第10話 『師匠との出会い』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第10話
『師匠との出会い』
それは雨の降る季節のことだった。傘を片手に僕は初めて通る道で帰路に帰る。
慣れない坂。何度も行き止まりでひき返し、雨の跳ねたズボンの裾はビショビショに濡れていた。だが、僕の足取りは軽い、それは僕の知る顔の生徒がいないからだろう。
転校して数日。学校に慣れ慣れなかった僕は、こうして人を避けていた。
そんな僕の視界に湿った段ボールが映る。段ボールの表面には「拾ってください」と書かれた文字が雨で滲んでいる。
段ボールの中には一匹の子猫がいた。三毛猫で雨に濡れて身体もだいぶ冷えている。
一匹、雨の中置き去りにされた子猫。僕はその子猫を見て放っておくことはできなかった。
傘を段ボールの横に置き、子猫が雨に濡れないようにして、僕は雨の中家に向かって走り出した。
ポストに隠されている鍵を取り出し、玄関に入る。誰もいない家の中から乾いたタオルを取り出すと、それを持って再び飛び出す。
真っ直ぐと子猫の元へと向かう。
子猫の元にたどり着くと、一人の男性がいた。
丸々と太り、たるんだ腹。パツパツの汚れのついた服を着た男性の眼鏡には雨粒が垂れている。
男性はしゃがんだ体勢で子猫を見つめていた。
「この傘は君のか?」
「……はい」
男性は優しく子猫を抱き上げると、立ち上がる。
「だいぶ弱っているな。君、そのタオルを貸してくれるか?」
男性は僕に手を伸ばす。僕は無言で、タオルを渡す。男性はタオルで子猫を包むと、
「とりあえずうちに連れて帰ろう。…………君も来るか?」
小汚いアパート。壊れた鍵を開けて玄関に入り、男性は玄関で子猫の看病を始めた。
奥の部屋へと扉は閉めて、奥から必要に応じたものは持ってくるが、出来る限り中と玄関で分けている様子だ。
最初は何もできずに見ていた僕だが、
「僕にも何かさせてください」
勇気を出してそう伝えると、男性は不慣れそうに僕に指示を出してくれた。
僕は男性の指示に従い、手伝うために部屋の奥に行くと、そこには黒い猫がいた。黒猫はキャットタワーの上から堂々と僕たちのことを見ている。
「うちにはミーちゃんがいるからな。奥に入れてあげられない。部屋も狭いし…………。でも、あの子は必ず助ける。君も手伝ってくれてるしな」
雨が晴れた頃。最初はぐったりとしていた子猫も、水が飲めるほどには回復していた。
「あの、この子はどうするんですか?」
「まだ完璧に回復したわけじゃないしな。この子はしばらくうちで面倒を見ることにするよ。傘とタオル、ありがとうね」
「いえ、放っておけなかったので……」
僕がそう返すと、男性は子猫を怖がらせないようにゆっくりと近づき、そっと安心させるように撫でた。
「俺は嬉しかった。あんな雨の中、この子のために動いてくれる人がいるなんて……。人は嫌いだが、猫好きなら大歓迎だ。また来てくれ、この子もきっと喜ぶ」
それが師匠との出会いだった。
それから僕は師匠の家に通うようになった。学校に馴染めずにいた僕の唯一の居場所。
師匠とミーちゃんはいつ来ても僕を歓迎してくれた。よそ者である僕も子猫を向かい入れてくれる。
僕はそれが嬉しかった。暇さえあれば、師匠のもとに訪れる。
「ミーちゃんのご飯は作ってるのに、自分のご飯は作らないんですか?」
「ミーちゃんが優先だ」
「もうあなたがいなくなったら、ミーちゃんとあの子の面倒は誰が見るんですか? 僕が作るのでそこで待っててください」
師匠は頼りない人だ。でも、誰よりも優しく、
「ずっと作ってもらってちゃ悪いからよ、今日は俺が作ったぞ」
「師匠が!? ちょっと味見させてもらいますね……」
「どうだ?」
「……マズ……くない。美味しい」
「おい、勝手に俺の料理不味いと思い込んでただろ!!」
「いや、そんなことは!!」
そして面白い人だ。
子猫の体調も整い、僕が師匠と仲良くなるのと同じくして、子猫とミーちゃんも対面。
