ、うん。よろしく」
あっさり過ぎる自己紹介に戸惑いつつもユウは挨拶を返した。暗い感じがするだけでなく口数も少ないようである。
これで全員の自己紹介が終わった。機嫌が良さそうな表情のテリーが皆に声をかける。
「それじゃ今から獣の森に行こうか。今日は初めてのユウがいるからそんなに奥まではいかないよ」
「テリーさん、このままで行くんですか? 初心者講習だと獣の森では獣に襲われやすいって聞きましたよ。防具とかなくてもいいんですか?」
「良くはないけど仕方ないんだ。その辺は歩きながら説明していくよ。それと、さん付けはいらない。みんな同じ仲間だからね」
苦笑いしたテリーがユウに返答した。続いて他の仲間に声をかけると歩き出す。冒険者ギルド城外支所から西端の街道に移った一行はそのまま南へと進んだ。
懐かしい光景を目の前にしたユウにテリーが話しかける。
「ユウはさっき初心者講習って言ってたけど、冒険者ギルドの講習を受けたんだ?」
「はい、さっき受けたところです」
「具体的には何を聞いたのかな?」
「冒険者登録は夜明けの森で稼げる人しかできないことと、獣の森で稼ぐ場合は最大6人までのグループを結成して代表者だけ登録すれば良いことと、薬草採取と狩猟の利用料は1グループにつき1人分だけ支払えば良いことですね。あ、薬草や獲物はすべて冒険者ギルドで換金するということもです」
「なるほどな。冒険者ギルドの制度面だけか」
「あれって鉄貨100枚もするんだろ? そんだけ払って聞けるのがそれだけかよ。相変わらずギルドはボってんな」
真面目に話を聞くテリーの後ろでダニーが小馬鹿にするように肩をすくめた。ニックとビリーは微妙な顔をするが何も言わない。
「他には、そうだ、獣の森へは絶対1人では行くなとも教えられました」
「大体わかった。初心者講習でユウが教えてもらったことは全部正しいよ。冒険者ギルド側が守ってほしいことばかりだから当然だけどね。ただ、実際に森の中に入るときにやるべきことはこれから俺たちから学ばないといけないな」
「これからオレたちがビシバシ鍛えてやっからな!」
「お前はいちいち口出しするな」
テリーの背後でニックがダニーを注意していた。しかし、まるで堪えた様子はない。
背後の様子にユウはおかしさを感じながらもテリーへと顔を向ける。
「覚えることは多そうですね」
「1つずつ覚えていけばいいよ。他のグループでも大体同じだから身につけておいて損はないから」
「わかりました」
「まず知っておいてほしいのは、俺たちは戦い専門の集団じゃない。獣の森で活動している俺たちのような集まりは大半が薬草を採取するグループなんだ」
「グループ? パーティじゃないんですか?」
「冒険者の集まりならパーティだけど、俺たちはグループなんだ。森の中で獣に襲われる危険こそあるけど、基本的には村で薬草を摘む行為の延長線上の仕事だし、獣を狩る行為も狩人の仕事と変わらないからね。未知の危険はない」
「それじゃ、メンバーの連携とかもあんまりないわけですか」
「そういうわけじゃないんだけどね。ともかく、グループとパーティの違いには気をつけてくれ。冒険者の中にはこだわってる人もいるらしいから。笑われるならましな方で、ひどいと殴られてしまうよ」
困ったという顔をしたテリーを見てユウは少し嫌そうな顔をした。やたらと呼称にこだわる人物はいることを思い出す。
「それで、俺たちのグループは6人で活動している。そのうち3人が薬草の採取組で、残りが狩猟組なんだ。この採取組の1人と狩猟組の1人を組み合わせてペアとしてる。採取組のメンバーが薬草を採ってるときに狩猟組のメンバーが周囲を警戒するんだ」
「薬草を採っている3人を他の3人が守るんじゃないんですね。どうしてペアなんです?」
「薬草はあっちこっちに生えてるからだよ。3人が固まって作業するよりある程度ばらけていた方が効率良く稼げるんだ」
「なるほど、それで獣に襲われたときは狩猟組の3人が戦うと」
「そう、狩猟組で連携してね。採取組は襲撃の合図を聞いたら近くの木に登って避難することになってる。全員が戦えるわけじゃないから」
「採取組はあくまでも戦えない一般人というわけですか」
「そうだよ。戦えないのに下手に武器を持たせて参加させても怪我をするだけだしね。それよりも、薬草をたくさん採って稼いでほしいんだ」
グループの基本方針を理解したユウはうなずいた。
街道を南に向かって歩いていた6人は東に方向転換して原っぱに足を踏み入れる。獣の森は近い。
「狩猟組は俺、ニック、ケントの3人、採取組はビリー、ダニー、そしてユウの3人だ。ユウは今回ビリーと一緒に薬草を採ってくれ」
「はい」
「ユウのペアは俺になる。他はいつも通りだ。あっと、ユウは木登りはできるか?」
「やったことはありますよ。最近はしてないですが」
「なら森に入ってすぐに1回やってもらった方がいいな。後で登って見せてくれ」
「はい」
街道から獣の森はすぐに着いた。その手前で全員が立ち止まる。ユウ以外の5人の顔つきが少し変わった。
振り向いたテリーが全員に声をかける。
「みんな、虫除けの水薬を振りかけるんだ。ビリー、ユウに分けてやってくれ」
「わかった。ユウ、これを使って。体にたくさん塗るんだよ。そしたら虫が寄って来ないから」
受け取った手で握れるくらいの小瓶はコルク栓で蓋をされていた。少し苦労して蓋を取ると植物の青臭い臭いが鼻をつく。
周囲を見たユウは他の5人がそれを顔や首などの露出部分にたっぷり塗っていることを知った。しばらくためらったユウは手のひらに薄い緑色の液体を垂らして顔に首にと塗ってゆく。感触は水に近いのでまだしも臭いが慣れない。
そんなユウの様子を見たダニーが笑う。
「お前なんつー顔してんだよ! こんなことで泣きそうになってたら森の中になんか入れねーぞ!」
「僕は初めて使うんだから仕方ないだろう」
「かぁ情けねぇなぁ! オレはもっとマシだったぜ!」
「それより、狩猟組の3人が僕たちと同じ服だけで大丈夫なのかな? 防具は着なくてもいいってさっき聞いたけど」
「防具は金を貯めて少しずつ買っていくもんなんだよ。それに慣れたら服だけでも獣の森で結構やっていけるんだぜ。あの3人なら大丈夫さ」
話題逸らしに乗ってきたダニーが得意げに説明した。小瓶に栓をし直していたユウがテリーに顔を向けるとうなずかれる。
「確かにその通りなんだけどね。実は鎧を注文していて近いうちに受け取るんだ。ずっと我慢してたから楽しみで仕方ないよ」
「なんだ、そうだったんですか」
「正直服だけってのは不安だったから嬉しいね」
「やっぱり」
ユウの感想を聞いたテリーが頭を掻いた。
6人全員が虫除けの水薬を体に塗りおえると、テリーとユウ、ニックとダニー、ケントとビリーがペアを組む。
準備ができたところでテリーのグループは獣の森へと入っていった。
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