NO9 仮面舞踏会/廃棄処分

 仮面だらけの舞踏会が幕を開ける。

 不気味としか言いようがない展示物には沢山の人間が集合しており、館長はそれを満面の笑みで観察しながら時折来場者に話し掛けては別室へ誘導する。


「なァ、ドレㇱぁ。」


「あら、如何したのかしら。眠いなら其処の棺にでも入っていなさい。館長の腰を抜かして面白い反応がみたいなら、一番手っ取り早い名案よ。」


「馬鹿ナコトいゥト、オマエの身体諸共海Ⅱ投ゲるぞ。」

 館長のお強請りからは逃れたものの、大事なお客様食材の相手を任されたディルに巻き込まれたドレシアは、先程よりも機嫌の悪さが増している。


 此処に作品を見に来る人間は皆、食人によって大切な人を失った者が訪れる個性的な美術館である。当美術館では、《故人となってしまったあの人の存在をいつまでも忘れたくない》、《いつどんなタイミングでも、例え冷たくなった身体でも良いから、あの幸せそうな顔が見たい。》など、そんな我儘な願いを叶えるという噂が広がり、少し離れた街からも作品の鑑賞目的で訪れる人も少なくはない。


「あ^-a。館長ノ八ツ。イツⅡも増しテ食欲ガ湧いてンナ。」


「ふん、あんな貧弱そうな身体じゃ傘を刺しただけで直ぐに煮崩れしそうで不安ね。あの中身が骨みたいなものよりも豚の方がまだ良いわよ。」

 館長の合図を受け、先程まで館長が送り届けた別室へ移動する二人。目的地へ近づくに連れて、段々とぎりぎりと鳴り響く音も大きくなっていく。それに感化される様に、ドレシアの表情も曇っていく。


「…あ!!婦人にディルさんじゃないですか〜!!見てください、今日の収穫量は凄いんですよ〜!!」

 広々とした部屋に入ると、其処には農業を営む様に片手にチェンソーを持つ初々しい少年の姿。顔や衣類に飛び散った赤の絵の具が全てを物語る。


「おオ、クラ-ジュじゃねヱカ。元気ソゥであンしンしたヮ。」


「へへ、最初の頃はこんなの僕にできるのか不安だったんだけどさ、偶にはこういう事をやるのも気持ち的にスッキリするし最高だよ!」


「館長から街で小さな子供食材を連れてきたって言われたものの、あの女の子とクラージュが食材になっていたってこと?ふふ…なんてナンセンスな話なのかしら。いつ見ても可愛そうな風景ね。」

 ドレシアはくつくつと笑いながら、足元に転がる生首を見ると一瞬目が合ったように思えた。その生首が「たすけて」と言い終わる前に、ドレシアは躊躇なく口内に傘の先端を差し込んだ。



「あ、婦人!!それもこれから成長させる為に必要な種なんだよ?この首にね、まず胃液を混ぜた土を入れてあげて〜…」

 ドレシアが動きを遮る最中、クラージュが容赦なく土を入れていく。顔だけになった筈なのに、何故か痛みと苦しさで全身麻痺を受ける生首人間は、口から泡を吹き出し、瞳からは水分が溢れ出す。


「大丈夫だよ〜…。君がちゃ〜んと出来たらね、彼処にいる廃棄処分の食材とは同じ形にならないし、お母さんに食べられなくて済むからね〜。」

 相変わらずの無邪気な笑みを浮かべるクラージュが、《廃棄処分》と書かれた食材の山を指差した。其処には、人間かそれ以外なのか区別の付かない化け物が咀嚼音を奏でながら貪り食っている。


「…あ、お母様も来たのね。以前と比べて、表には出ずにお客様食材の残飯処理を行って下さるだなんて、相変わらず好い人に成長されたのね。」


「おイ、ドレシ※。そンナこトいッテモ無駄になルだケだぞ。」


「あはは!そう言いながらもディルさんはつまみ食いしてるじゃないか!」


「ヌッ!?これハナ、明日の食⇠のた目ノ毒見ッテや2だ🈳きにすンナ!!」

 口周りを幼児の様に汚しながら腹を擦るディルを見て、家族団欒の如く笑い合う四人。だが館長の居座る展示室から聴こえてきた奇声により、一時の癒しの空間は断絶されてしまった。

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美味しくならない魔法をかける 比嘉パセリ@月1更新 @miyayui

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