恋をする

 3日間、私は、相当悩んだ。…嫌い…とも違ったが、このまま榎本君の言うがまま付き合うようになるのは、みたいな気がして、何だか癪だったのだ。それ自体が、もう、榎本君の事を好きだ…みたいな答えになっている気がして、それもそれで、自分に頭にきた。何の、怒りなのか、よく、分からなかったけれど…。


 そうしている間に、3日、経ってしまった。私は、その日遅番で、13時からのシフトだった。その時間まで、どう断わろうか…、断わるのか…、もう頭の中ぐしゃぐしゃだった。そんな日に限って、時間は刻々と速く過ぎて行く。


「…もう出なきゃ…」


 1人言を言って、鞄を持ち、部屋の鍵をかけ、エレベーターに向かった。


『チン』


 と言うエレベーターの到着音が鳴り、ドアが開いた時、私は、心臓が止まるかと思った。


「え!榎本君!?」


「…ごめん。事務所にあった住所録、店長が仕舞い忘れてて…見て、来ちゃった」


「…そ…か…」


 何だか、余りの事に、驚く気力もどこかに行ってしまった。でも、それより、仕事へ行かなければならない。ここで、答えを出している時間はない。


「ごめん。榎本君、ここでは答えは出せないよ。仕事行かなくちゃいけないし。また、終わったら、連絡するから」


「大丈夫」


「はい?」


「店長に言っといた。翡翠…緒方さんは風邪で来られないって電話があったって言って置いたから」


「な、なんでそんな勝手な事…」


「だって、そうでもしないと、今日中に返事する気、無いでしょ?翡翠…。ここでは仕事仲間がいるから、とか、3日はやっぱり短すぎた、とか、そうやって、逃げる気だったでしょ?」


 図星だった。その上、またもや、図星を言われる事になる。


「それに、下手したら、翡翠、辞めちゃうかな?って思って。そこまで追い詰めるわけにはいかないし、今日は、仕事、休んでもらった方が良いと思って…」


 そうだ。私は、仕事を辞める事も考えていた。榎本君と深く関わるのが、何故か、怖かったのだ。それが、何故なのか、私には心当たりがあった。


『占い』


 だ。


 私が、榎本君を好きになっているのは…きっと、間違いない。自分でも、認めたくないけど、どうしたって言い訳出来ない理由があった。


 ドキドキするんだ。榎本君といると…。『翡翠』と呼び捨てにされる度、何処か嬉しい気持ちが湧いてくる。その反面、イラつくんだ。この人を好きになったせいで、私は、『命』を『堕とす』かも知れない。と、思うと、素直に好きだと言えるほど、私の心は広くない。そもそも、『占い』を信じている自分も何だか癪だ。でも、榎本君が現れて、こんな風に気持ちが高鳴って、『なんで?』って。『どうして?』って。『占いなんて』って。『偶然でしょ?』って。どんなに、自分に言い訳をしても、私は、榎本君が気になって仕方ない。


『地球滅亡』


 そんな事、本当にあり得るのだろうか?榎本君と、私が、恋に墜ちて、私が『星』になる。


 恋するのが、こんなに怖いなんて、想いもしなかった―――…。

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