ミーちゃんは子猫の毛繕いをしたり、僕たちがいない間に面倒を見てくれていた。
そんな日々が続いたある日、
「師匠!!」
僕がいつものように師匠の家に行くと、そこには見知った顔の男性と、初めて見る女性がいた。
「あれ? 坂本さん!?」
その男性は僕と同じクラスの男子生徒。そしてその男子生徒の姉であった。
「なんでここに?」
僕のそんな疑問はすぐに解決された。
師匠がケージに入れた子猫を連れてきた。
「もしかして……?」
「ああ、こいつも元気になってくれてしな。それに引き取ってくれるって人も見つけられたしよ」
師匠はそう言って、子猫の入ったケージをその男性に渡した。
「もしかして……この方が言っていたこの子を保護してくれてたのって……坂本さんだったんのか」
「え、この子が雨の中、頑張ってくれたっていう?」
二人は僕の方に身体をつけると、
「ありがとう。俺達の家族になる猫を助けてくれて」
「またにはうちに来なよ。うちの弟と同じ学校なんだろ。こいつ捻くれてて友達少ないからよ、猫に会うついでにこいつと友達になってやってくれ」
「おい、姉貴何言ってんだよ!」
「あんたのためにも言ってんのよ。こんな可愛い子が同じクラスにいるのに、何もしないなんて」
「こいつは男だよ! 俺の学校男子校だろ!!」
「男でも良いじゃない」
「良くないわ!」
二人の姉弟の会話を聞いていた師匠は笑い出す。
「仲の良い姉弟だな。こんな賑やかな家に住めるなんて、こいつが羨ましいよ!!」
師匠の笑いにつられて、姉弟も笑い出す。その様子を見ていた僕も気がついたら笑顔になっていた。
その時出来た友達から後から聞いた。
人付き合いが苦手な師匠が、子猫と僕のために飼い主を探していたことを。
僕の学校の生徒の中から、猫の世話をしっかりとできる飼い主を探して、僕にきっかけを作ってくれていた。
「ここだ。ここに俺の知り合いの幽霊がいる」
私達は黒猫の案内で、廃墟の病院に到着した。
「本当にいるのかな?」
私は隣にいるリエに心配そうに聞くと、リエは病院を見て答える。
「確かに霊力は感じますね。しかし、中に入ってみないことには、その実力までは分かりません」
「そうね。まずはその幽霊に交渉をしないと」
私は後ろを向くと、楓ちゃんと石上君に声をかける。
「先に私達が中に入って安全を確認するから、その後は行ってきて!」
「分かりました!」
石上君には除霊に行くということにしている。楓ちゃんに見張らせて外で待ってもらって、準備が出来たら入ってきてもらう。
そして除霊をしているところを見せるのだ。
病院の入り口の自動ドアのガラスは割れて、一階には敗れたソファーが乱雑に置かれている。
しかし、風化はしているが荒らされている様子はない。
病院の前にある駐車場跡地には、落書きやゴミが乱雑に置かれていたのだが、中にはそのような様子はなかった。
私がそのことに疑問を持ったことに気づいたのか、黒猫は頭の上で説明する。
「アイツはこの病院の守護霊みたいなものだからな。アイツの縄張りで悪さをできる奴なんていないさ」
「それでその方はどこにいるんですか?」
リエが聞くと、黒猫は答える。
「基本的には5階の病室にいるはずだ」
それを聞いた私達はエレベーターに向かう。そしてエレベーターの前に立ってボタンを押すが、
「動きませんね……」
「そりゃー、電気も止まってるからな。階段はあっちだ」
私と頭の上にいる黒猫は、私の動かして階段の方を向かせる。
「5階まで、登るの?」
「当然だ」
一段一段、階段を登っていく。
「まだですかー、レイさーん!」
「はぁはぁ、あんたは飛んでるから良いけど、私は登ってるのよ。もうちょっと、はぁはぁ、ゆっくり登りなさいよ」
階段の手すりに捕まり、私は息を切らす。
「情けないな〜」
「だから、あんたは降りなさいよ」
頭の上で偉そうにしている黒猫を怒りながら、どうにかこうにか階段を登り切る。
そしてついに、
「ここが、その幽霊がいるっていう、はぁはぁ、フロアね」
例の幽霊のいるという階に着くことができた。
黒猫は私の頭から降りると、フロアの中を歩き回る。
