第二章
第二十二話 木霊
仄暗き幽き深き“
死んでいたのとは違う。けど魂魄が肉を出入りすることをそう呼ぶ者は多い。
すぐ傍で私を覗き込んでいた
たかが仮死状態で騒ぎ過ぎだ。
ただそれだけなのに。
それにしても魄の癒着が遅い。
私と言う存在がこの肉の本当の魂魄ではないせいだろうか。
目は辛うじて見えるものの耳が聞こえず手足も鉛のようだ。
恐らく私は泉に横たわり浮かんでいるのだが水の柔らかさも温度も伝わって来ない。
ゆらりゆらりと視界が揺れているのでそのように推測しているに過ぎない。
もっと落ち着きなさい。そんな様では読唇もろくにできやしない。
もっとも私の顎も喉も機能していないようだから他人のことは言えない。
おっと――急激に視界が動いた。
頭皮が伸びるようなこの感触は……先ほどの男が私の髪を引っ張っているのか。
どうやら
排他的でこそあってもむやみに暴力を振るうような種ではないと思っていたのだが。
しかしこうなると五感が鈍った状態を歓迎すべきかどうか。
苦痛を感じないのは幸いだがそもそも体さえ動けばなすがままにされることもない。
少し固い感触が背面を打った。
泉から引きずり出されたのだろう。
例の
本当に酷い形相だ。
よく見ると額に真円の痣があるのだな。
なるほど合点がいった。太陰の女神の
しかし一方で腑に落ちないところがある。
外部から出入り可能なのはあらかじめ樹王が掟に組み込んだ者だけの筈。
また
ならばこの男はいかなる存在なのだろう。
……………………。そうか。
捨て置いてはまずいことになる。
早く樹王に――エニスに伝えなくては。
ところで先程から酷く視界がぶれて息が詰まる。
あの
そのうち彼の仲間達も加わり拳や蹴りで打ち据えてきた。
ある者は怒りに満ちた顔で。
別の者は何かに怯えた様子で。
無表情で黙々と打撃を繰り出す者もいる。
一人泣きそうな顔をした娘だけは離れて見ているつもりのようだ。
やれやれ困ったものだ。
この肉はいずれローダンテスの主に渡さなくてはならないと言うのに。
そう簡単には壊れない筈だがあまり乱暴に扱わないで欲しいものだ。
おや。やっと飽きたのか。気は済んだかね。
ならばそろそろ…………む。
あの
この身が幼体とは言え片手で宙吊りにしたのか。
彼はそのまま腕を目一杯振り上げ自身と同じ目線を私に強いた。
双眸か……太陰の気配……す…………。
こ…………洗……うか。
…………黒……………………本……い…………伝……………………――――。
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