歯車

 そろそろ、夕方の4時を回ろうとしていた。5時間近く、この部屋に諒日をこの部屋に招いたことになる。過去2人の男は、2回ともその男どもの部屋でやった。私の部屋にあげた事は1度もない。汚される気がして…、奪われる気がして…、囚われる気がして、気が遠くなりそうで…。どこまでも、逃げていた。


 それを、なんでこんな知り合って間もない男を私は自分の部屋に招いているのだろう?不思議でしょうがない。その男は私の目の前で泣いている。文句を言っている。私を、生意気にも、年下のくせに、窘めようとしている。


 そして、私は、一生懸命、自分の命を捨てる覚悟を探している。見つかりも…しないくせに…。でも、探さずにはいられなかった。こんな短期間で人が人を好きになる事があり得るのか…。その人を、救う為に自分の命を捨てきれるのか…。そんな事も、探しきれずにいた…。


 私は、考えれば、考える程分からないでいた。


 でも、一つ、『この人を、死なせたくない』それだけ。只、それだけは、確かな想いだった。




「なぁ、なんで、俺なの?」


「は?」


「俺なんか好きじゃない。運命の人は俺じゃない。自分が救いたいのは、俺じゃない…。って、言えば…、俺は、このまま何もせず引き下がるしかないのかも知れないのに…。なんで、そうしなかったの?」


「…嘘は…つきたくないのよ…。自分に、いつも正直でいたい。だから、あの時…諒日に会った時、引き下がらなかったのも、自分に正直で居たかったから。だから、諒日の事を好きなまま、何も言わず、諒日の前から去れば、あれですんだのかも知れない。でも、だったら、きっと…また会う事は…無かったんじゃないかな…?」


「それで、答えになってる?」


「…なってないか…。…そっか…なってないか…。でも、どうしても、それしか答えが見つからないのよ…。だって、諒日が私を好きになったのだって、特に理由はないでしょう?喧嘩に引かなかった、って、それが1番の理由でしょう?それと一緒よ。私だって、いきなり告白されて、戸惑わないはずがないでしょう?こんな…自宅にまで来られてさ…」


「そう…だけど…。全部、俺のせいにする気?地球を救うのも、俺を好きになるのも、全部、全部、俺のせいなの?自分の命捨てるのまで、俺のせいにする気なの?」


 諒日は、とても、悲しい顔をした。そんな事は分かっている。そんな事は、私にだって分かっている。でも、じゃあ、どうしたら諒日を好きにならずに済んだの?諒日に逢わずに済んだの?運命の人は…諒日じゃない、と思えば良いの?そんな事は、今更出来ない。だって、出逢ってしまった。好きに…なってしまった。



 運命の歯車は、もう、回り始めているのだ。占い師に会った、あの時から。あの占いをされたあの時から。あの占い師の言った通り、占い師の家を出たあの後、諒日に出逢ってしまった、あの時から。2日後に、諒日にまた、巡り会ってしまった、あの時から。その日に、告白されたその瞬間に、もう、回り始めてしまったんだ。



 誰にも、止める事の出来ない、歯車が…。

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