愛することが出来たら…

「…………私は…一体、どうしたら良いんですか?」


 私は、半分諦めて、占い師にそう訊ねた。


「信じていただけたのですか?」


「だって…動けないのは本当だし…」


「この家を出ると、間もなく、ある男性と貴女は出会うはずです。貴女は、その男性に惹かれる事でしょう…」


「は?なんでそんな事まで!好きになる人すら選ばせてもらえないんですか?」


 私は、また占い師に喰ってかかった。


「選ぶ選ばないではありません。これは、です。貴女が拒もうとしても、惹かれてしまうでしょう」


「そんな…」





 どんな人かも、顔も、性格も、趣味も、価値観も、何も知らない人と出逢って、すぐ恋に墜ちる、なんて事が、本当に起こり得るのだろうか?


 まぁ、そんなこと言ったら、さっきまでの、地球滅亡に関する星やブラックホールの事もすべて信じるいわれはなくなるのだけれど…。



「大丈夫です。その方は、とても真面目で、優しい方です」


「なんで、そんな事が分かるんですか?」


「一応、占い師なので…」


(そんな曖昧な返事はなしでしょ…)


 私は、心の中でまた、反発した。何故、心の中でだったかと言えば…、また、ぐちゃぐちゃ動けない事を良い事に、マインドコントロールでもしてくるのではないか…、と思ったからだ。しかし、それは、無駄な抗いだった。


「曖昧ではありません。これでも、4歳から、この仕事をしています。目の前で会った方の事は、1度も外した経験はありません」


「こ…心の中まで…読めるんですか?」


「まぁ…そちらは、少し…程度ですが…。今のは、大体予想がつく心模様です。読めなければ、占い師としては失格でしょう」


「で?私は、どうすれば良いんですか?」


「大丈夫です。貴女が、その男性に出逢ってしまえば、貴女は、きっと、自ら星になる事を望むでしょう」


「…自分が死ぬのを…喜んで受け入れろって言うんですか?」


「…そう…ですね…。今の言い方は、貴女のご心情を察しない、不届きな発言でした。申し訳ありません。ですが、それほど、貴女は、その男性を、愛する事が出来る…とでも申し上げればよいでしょうか…」


「………もし、私が、その気にならなかったら…地球は…本当に滅亡するんですか?」


「…それは…間違いありません」


 そのはっきりとした返事に、私は、腹立たしさから、今度は恐怖が心を覆った。私が命を差し出さなければ、地球の人たちはみんな死ぬ。でも、私だけが死ねば、この地球は、助かる…。


(結局…私は…死ぬんじゃん…)


「…申し訳ありません…」


 いきなり、占い師が謝って来た。何故だろう?今更…。そう思っていたら、占い師が席を立ち、横のテーブルに置いてあったハンカチを私に差し出した…。


 すると、ようやく、私の体の硬直が解けた。


 と、同時に、涙が流れていた。慌ててハンカチを受け取り、私は涙を拭いた。


「べ、別に…怖いとかじゃ…」


「怖い…ですよね?申し訳ありません…。貴女の心情を想えば、こんな事、告げるべきではなかったかも知れません…。ですが、地球を救うためには、貴女の力がどうしても必要なのです」




「私は…まだ、決断が出来ません…。でも…1ヶ月後…もしも、本当に、その人を命を捨てて良いほど愛する事が出来たら…、私は…星に…なります…」




 その時に、私に言える事は、それしかなかった―――…。

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