第13話 おじさん話し合う。
徳島は気づくと応接室のような場所に一人立っていた。応接室としては広くはない部屋だが、統一された品の良い調度品が置かれており、部屋の主の趣味の良さが伺える。
一般的な応接室と違うところは、やや狭いところと、ほとんどの調度品が動かないように固定されているところである。
その違いで徳島は気づく、この部屋は自分が所属する護衛艦いしづちの艦長室だと。大体の船は、動揺により調度品が動かないように固定されているのだ。
面接や報告などで数回だけだが、艦長室には入った記憶があったから確かだ。
まずい!面接か何かの折に寝てしまったかとも思ったが、先ほどまでゲーム世界のような場所で銃を撃っていたなと思い出した。
「やあ、気付いたかい?」
部屋の奥から女性の声が聞こえてくる。
同じ女性でも徳島が知るいしづち艦長の1等海佐 東 京(あずま みやこ)の声ではない。
奥から出てきたのは、徳島が見たことはない女性だ。外見は黒のショートカット、年齢は10代後半から20代前半、服装は簡素なワンピースを着ており、とても護衛艦には似つかわしくない恰好である。
徳島よりもはるかに若い見た目だが、その目には徳島では及びもつかない知性を感じさせる。
そう、徳島はこのような目をした若者をよく見る。
徳島と同じ護衛艦いしづちに所属する若手幹部や徳島よりも優秀な後輩達が、似たような目をしている。
知性ではなく経験によって技術を確立した相手を見下すことなく、徳島のような口下手な者の下手な教え方でも真面目に聞いてくれる者の目だ。
「私の名前は、カテジナという。貴方は徳島さんだね。どうぞ、そこにある椅子に座ってください。」
カテジナという女性は純日本人という見た目だが、西洋風の響きのある名前を名乗り、外見年齢からは想像もつかないような熟練された礼儀作法で椅子を薦める。
彼女はこの部屋の主ではないのだが、まるで長年使っているような態度で自分も椅子に座る。
「あぁ。この部屋は君の記憶から引っ張り出した物で現実の部屋でではないから本当の持ち主に気を使う必要はないよ。」
「現実の部屋ではない?」
徳島が彼女の言葉が理解できていないのでオウム返しに答える。
その徳島の返答に嫌な顔をするわけでもなく、カテジナと名乗る女性は答える。
「そう。貴方の記憶にある一番調度品が使い良さそうかつ、一対一で話が出来そうな部屋を選んだの。」
「他にも、結婚式会場の休憩室もあったけど、奥さんが行方不明の貴方には辛いかもしれないから止めておいたわ。」
徳島は彼女が自分の記憶や過去の事を把握していることに驚いたが、自分はゲームの世界に来たんだから何でもありだなという諦めにも似たような気持ちになる。
そう、諦めだ。
徳島は現実(?)の自分がどのような状態にあるか分からない。
死んでいるのか?
ただ寝ているだけなのか?
時間はどのくらい経っているのか?
全く分からないのだ。
もう、妻を探すこともできないのだろうか?
「まぁ、そんなに気を落とさずに。貴方がout of Battle ARENAの世界に入ってから現実の時間は一時間ほどの経過しています。」
徳島はその言葉を全面的に信用したわけではないが、少しホッとする。
「では、私も死んだわけではないのですね?」
徳島はカテジナという女性に対して丁寧な対応をすることにした。
彼女の言葉からは自分という存在を如何様にもすることが出来るという感じをさせる。
失礼な態度をとって得られるものは全くない。
「はい。貴方の身体には全く問題はありません。一つ言えば、貴方はチュートリアルをクリアしましたので、そこでチュートリアルから得られた経験値を元に能力が上がっているはずです。これは現実の身体にも影響があるはずですので、筋肉痛にはなっているかもしれませんね。」
徳島は久しく得ることがなかった筋肉痛の痛みに恐怖を覚えながら質問をする。
「私の状況を教えてもらっても良いですか?」
「もちろんです。」
カテジナは笑顔で答える。
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