初恋

 私は、榎本君の腕を、思いっきり振り解いた。その行動に、榎本君は、あっけにとられたようだった。拒まれるとは…想っていなかったのだろう。


「ふざけないでよ!もし…私の…私一人の命で地球が救えるなら…私は…地球を救うわよ!!」


「じゃあ、なんで泣いてんだよ!!」


「怖いのよ!!」


「やっぱ怖いんじゃん!!無理して強がんなよ!!泣くほど怖いのに、死のうなんて考えんじゃねぇよ!!」


「うるさいな!怖くても…怖くても…榎本君を救う為なら、死ぬわよ!!」


「!!??」


 榎本君の表情が、一気に変わったのが分かった。目を見開き、その目は充血しだし、少し、涙ぐんでいるようにも見えた。その顔を見たら、私は、もう後には引けなかった。後、25日、榎本く…諒日といられたら、それでいい。この人には、きっと、もっと、私が愛する所がある。この人は、きっと、もっと、私を愛してくれる。


 そんな、何でもない感覚が私の中に生まれた。だけど、その言葉は、諒日の神経を逆なでしたようだった。


「そんなこと言うなよ!!俺が、それ赦すと思ってんのかよ!?こんな、みんな繋がってるか、繋がってないか、大事か、大事じゃないか、特別か、特別じゃないか、そんな、訳の分からない奴らの為に、死ぬなんて言うなよ!!」


「そんなこと言ってない!!私は、諒日の為に…諒日の為だけに死ぬって言ってるの!!」


「そんなの嬉しくも何ともねぇよ!!俺は…初恋なんだよ!!翡翠が…初恋なんだよ!!」


「!!??」


 今度は、私が押し黙る方。言い忘れていたけど、こんな、甘い顔の、長身の、スラッとした美男子がいるとは、私は、初めて知ったくらい、諒日は、見た目が良かった。そんな男が、初恋?24歳で?嘘でしょ?それも、その相手が、私?こんな、普通のOLの私が、特別美人でもないし、身長160㎝で、どっからどう見ても、普通の域を出ない、こんな私に、諒日が初恋!?あり得ない。


「…そんな嘘まで言って…慰めてくれなくていいよ…」


 私は、その言葉で、逆に冷静になった。諒日が、私なんかを初恋の人に選ぶはずがない。だって、初対面だって最悪だったし、アルバイトで出逢ったその日に告白してきた諒日だ。女慣れしてる証拠。騙されたりしない。騙されたり…しない…。


「嘘って…なんでそんな事分かるの?俺が、すぐ、告ったから?」


「…そう…だね…。それに、諒日は、モテるでしょ?どれくらい女の子が周りを囲ってるか、簡単に想像できる」


 私は、すっかり落ち着き払って、涙も止まった。結局、からかわれてただけ。『運命の人』が、諒日なはずは、無かったんだ。


 じゃあ、この後…私は、また誰かと出逢うんだろうか?『運命の人』に…。


 そして、やっぱり、私は、この世界を…地球を救う為に、これから出会う人の為に、星になって、ブラックホールを塞ぐんだろうか?





 そして、永遠に空の星になって、地球を見つめ続ける事になるんだろうか―――…?

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