「おーい、いるんだろ! 出てこいよー!!」
叫ぶ黒猫の後ろを私とリエはついていく。しばらく進み、613という番号の書かれた部屋の前を通った時。その部屋の中から男の声が聞こえた。
「おう、タカヒロか!! こっちだこっち!!」
扉を開けて中に入る。薄暗い病院の個室、風で白いカーテンが靡く中、部屋のベッドに横たわる男がいた。
赤い鎧を見に纏い、立派な兜を被った中年の男性。無精髭を生やし、頭は矢で射抜かれて貫通している。
「おー、こんなところにいたのか。タケ……」
そこまで聞いた私はまさかと驚く。こんなところにあの有名な武将の幽霊がいるなんて……。
「武本 イエサト」
「誰だよ!!」
全くの別人だった。
武本はベッドから起き上がり、立ち上がると黒猫のことを見下ろす。
「貴様、なぜ、我のことを知っている……」
武本は不思議そうに黒猫を見つめる。
「俺だよ俺、金古 高平だ」
「お前があの、病院に猫を連れてきて、鬼の看護婦長に怒られていた」
「ああ、そうだ」
そこまで聞いた武本は笑い出す。
「ガーハハッハーー!! 嘘だろ! ついにお前猫になったのか!!」
「ミーちゃんのおかげでな」
「流石はお前の猫だ。霊体を食っちまうなんてな!!」
馬鹿笑いしている武本だが、ふと私達のことを見つけると、真面目な顔になる。
「おっと、すまない。自己紹介が遅れたな。我は武本 イエサト。戦国の世を生き残り、名を残せなかった悔しさを抱きながら、流行病で死んだ武士だ」
「生き残ったのかよ!! じゃあ、その矢はなんなんですか!?」
私がそう言って頭に刺さっている矢を指差す。すると、武本はその矢をスポッと簡単に抜いた。
「あ、これか。これは飾りだ」
「飾り!?」
と、私達がそんなことを気にしている中、黒猫はベッドの上に登り、武本に話しかける。
「今回ここに来たのはお前に手伝ってもらいたいことがあったからだ」
「拙者にか?」
武本に事情を伝えると、武本は私達への協力を承知してくれた。
「本当に良いんですか?」
リエが武本に聞くと、武本は胸を張って答える。
「ああ、除霊されたフリをすれば良いのだろう。それくらい、問題ないわ!!」
「しかし、武士なんですよね。武士の誇りとかそういうのは……」
「うーむ、ないことはないが……。最近時代劇にハマっててな。あんな感じにズバッとやられてみたいのだよ!! 我は病だったしな!! カッコよく討ち取られるというもの楽しそうではないか」
武本はそう言いながら馬鹿笑いする。そんな武本をリエは憐れみの目線で見ていた。
「ま、手伝ってくれるならなんでも良いよ。それじゃあ、作戦を伝えるから集まって」
私が呼ぶと、リエと武本、黒猫が寄ってくる。
「それじゃあ、作戦を説明する」
私は部屋の隅にある折り畳み式の椅子を持ってくると、それに座る。
「今回の目的は石上君に除霊シーンを見せること。除霊を行うのは私、そして除霊されるのは武本さんね」
「拙者は霊力ならば、霊感のない人間であっても姿を見せることはできる。除霊役になるのも拙者は構わぬ。だが、どのように除霊する? 清めた刀で拙者を切るのか?」
「そんな刀は用意する時間はないよ。だから、これよ」
私は懐から一枚の紙を取り出した。それはピンク色の七夕用の短冊。
「これは近所のイベントでやってる短冊。その短冊にこうやってこう書けば」
私はマジックペンを手に取ると、それで短冊に文字を書く。そして短冊に書かれた文字は、
「封?」
文字を見た二人と一匹は声を上げる。
「まさか……」
「そうよ、これを除霊に使うお札に見せかけて、この廃墟に住む無事を除霊するのよ!!」
「ピンクなお札がどこにあるんですか!!」
リエが文句を言う中、私は貰ってきた全部の短冊を取り出す。それは全部で三枚、最初のものと合わせて合計四枚だ。
「カラフルなお札であるか。これなかなか斬新でいいな」
「どこがですか!!」
武本が納得してくれたところで、さらなる作戦の説明を始める。
「私は一階で二人を連れて階段登る。武本さんには途中で待ち伏せて襲ってもらう。そこで除霊という流れで行く」
