あと3日
占い師に言われた事が、もう1つあった。
『何故、翡翠と諒日が出会うことで、翡翠の運命が変わるのか…』という事だ。その質問に、占い師は、こう答えた。
「緒方さんには…本当の愛を知っていただく必要がありました。本当に愛する人を見つけなければ、ブラックホールを塞ぐ力が足りなかったのです。それは、愛する人を見つける事で、ようやく手に入る力なのです」
―運命の日まで後3日―
「翡翠さん、最近、元気だね」
1年先輩の、
「そうですか?なんか、自分の運命が分かるって、あんまり怖くないんだな…って思ったら、吹っ切れたって言うか…」
翡翠は、そう言って笑った。悠里は、少し意味が分からない…と言うような表情で、翡翠を見た。
「あ、良いんです。ちょっと、色々あって…。すみません」
そう言って、翡翠は苦笑いした。
「そう?」
悠里も、そう言って苦笑いして、釈然としない…と言った顔で、仕事に戻った。
諒日とは、あれ以来、なんの関りも持たなかった。諒日も、『翡翠』ではなく、『緒方先輩』と呼び、翡翠も、『榎本君』と呼んでいた。そう提案したのは、勿論、翡翠の方からだった。
「『翡翠』と呼ばれるのは、地球を救う為に、自分が消える、その瞬間だけにして欲しい」
と言う、翡翠の願いからだった。マンションにも呼ばなかったし、外で会うこともしなかった。只、ひたすら仕事場で会うそれだけの関係だった。だから、仕事仲間も、2人にそんな秘密があるとは思いもせず、2人が、愛し合っている事なんて、誰1人、気付く事はなかった。
もう1つ言うなら、2人は、手も繋いでいないし、キスもしていないし、それ以上も勿論していない。
『それでも、愛は、証明できる…』
そう、翡翠が言ったからだ。諒日は男だ。我慢するのは、正直きつかった。でも、翡翠を苦しめる事は、もっときつかった。出来るだけ、翡翠の気持ちを大事にしたかった。翡翠の想いを、翡翠の希望を、翡翠の闇を、翡翠のすべてを、最優先にしたかったのだ。それがどんなに悲しい日々でも、どんなに辛い日々でも、どんなに…楽しい日々でも…、3日後には、この悲しみも、辛さも、楽しさも、きれいさっぱり消えて無くなる。それが、諒日には、とても、寂しかった。
「榎本君、18番のシーザーサラダ、まだ?」
翡翠が、諒日に言った。
「あ…はい」
諒日は、最近、ぼーっとしている事が多い。
そう言ったのに、諒日の手は止まっている。
「榎本君!」
翡翠は、少し、声を荒げた。
「あ、あ、す、すみません!」
慌てて、手を動かし始めた、諒日。その諒日の耳に、そっと翡翠が囁いた。
⦅諒日、3日後、私のマンションに、午後5時に来て⦆
「!」
諒日は、思わず喉を鳴らした。最後の日が…やってくる…。もう、翡翠は、その覚悟を決めている。本当に、本当に、1人で、地球を救おうとしている。
それが、その囁きから、同時に聴こえたような気がしたんだ―――…。
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