答えの前に
「お願い。答え、ちょうだい」
私は、硬直したままの体が、その言葉で我に返った。
「どうしても…今?」
「今」
その視線は、知っている。強くて、真っ直ぐで、嘘も、誤魔化しも効かない。そんな、ビームが、私の瞳を捉える。
「じゃあ、この話を…信じてくれたら…付き合うよ…」
私は、『賭け』に出た。
『地球滅亡』
の事を、榎本君に話す決意をしたのだ。これを、信じたら、付き合う。笑い飛ばされたり、怒られたり、その他の態度を取られたら、私は、『地球』を、『見捨てる』…。そう、決めた。
「何?」
少し、ビームを和らげると、榎本君はそう聞いてきた。
「私、『地球滅亡』を防がなきゃいけないの」
「はぁ?」
榎本君の態度は、当たり前の態度だろう。眉をしかめ、少し、苛立ったのが分かった。
「私ね、5日前、占いに行ったの。その占い師に言われたのよ。今日から25日後、この空の星がすべてなくなって、ブラックホールにすべて呑み込まれて、地球は滅亡する、って。そして、その地球滅亡を救うには、この後出会う男の人と、私は愛し合って、その人を救いたい、と言う想いから、星になる事を選んで、空の星になって、ブラックホールを塞ぎ、後は…空から、その愛する人を…地球の人たちを…見守るだけだって…。私は…好きな人の記憶にも、残らないんだって…」
私は、占い師に言われた事を、そのまま、なんの自己流の言葉も入れず、榎本君に伝えた。
「じゃあ、死ねばいいじゃん」
「へ?」
その言葉に、私は、なんの思考回路も回らなかった。私が、死ねばいいって事?榎本君を愛して、地球の人たちの為に死ねばいいって事?…と、その言葉が、出てこなかった。榎本君に、そう思われているのが、とてつもなく悲しかったから。
けれど、その後、榎本君の口から出た言葉は、意外、以外の何物でもなかった。
「一緒に、死ねばいいよ。その日、星がなくなろうと、ブラックホールが全てのみ込もうと、例え、地球が滅亡しようと、翡翠は、俺の傍にいればいい。そして、一緒に死ねばいい。それなら、寂しくないし、翡翠が占い師の言葉を守らなかったからって、誰に責める権利がある?そんなの、破っちゃえばいいんだよ」
「…榎本君…」
私は、気が強い。どんなに特別な事があっても…、驚ろかされようと、怖がらせられようと、どんな嫌がらせを受けようと、今まで、泣いたことなんて、数えるほどしかない。だから、占い師の話も、泣かずに聞けたし、榎本君とぶつかった時、あんな怒鳴られ方をしても引かなかった。
…それだけは…それだけが、自慢…だったのに…。
私は、うろたえて、動揺して、震えて、手がこわばって、そのこわばった手で、顔を覆った。涙なんて、出たの、何年ぶりだろう?あ…占いの時、少し出たか…。でも、私生活で出たのなんて、もう覚えていない。そんな私が、占い師に言われた予言からの恐怖心が、今更、込み上げて来て、気が付いたら、涙が、頬を伝っていた。
「…翡翠…怖いんだ…」
榎本君は、そう言うと、年下のくせに、つい、3日前に会ったばかりのくせに、私の事なんて、何にも知らないくせに、私が、どんなにあの占いが怖いか…なんて、知りもしないくせに…、私を、抱き締めたんだ―――…。
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