特別の理由
「
その占い師の家は、ごくごく普通の家だった。思ったより仰々しくないし、怪しい感じもしない。すれ違って出て行った人は、ハンカチで目元を押さえ、泣いているようにも見えた。
その人に目を取られて、立ち止まっていると、
「翡翠!早く!」
愛唯に呼ばれて、我に返った。
「あ、ごめん」
そう言って、私と愛唯は占い師の部屋に入った。そこも、『暗いのかな?』とか『暗幕みたいのがあるのかな?』とか『ベールとか被ってるのかな?』とか…占い師の印象をすべて持ち込んで入ったが、そのどれも、当てはまるものはなかった。
「蛯名さんと、緒方さん、ですね?」
「はい」
愛唯が答えた。
「緒方さん、貴女は…占いをしに来たのではありませんね?」
「え?」
(あぁ…返事しなかったから、そう読んだのか…どうせ、インチキだもんね…)
「あ、はい。私は、愛唯の連れと言うか、付き添いなので…」
「…そうですか…」
何か、神妙な面持ちで、私の方をその占い師は見た。よくよく見ると、とても奇麗な人だ。髪は腰まであるロング。少し、ウェーブがかかっていた。瞳は、カラーコンタクトだろうか?青く、
「では、まず、蛯名さんから占います。緒方さんは、お隣の部屋で、待機していていただいていてもよろしいですか?」
「え?でも、私、占っていただく気は無いんですけど…」
私は、その占い師に、咄嗟に言った。すると、何だかよく分からない答えが返ってきた。
「…お願いします。占わせてください…」
「え?や…でも…」
うろたえる私に、その占い師は、もう1度繰り返した。
「…お願いします。占わせてください…」
「あ…はぁ…。わ、分かりました…」
私は諦めて、隣の部屋へ身を移した。
15分くらいだろうか?愛唯の占いが終わったようで、私は、さっきの部屋に呼ばれた。
「あ…の…愛唯は…?」
「彼女には、先にエントランスに行ってもらっています。大丈夫です。彼女を占った結果は、個人情報につき、申し上げられませんが、蛯名さんからの伝言で、『上手く行きそうだから、心配しないで』との事でした」
「あ…そう…ですか」
「では、緒方さん、貴女を占っても構いませんか?」
「あ、はぁ…。一つだけ、お聞きしておきたいんですが…良いですか?」
私は、何とか、逃げ出したかった。
「占い料金てお幾らくらいかかるんでしょうか?私、今日手持ちが少なくて…。もし、足りない場合、占いをお断りすることは可能でしょうか?」
「緒方さんの場合、私から占いたい、と申し出たので、料金はいただきません」
「え?そ、そうなんですか?」
「はい。ですが、こういうのはごくごく稀なので、蛯名さんにも言わないでおいて頂けますか?」
「あ…はい…。分かりました」
そう言うと、その占い師は、立ち上がり、私の周りをくるりと回りだした。
この占いが、私の人生を、左右することになるとは、この時、まだ、私は思いもしなかった―――…。
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