FPSゲーム大好きおじさんがゲームの世界に乗り込んだら人生が変わるかもしれないと思い必死で頑張っていく。

鍛冶屋 優雨

第1話 寂しいおじさん

「お疲れさん。今日は金曜日だからやることやったら早く帰れよ!」


神那河県の横素科基地に所属するイージス型艦「いしづち」に所属する徳島三郎(階級は海曹長)は部下の隊員たちに労いの言葉をかけて回っていた。

イージス艦いしづちは長い航海に出ており先程、入港したところで仕事終わりの合図があったのだ。


「徳島さんもたまには早く帰ってくださいよ。いつも俺たちが帰るまで帰らないじゃないですか。」


「そうですよ。徳島さんも言ったとおり、今日は金曜なんですから今日くらいは早く帰って下さい!」


「大体、怖い上司が長くいたら当番の俺等は安心して勤務できないですよ!」


当番に当たっている部下の3人からそう勧められては、徳島も帰らないとは言えない。


幸い急ぎの仕事もないので今日は早く帰るかと、帰り支度をし始めた。


帰り道のコンビニで晩飯の弁当と缶ビールを買い自宅に戻る。


ほんの僅かに期待をして、久しぶりの自宅を見るが、出る前と変わらず、暗いままである。


徳島はもしかしたら、妻が電気を消して寝ているかもしれないという最後の期待をしながら鍵を開け自宅に入るが、やはり誰もいないという再確認ができただけであった。

徳島の妻は3年前に失踪してしまったのだ。

それまで特に喧嘩もしたわけではなく前日も仲良く食事をしたのだが、特に変わったことはなかったのだが、仕事を終え、自宅に帰ったが妻はおらず、連絡もつかず、翌日も帰ってこなくて、親、親戚、警察に連絡したが、消息はつかめず1年が経過したときに、親や親戚は仕事人間の徳島が家や家族を顧みないことが原因で失踪したのだろう。と決めつけられてしまった。


妻の両親は元々自衛官に対して良いイメージを持っていないので、積極的に徳島を批判し、家族の縁を切られた。

徳島と妻には娘が2人いたのだが、ふたりとも就職し、独立しており、妻が失踪したときに一緒に捜索したが、娘たちも妻が失踪したのは、妻の両親の影響で、徳島が悪いのだと思い込み、やがて連絡も取らなくなり、家にも寄り付かないようになった。


徳島はそれでも平日は任務を全うし、週末、仕事が無ければ妻との思い出の場所に行って妻を探すという生活を続けていた。


そんな徳島にも一つだけ趣味がある。それはゲームである。週末の夜だけと決めているが、長年、FPSゲームをしている。昔は、PCや据え置き型のゲームでやっていたが、最近ではスマホでも、FPSゲームができるようになり、その手軽さから妻を探すこと以外はゲームをしている。


コンビニ弁当を食べながら缶ビールを飲んでいたが、徳島は顔に似合わず、あまり酒に強くないので、少し酔いながら、明日はどこに妻の捜索に行こうかと計画しながら、つい癖でスマホでゲームを起動、徳島が最近気に入っているout of BATTLE ARENAの画面が起動する。

out of BATTLE ARENAは武器や装備を選び、決められたエリアに進入、そのエリアで複数の敵と競合しながら、物資や武器を捜索、無事に帰還すれば物資を持ち帰ることができ、やられてしまえば、持ち込んだ物資は全ロスするという仕様のゲームである。


やられてしまえば、フラストレーションもたまるが、勝ったときの爽快感が忘れられず、続けている。最近では、ゲーム内だけだが友人もできたので、週末の夜にはゲームという習慣になっているのだ。


徳島がゲーム画面を覗き、自分の装備が先週末に装備した物から変化がないのを確認し、フレンドを探すが誰もログインしていないので、一人でゲームをしようかと思っていたが、長い任務帰りで飲酒もしていたこともあり、急に眠気に襲われる。今日はゲームを止めて寝ようかとゲームからログアウトしようとすると意識を失い暗転する。

スマホ画面には

「ようこそ!,out Of Battle Arenaへ」

の文字が点滅していた。

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