第102話 真央氏は桃子にとって永遠の推し
ある日のこと。
「よし、できた。マチルドたん、これお願い!(*´ω`*)」
「了解っす!なんとか締め切りに間に合いそうっすね。」
「うん。今日徹夜すればなんとか…。あ、マチルドとロクサーヌはちゃんと睡眠とってね?」
「水くさいっすよ!間に合わなそうならお供するっす!」
「おお…なんて心強い友よっ!!お主達のお陰で勇気の鈴がリンリンリンでござるよ!」
桃子は漫画の締め切りに追われていた。今日も徹夜になるかという土壇場でそれは起こった。
バターンっ!ノックもなく、作業部屋の扉が乱暴に開かれる。
「うおっ!(⑉⊙ȏ⊙)な、なんだ!敵襲か!?」
「桃子さぁーん!!うわーん!」
泣きながら部屋に入るなり、桃子に抱きついたのは真央だった。
「真央氏っ!如何した?」オロオロ…
「もうっ、晴なんてきらーい!別れるっ!」
「えええっ!な、なんですと!?そ、そんなことがあってはならぬ!真央氏!ちゃんと話して!?」
あ、なんか。いいニオイする。あと、やわらかい♡(*´ω`*)
と、一瞬だけ桃子は思ったが、他ならぬ推しの真央氏が泣いているのだ。煩悩滅却っ!慈愛に満ちた顔で真央を連れて作業部屋を出た。
(あーあ。もしかしたら徹夜しても間に合わないかもしれないな。私しーらない。)
と、マチルドとロクサーヌは顔を見合わせ、また黙々と作業を続けるのだった。
桃子は豪邸の中でも人気のない屋上へ真央を連れてきた。泣いてるかわいこちゃんを晒すわけにはいかない。それが推しを愛でる者の流儀。
「ほら、真央氏。泣いてたら何があったかわからないよ?話してご覧ませ?」
真央はスンスンと泣きながら、桃子にしがみついて離れようとしない。
(やばひ。この姿をもしも夕に見られでもしたら…間違いなく修羅場だ…。)
桃子は冷や汗をかきながら、真央の背中を優しく撫でた。
現役高校生の百合カップル、真央と晴。2人は来年の春に卒業し、進学しながらゲーム実況の動画配信者を続ける予定だ。つい最近、家族の承諾を得て、梅沢屋敷に転居し、同棲が始まったばかりだ。
「真央氏?これからが楽しいんじゃん。晴氏と仲良く2人でさ?勉強して仕事して、イチャイチャしてさ?別れるなんて…」
真央は真っ赤な目で涙を頬に伝わせながら、桃子の顔を上目遣いで見た。
(あ、やめて。その上目遣い。桃子、そーいうのめっちゃ弱いから!ダメだすんげぇ可愛い!ぐっ、み、妙な気分になってまう!)
桃子はされてもいない誘惑に耐えながら、真央が話し始めるのを待った。いつ夕がここにくるかもわからず心拍数は跳ね上がる。
「晴がね、、私もずっと一緒にいるのは嫌なんだって。…自分一人の時間がほしいって言うの。。ひどい…。」
(あ、それ。すんげぇわかる。)と桃子は内心思った。だがしかし、そのまま伝えれば真央を傷つけるに違いない。桃子はスーパーコンピュータをフル回転させた。
「真央氏。どうか、桃子の戯言をお聞き下さい。」
桃子は役に入り込んだ。行くぞ。
「桃子ね、夕のことが大好きなの。ずーっと一緒にいたいんだ。おばあちゃんになってもずっと。
だけどね、着る服の趣味も違う。食べ物の好みだって違うこともある。行きたい場所も、それから、友達だって別々にいる。
自分と違う人だから、恋をして、その人のためになることをしてあげたいとか、されたいとか、たくさん考える。
一緒にいることだけが、2人のためになるとも限らない。別々にやりたいことをちゃんとやって、離れているときも心のなかにいる。信じ合って、、その人がいるから幸せになる。それが本当のカップルだと思うんだ。」
「桃子さん…。でも、、好きならいつも一緒にいたいでしょ?」
「うーん、そうとも限らないかな。あ、そうだ。今から桃子とデートしよ?」
「うん?デート?どこに行くの?」
「ふふふ、まぁついてきたまえ。」
桃子は真央を連れて、屋上から一階へ降りると、草村さんからハーレーを借りた。
ヘルメットを真央に放り投げると、
「さぁ、乗りな!風が呼んでる!!」
「う、うん。私、バイク初めて乗る。ていうか、桃子さんってバイク運転できるの!?」
「できまんがな!さぁ、後ろに乗って!」
恐る恐る、真央が後ろにまたがり、桃子にしがみつくと、草村さんによって改造されたハーレーは轟をあげて走り去った。
勘づいたマチルドは、出版社の担当である妙に、締切には間に合いませんと連絡した。
一体、どこへいったのやら。
続く。
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