「了解である」
こうして作戦も話し合い、私達はこの作戦を実行することになった。
リエとタカヒロさんには、武本のサポートに回るために中に残ってもらい、私は石上君達を呼ぶために病院の外に出た。
病院の外に出ると、さっきまでと変わらず二人は啀み合っている。少しでも一緒にいる時間があれば、仲良くなるかと思ったがそれは無理だったようだ。
「二人ともここには強力な幽霊がいるみたいよ。除霊が見たいんでしょ、ついてきなさい」
私は二人にそう言ってすぐに病院の中に戻る。
ちょっと格好をつけて呼んでみたが、これで本物の除霊師ぽく見えたはずだ。
「ほら、行くよ! 石上君」
「ふ、このカメラで君達の本当の姿を映してやるよ。覚悟するんだね」
二人は喧嘩しながらも、私の後ろをついてくる。
まず最初の病院の中に入れるというのは成功だ。次は階段で武本と遭遇だ。
私達は病院の入り口に一番近い階段を使い、上へと上がっていく。
この途中で武本が出てきて、私が除霊をする。それが計画だ。しかし、
「おい、屋上まで来たが何もないぞ」
武本と合流することができなかった。
石上君が疑いの目で私のことを見ている。なぜだ。なぜ、武本に遭遇しなかった。
私が困っていると、屋上の反対側にあるもう一つの階段。そこからリエが顔を出してこちらに手招きをしていた。
なぜ、リエはあっちから手招きをしているのか。
それはすぐに分かった。
「あ、階段間違えた……」
私は登る階段を間違えていた。病院にはいくつかの階段があり、屋上まで登れる階段という約束だったのだが、その階段は二つあったのだ。
「何か言いました?」
私の独り言を聞いた石上君が、それに対して反応を見せる。
「いや、そのね……えっと」
言い訳をどうしようかと迷っていると、間違えたことを察した楓ちゃんがカバーしてくれた。
「あ、向こうから霊力を感じます。きっと、レイさんが怖くて逃げたんですよ! 早く追いかけましょう!!」
「そうね、早く追いかけようか!」
私は急いでもう片方の階段に向かい、降り始める。
「逃げた……か。本当なのか?」
石上君は疑いながらもついてきてくれる。
階段を降りて、ついに武本が待っている階にたどり着いた。ここで武本が出てくるはずだ。
「ガーハハッハーー!! 待っていたぞ、カメラマン!!」
踊り場で武士の幽霊が仁王立ちをして堂々と待ち構えていた。
武本の隣にいるリエが武本の耳元でダメ出しをする。
「違いますよ。彼方の方ではなくレイさんを待ってたんです」
「あ、そうであったな。ガーハハッハーー!! 待っていたぞ、霊能力者のレイとやら!!」
リエの姿は石上君には見えていない。不自然に再登場を果たした武士の幽霊だが、石上君はその幽霊にカメラを向けた。
「ほ、本物の幽霊なのか……!? 確かに浮いてはいるが……トリックか? いや、だが、どうやっているんだ」
まだ疑っているようだが、実物を見たことで動揺をしているようだ。ここは一発、幽霊らしいことを武本にやってもらおう。
私が目線をリエに送ると、リエはそれで理解したのか、耳元で武本に指示を伝える。
「うむ、承知である。では、拙者の超得意技をお見せしよう!!」
武本はそう言うと、鎧を脱いで腹を見せた。その腹にはペンキで書かれた人の顔がある。
「秘技、腹踊り〜」
踊り出しそうにあった武本の頭を、リエが勢いよく叩いた。
「何やってるんですか!!」
「いや、拙者のらしいことをしろと申すので……」
「幽霊らしいです!! ほら、石上さんを見てください」
リエと武本が石上君を見ると、石上君は驚いた表情で武士の幽霊を見ていた。
「幽霊が腹踊りをしようとしたら、突然、何もないのに叩かれた!?」
意外と効果はあったようだ。
石上君はカメラを武士の幽霊に向けて、写真を撮り続ける。
「これは本物の幽霊なのか!! だとしたら、大スクープだ!!」
石上君が真剣にカメラで写真を撮る中、その隣で楓ちゃんがドヤ顔で見守っている。
武士の幽霊も見せた。そろそろ、私が本物だと見せつける時!!
