第11話 『世界からの手紙』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第11話

『世界からの手紙』






 流れる水が竹に溜まり傾くと、水を外へと放出して、元の形に戻る。傾きが元に戻った衝撃で、竹が石に反射して静かに音を奏でる。




 木材の軋む音が近づいてくると、襖の反対側から男の声が聞こえてきた。




「失礼します」




 襖が開けられて赤い髪の青年が部屋の中に入ってくる。




「先輩、どうですか? 情報は得られましたか?」




 俺は後輩の質問に沈黙で返す。部屋の畳の上には手書きと印刷された資料が乱雑に散らばっている。




 青年はその資料の中から一枚を拾うと、それを簡単に目を通した。




「日本に来れば月兎の行方を得られると思ってましたが、そうはいきませんね……」




 青年は散らばっている資料を拾い始めると、まとめて俺の座る机の上に置いた。




「先輩、これからどうするんですか。このまま日本に滞在するんですか?」




 俺は脚を動かして体の向きを変える、そして隣にやってきた青年の方を向いた。




「月兎は必ず日本にいる。奴を探し出すことで、この手紙の正体を知ることができるかもしれない」




 青年が並べてくれた資料の隣には、封筒の開けられた手紙が置いてあった。何度も取り出して読んだその手紙は萎れてきていたが、それでも大切に保管されている。




「その手紙ですか。例の幽霊のいない世界について書かれていたっていう」








 この手紙が送られてきたのは、15年以上前のことだ。

 日本の霊宮寺家に引き取られた俺の元に届いた手紙のはずだが、そこに書かれていたのは前のファミリーネームだった。




 故郷に友人や親戚がいたわけではない。その名前を知っているものは、限られた人間だけだ。

 だが、そこに書かれていた名前は見覚えのない名前。




 そして手紙のその内容も、当時の俺には理解できるものではなかった。








「この手紙には月兎を見つけろと書かれていた。日本を出て、各国の情報局のスパイにもなり、その月兎が日本にいることまでは突き止めた。しかし、そこから先が見つけられない……」




「博士も過去に接触を図ったことがあったみたいですけど、ここにある資料以上のことは分からなかったみたいです」




 俺は青年のまとめた資料に目を向ける。一番上に置いてある紙には、森に写る一本の木の写真とそれに関する手書きのメモが書き綴られている。




「ここにあるどの資料も他の国じゃ入手できなかったものだ。開発局の連中に嗅ぎつけられたら、厄介な代物だ。そんなものを拝見させてもらってんだ。博士には感謝しても仕切れない。それに助手も扱き使わせてるしな」




 俺はそう言って青年の方を見た。すると、青年は目を逸らす。




「僕も先輩には感謝してる。真田さんと先輩が施設に襲撃をしたおかげで、俺は逃げ出して赤崎博士に会うことができた。今はその時の恩を返しているだけです」




 青年は頬を赤くしてそう答えた。後輩とそんな話をしている中、テーブルに置いていた俺の携帯が揺れる。




「どうぞ」




 青年がそう言ったので俺は携帯を取って、電話に出た。電話の相手は日本にいる情報屋の一人で、百足というコードネームの人物。




 電話越しに聞く声は機械で声を変えられており、取引をしている俺もその情報屋の素顔どころか、性別すらも知らない。




 会話が盗聴されているということも考慮され、どの端末からの連絡であっても、暗号で情報が提供される。




 情報屋との連絡を終えた俺は携帯をポケットの中にしまい立ち上がる。




「行くぞ」




「え、どこに行くんですか?」




「情報が入った。ここの近くの民家で怪しい壺があったらしい、そいつを調査する」









 俺と圭司は情報屋の話にあった民家へと辿り着いた。




 俺達は家主から壺を譲り受けて、近くにある公園でその壺を拝見していた。




「確かに霊力を感じますね。……でも、なんだか残り香みたいな…………」




 そう言って真剣に壺を見つめる圭司。

 壺の上の部分には布で蓋がしてあったようだが、その布が真ん中から破れて穴が空いてきた。




「そうだな。少し前まで何か封じられていたか、どちらにしろ、この壺に何かがいたようだな」




 壺からは力は感じる。だが、その力の持ち主は、ここにはいないようだ。




 俺は携帯を取り出すと、マップを開いて現在の位置を確認する。




「確かにあの家の位置は、首無しライダーの目撃があった通りだよな」




 俺が確認するように聞くと、圭司は頷いた。




「はい。しかし、住民が言っていた通り騒音被害は減ったそうですね。恐らくは誰かに退治されたんでしょう」




「この壺の主人がそのライダーだと思うか?」




「それは……正直なところ分かりません。しかし、ライダーが除霊されたとすると、この壺の主とは違いますね……。そんじょそこらの除霊師に駆除できる霊力じゃないですよ、これは……」




「そうだな」



 壺から流れ出る霊力。残り香でありながら、はっきりと分かるその存在感から、かなりのレベルの持ち主だ。




「どうします? この壺の主を追いますか?」




「こいつが月兎じゃないっていう保証もないからな。まずはこいつから探りを入れてみよう、それと並行して別の視点からも調査を進める」




「了解です」




 俺は壺を圭司に渡すと、公園の出口へと歩き出す。壺を受け取った圭司は俺の後ろを追いかけるようについてきた。




「そいつを博士に渡しといてくれ。居場所、または正体を調べてもらう」




「先輩はどうするんですか?」




「俺はあそこに行ってくる」




「またあそこですか……」




「またあそこだ」







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