もう1度
「…分かった…。傍に…いるよ…。でも!まだ賛成した訳じゃないからな!!翡翠が、地球を1人で救うって事!」
シュッシュッ!翡翠は、テーブルの上に乗っかっている、可愛いカバーのかかっティッシュボックスから、何枚かティッシュペーパーを取ると、ずずーっと大きな音を立てて、鼻水をかんだ。それでも、足りなかったのか、ゴミ箱に捨てる前に、また数枚取って、鼻の前で新しいのとすり替えると、また、ずずーっと鼻水をかんだ。それはもう、凄い音で。
「…ごめん…垂れるところだった…」
恥ずかしそうに、翡翠は言った。その何とも言えない、夕陽に照らされた朱い顔に、鼻をかんだ事で、鼻の頭まで赤くなっている。
「まだ…垂れてるよ…」
「え!?嘘!?」
翡翠はそう言って、慌ててティッシュを取ろうとした。すると…。
「嘘。もう垂れてない」
「な、何それ!?こんな時に普通からかう!?」
「こんな時に、超でかい音で鼻かむなよ。そっちの方がよっぽど笑える…。くくく…」
諒日に、しばらくぶりに笑顔が戻る。
「…何よ…もぅ…」
不貞腐れたように、翡翠は頬を膨らませたけれど、今日1日で、この時間が、1番笑顔が交わされた瞬間だったかも知れない。
そして、今日、2人に深い絆が生まれた事は、確かな事だろう。
それでも、2人の間には、相違が生まれたままだった。死んで欲しくないと思う諒日と、もう、自分の命は自分だけのものではない、と言う決意を持つ、翡翠と諒日の2人の相違だ。
それは、2人とも別れの時間まで、その、相違、と言うのがある事を分かっていた。でも、あれほど強く地球を救おうとしている翡翠の言葉に、どう抗えば良かったのか…、怖いくせに…。と、言いたかったが、そう言えば、また喧嘩が始まる。好き同士が、こんなに好きな同士が、言い合いしか出来ないなんて、悲しすぎる。しかも、どの道、翡翠と諒日とは、後、25日しか一緒にいられない。
翡翠が、1人で死のうが、地球が滅びようが、それは、きっと、変わらない事実なんだろう。
…か?
その時、ふと、諒日は、元の考えを戻してみた。
『占いは、本当なのか?』
という事だ。だって、信じている根拠は、翡翠が、占ってもらっている時に、体が動かなくなったから、その占い師は本物だ…。と言う理由だけだ。
「翡翠、今度、2人でシフト合わせて、その占い師の所に行こう!」
「え?」
「俺が…俺自身が、その占いが本当なのかどうか、確かめる!」
「……信じてないって…事?」
「だって、体動かさなくするくらい、催眠術師でも出来るだろう?占いで、追い詰めるのが好きだって、只それだけの占い師かもしれないじゃん!」
さっきまでの顔が嘘のように、諒日の顔が明るくなった。それと同時に、少し…、少しだが、翡翠にも笑顔が戻った。
その1週間後、翡翠の名前を出したら、予約2か月待ちのあの占い師に、占ってもらえることになった。それに、諒日が同行する事も了承された。
そして、ついに、占い当日。2人に、緊張が走る。
「あ…お邪魔します…。改めまして。緒方翡翠です」
「…こんにちは。付き添いの榎本諒日です…」
「…お会いに…なられたのですね…」
「「へ?」」
2人の声が重なる。
「地球を救う、お2人が―――…」
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