私は懐から例のお札を取り出した。
「『封』と書かれた。カラフルなお札!? これで除霊をするのか!!」
石上君の期待の眼差しが私に向けられる。私はカッコよくポーズを構えると、
「古の亡霊よ。私が天へと送って見せよう!!」
そして私はお札の一枚を武本に向かって投げつけた。
「う、うわぁ!!」
武士の幽霊はわざとらしい悲鳴を上げる。これでこれでお札に触れた後、武本がやられたフリをすれば騙せるはずだ。
しかし、私の投げた短冊はフワフワと飛んで減速すると、普通に地面に落下した。
「…………え?」
後ろにいる石上君が真顔でこっちを見ている。
「まさか、ただの紙なんじゃ……」
疑いの目線を向けられる。私の額を汗が滝のように流れる。
このままではマズイ!! 石上君に私達は似非霊能力者だと情報が流されてしまう。
そんな中、私達の頭上から男性の裏声が響いた。
「ぐぁあーー!! バレていたかーー」
その声が聞こえた後、私の頭の上に黒猫が着地した。
「レイよ。助かったぞ。お前の今の支援のおかげで、奴の本体を倒せた」
黒猫はそう言って武士の幽霊を見る。
武士の幽霊は不思議そうに首を傾けるが、理解していない武本にリエが説明をする。
「タカヒロさんがあなたを倒したことにしてくれたんです。とりあえずやられたフリです!!」
武本は戸惑いながらもリエの指示に従い。
「ぐ、やられーーたーーー!! どさり」
大袈裟に倒れると、地面の床をすり抜けて下の階へと落ちていった。
これで完璧に石上君に幽霊が存在していたことと、私が霊能力者だということを証明できたはずだ。
私とリエは密かにガッツポーズをして勝利を確信する。そして信じたはずの石上君が何を言うのか、それを楽しみに振り返った。
しかし、後ろでは、
「ね、猫が喋っただとーー!?」
石上君は黒猫に興味津々だった。
黒猫にカメラを向けて、シャッターを連射する。
「これは大スクープだー!!」
黒猫の周りをクルクル周り、写真を撮り続ける石上君。それを目で追っていた黒猫は、目を回して倒れた。
「ミーちゃん!! 師匠ーーー!!!!」
倒れた黒猫を楓ちゃんが飛び込んで助ける。黒猫は目を回しながら、楓ちゃんに礼を言う。
「助かった……楓……」
「いえ、しかし……」
楓ちゃんは黒猫を抱き抱えると、石上君の方を向く。
「あなたは何をしてるんですか。師匠が目を回して倒れてしまったじゃないですか!!」
怒る楓ちゃんだが、そんな言葉に石上君は耳を貸すことなく。
「これは大変だ!! 急いで新聞にしなくては!!」
そう言って石上君は階段を駆け降りていく。下の階で休憩していた武本にすれ違うが、石上君はそれすら無視して廃墟の病院を飛び出していった。
「な、なんだったのよ……」
これで作戦が成功したのか、それとも失敗したのか。その結果は楓ちゃんの学校で新聞が発行されるまでわからない。
あれから数日。平和な日々を過ごしていた。
「レイさん!! これ見てください!!」
静かな午後の事務所に、一枚の紙を持った楓ちゃんが飛び込んできた。
「どうしたんですか?」
事務所の窓を拭いていたリエが雑巾を片手に、楓ちゃんの元へと飛んでいく。そして
「こ、これって……」
楓ちゃんの持ってきた紙を見て、リエは声を上げた。
「レイさん、タカヒロさん、これ見てください」
楓ちゃんから紙を受け取り、私達の元へと持ってくる。私と黒猫がその紙を覗き込むと、それは楓ちゃんの通う高校の校内新聞だった。
「『今月の怪奇特集はお休みします』…………何この記事…………あ、もしかして……」
新聞を持ってきた楓ちゃんはニヤリと笑った。
「写真撮影に失敗して、証拠は撮れなかった。だから、新聞部の部員達に記事にすることを反対されたみたいよ、っで、これがその時の写真」
楓ちゃんはそう言って写真をテーブルに置いた。
その写真は写っているものがなんなのかわからないほど、ブレて歪んでいる。まるで呪われているのかと思うくらい状態だ。
「石上君、カメラには自信があったみたいなんだけど。幽霊の仕業だって怯えちゃって、部員にはもう一回取材をしてくるように勧められてるみたいだけど、本人は嫌になったみたい」
「まぁ、この写真を見たらね……」
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