第2話 戸惑いながらも気付くおじさん
徳島は背中の痛みで目が覚めた。
ふと気づいたらそこは路上であり、時間帯は朝なのか、日の光が弱々しくも周囲を明るくしていた。
「まずいな。缶ビール1杯で酔っ払って路上で寝ていたのか?上司に知られたら自衛官失格と言われてしまうな。」
徳島は慌てて自分の身体や周囲を確認する。
徳島が十分に確認するまでもなく、自分の異変に気づく、昨日、自宅に帰って着替えたラフなジャージ姿ではなく、身体にはマガジンが入っているリグや防弾対策のあるアーマー、頭にはバイザーの付いたヘルメットや音響対策(大音量は音量を抑え、足音や話し声など小さな音は聴こえやすくする)が付いたヘッドセットを付け、徳島の周りには何が入っているのか、大きなリュックが落ちており、その手にはUMP45というSMG(サブマシンガン)を握っていた。
「おいおい。なんの冗談だこれは。呑気に寝ている場合ではないぞ!」
いくら自衛官とはいえ無許可で武器を持ち出すことはできない。
厳重に守られており、上司や武器を守っている自衛官から承認を得てから始めて武器を装備できるのだ。
酔っ払いの男が行って武器を出せと言ってもすんなり渡してくれる訳はないし、逆に取り押さられ、今頃は詰問されているはずだ。
徳島は慌てて周囲を確認する。
他人に目撃され通報されれば一発で人生が終わってしまう。
もちろん武器を無断で持ち出した時点で違反であり、持ち出した徳島だけでなく、武器を守っている人間も相当な罰をもらうはずだが、どうやって持ち出したのか、徳島にはまったく記憶がないのだ。
「しかし、UMP45って自衛隊に配備されているのか?」
手に持っているUMP45は徳島の長い自衛官人生でも触ったことのない銃である。
ゲームだと何回も触った銃であり、Out Of Battle ARENAでも、先週末まで使用していたSMGである。
「そういえば、このUMP45は俺がゲームで使っていたやつと同じカスタムだな。タクスコは2倍だし、25連マガジン、サプレッサーやフォアグリップなんかも反動をかなり抑えてくれるやつだな。」
そう言って、こわごわ銃を調べる。
ゲームではボタン一つで銃を調べることができるが、実際に銃を操作するのだ。
おっかなびっくり操作して、マガジンや薬室を調べるとフルで装弾されており、それらはどう見ても、模擬弾ではなく実弾らしく硬く重い物であった。
徳島は慌てて周囲を確認する。今度は、他人ではなくここが何処かかという事を知りたくて周囲を見渡したが、今まで来たことはない風景である。しかし、何処か既視感があるのは気の所為だろうか?
ここが何処か分からないが、路上に完全装備で銃を持った男がいるのだ。
他人に目撃されたら警察案件であり、相当な騒ぎになることは間違いない。
ここが仮に外国であれば、警察機関の警告を無視したら撃たれて死ぬかもしれない状況である。
周囲を見渡したが、人どころか動物すらいなさそうな荒廃した街並みである。
荒廃と言っても人がいなくなり、自然に荒れたわけではなさそうで、戦争や紛争により、武器が使われて家や倉庫の外壁が壊されているみたいである。
「寝ている間に紛争地域に拉致でもされたか?まさかな。大人の男を1人とはいえ拉致するのは簡単にじゃない。しかも、紛争地域なんてよほどの金か権力がないと難しいはずだ。」
そんなことを考えていると物音がしたので、そちらを向くと何処か虚ろな目をした男がこちらを見て何か言っている。
明らかに日本人ではなく、徳島よりも貧相だが、防弾のアーマーをきており、良く見えないので、種類は分からないが、手にはリボルバーらしきハンドガンを持って銃口をこちらに向けている。
「やばい!警察か?おい!俺は何もしていない!この銃は持たされているだけだ。使う気はない!」
しかし、向こうも徳島の言葉を理解できないのか、ハンドガンをこちらに向けてトリガーを引いた。
「まずい!」
徳島はとっさの判断で相手の右側にジャンプする。
人間の身体の構造上、相手が右利きの場合、相手の左側だと、小さな動きでは、手と視線を動かすだけで照準及び両手で銃を保持されて撃たれてしまう。右側に動くと両手で銃を保持して撃つ場合は相手は身体の向きを動かさなければこちらに追従して射撃をすることは難しいはずだ。
徳島はそのタイムラグを利用して逃げようとする。
パンパンと六発の乾いた音が周囲に響き銃弾が徳島の横を通り過ぎる。
幸いにも弾は当たらなかったが
徳島は冷や汗をかいた。
「やはり、ここは外国か?奴は銃を撃つのにまるで躊躇がない。」
しかし、相手の動きを見ていると徳島は再び既視感を覚える。
この男は人間ではない気がするのだ。目の前に明らかに自分よりも性能の良い銃を持った徳島がいるのにも関わらずこちらをまったく見ないのだ。
「リボルバーのハンドガンでSMGに向かってくるとはな!確かに銃の性能が全てではないが、連射では明らかにこちらが有利なのを理解していないのか、それとも俺が日本人と理解していて銃を撃つのに躊躇すると思っているのか?」
最初は、警察関係と思っていたが、男の装備の貧弱さ。言葉は分からないが、警告らしき言葉から
こちらに向かって致命的な部位への射撃への移行の早さから警察官ではないと判断
「本当の警察官であれば、もう少しこちらの動きを牽制する言葉、銃を捨てろとか跪けとかをかけると思う。それに俺が銃を向けたわけではないのに射撃してきたのも怪しい。」
外国人は銃のリボルバーに弾の装填を徳島の目の前で行っている。
「こいつはBOTか?」
普通の人間ならば、自分が狙った男が目の前で、銃を持っているのに身体を物陰に隠しもせずに、突っ立ったまま、悠長に弾を装填するのはおかしな行動だ。
これはゲームだと、体力がゼロになるまで、行動の速度制限やエイムのブレなどは出るが、基本的な動作や銃を撃つ行為はできるので、タイマンであれば、一発でも早く相手に弾を叩き込んで相手の体力をゼロにした後で自分の体力を回復させる。
そのために少しでも早いリロードをして相手に銃弾を叩き込むことを心がけるが、普通の人間ならば、一発でも弾で撃たれたら、痛みや出血でそれどころではないはずだ。
できるだけ被弾するのを避けるはずだが、
「こいつはout of BATTLE ARENAに出てくるコンピュータ制御のBOTにそっくりな動きをするな!」
徳島は正当防衛を理由に安全装置を解除して、UMP45の銃口を相手の足に向けトリガーを引く。
狙いどおり45弾が足に当たり、外国人らしき人物は倒れるが、致命傷ではないはずだ。もちろん、出血を止めないと出血死するのは確実だ。
しかし、徳島の目には異様な光景が見えていた。
銃弾が相手に当たったときに何と外国人の頭の上に数字が見えたのである。
数字は弾が一発当たると「30」と出て4発当たると外国人は倒れた。
外国人の身体は1m程度の箱に変化したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます