第66話 夕ちゃん、ブラウンの館へ

 草村事変が無事解決して、梅沢家には平穏が訪れていた。


「桃子様、アフタヌーンティーをご用意いたしましたので、少し休憩なさってください。」

「ありがとう、草村さん。。じゃあ、少しだけ。。」


 桃子は多忙を極めていた。なにしろ描きためた同人誌を全て修正して描き下ろしをつけつつ、出版しなおすのだ。終わりの見えない大プロジェクトであった。


「桃子、、顔がやつれているけど、、大丈夫?」

「あ、うん。夕、、大丈夫だよ!(´ = ω= `)」

「でも、目がなんか、、シュメールの土偶みたいな顔になってる。。」

「え、ほんと、、でも顔を撮影する仕事は当分ないはずだから、、たまには土偶も悪くないよ!」

「桃子様、本日はラジオの収録でございますよ。」

「あ、そっか。じゃあ、夜出かけるね!(´ = ω= `)」

「桃子・・・。倒れないでね?」

「え、全然大丈夫だよ!(´ = ω= `)」


 桃子。。前から忙しかったのに、それを悟られずにやっていたのはすごいけど、、とうとうギリギリな感じがするよ。。恋人として、いえ。伴侶としてもっと助けにならないと。。っていうかこの人、株もやってるし動画の収益もあるし、、こんなに仕事しなくてもいいはずなんだけど、、。


 そうなのだ。桃子は無自覚転生者であった。江戸時代の9歳のこどもが27歳の桃子に転生したため、現代のあらゆるものにワクワクしてしまう癖があった。お金のためと言うより、興味を持ったことを片っ端から手を出してしまうため、いろんな仕事を持っていた桃子。そして転生するときに誓った、強運と商才を持ち、何をしても上手くいってしまっていた。


 夕は一生懸命、桃子のサポートをしたが、仕事の量が10人分はある。とうてい終わるものではない。さて、どうしたものか、、。


(このままでは、、私と桃子のいちゃいちゃする時間があまりとれない。。死活問題だわ!)


 そう、あまりの忙しさに、桃子は夜、寝る前の夕とのいちゃラブタイムには燃え尽きていることが多かったのだ。昨日は特にひどかった。


「夕、愛してるよ。(´ = ω= `)」

「私も、、桃子・・・♡」

「さぁ、ベッドへ。。(´ = ω= `)」

「うん、、ああ、桃子・・・♡」

「・・・・(´ = ω= `)」

「桃子?どうしたの?」

「あ?え?愛してるよ。(´ = ω= `)」

「・・・今日はもう寝よう?」

「・・・・(´ = ω= `)」

「あ、もう寝てたか。。」チーン


 夕は切実だった。このままでは、若くてかわいい今の私が桃子に愛されずに終わってしまうと。そして更年期の草村さんにビッチ呼ばわりされたことで、息抜きにお酒を飲みに行くことも控えていた夕。限界点は近かった。


「そうだ!ブラウンさんに相談しよう!占い師さんだもん。きっと良い方法を占ってくれるわ!!」


 そうして、夕は草村さんに聞いたブラウンの秘密の館へと向かったのだった。

 ブラウンは表向きは有名な占い師だが、裏家業は魔術師である。世界中の要人が取引相手だ。決して素性を明かすことがない正体不明のブラウンさん。夕は地図を頼りに森を抜け、川を渡り、山を越えてやっとブラウンの館にたどり着いた。(*正確に言うと、森ビルの角を曲がり、川本さんのお宅を通り過ぎて、絶対に避けられないという山本さんの奥さんの世間話を30分聞いてからたどり着いた。桃子の家から15分の立地であった。


「ふぅ。。あの山本さんって、旦那さんの愚痴しかないのね、、つ、疲れた。。さて、ここまで来たら、この細道ね?あ、怪しげなドアがあった。合い言葉を言えば開くのよね。」


 草村さんに聞いたとおり、夕は合い言葉を唱えた。

「頼もう。」

「何者だ?団子ならいらん。」

「く、草餅です。」

「・・・入れ。ガチャ。あ、なんだ。夕じゃん。」

「ブラウンさん!やっと会えた!」

「え、これから行こうと思ってたんだけど?」

「え!で、でもちょっと相談があるんです。桃子に内緒で。」

「え、ついに別れるの?ワクワク!」

「別れません!お金なら払いますから、占ってください!」

「え~?占っちゃうの?ブラウンのすごさを知ってしまうのかい?フフフ。では来たまえ。秘密の地下室にご案内しよう。」

「は、はい。お願いします。」



 待っててね、桃子。必ず、私たちがいちゃいちゃする時間を作ってみせる!



 続く。 

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