第63話 決してバームクーヘンを忘れてはならない異世界転移

「桃次郎、、桃次郎、、起きろ!」

「う、ん、、?あなたはだあれ?」

「ブラウンちゃんだよ。お前を助けに来たんだ。」

「た、助けに??・・・あっ!ぼ、僕はっ!盗賊に襲われてっ!」

「しっ、静かに。良く見てみろ?」

「あ、あれは僕が乗っていた馬車っ!!盗賊があんなにたくさんっ!!」


「いいかい?良く聞くんだ。お前を乗せていた大人は皆逃げたんだ。そしてお前だけが荷物と一緒に残されていた。私はまだ9歳のお前が残虐に殺されるのは嫌だったからね、、お前を転生させたんだよ。だからお前はこの世界では死んだことになっているんだよ。」

「あ、あ、、、思い出した。僕は桃子。だけど、桃次郎で、、あっ!は、母上は?僕の母上は無事なの??!」

「ああ。無事だ。観に行くか?」

「う、うん!ああ、母上!僕はやっぱり母上と離れたくない!!」

「それは、できないんだよ。なぜならお前はこの世界に残れないから。。」

「そ、そんなっ!!」

「そうしなければ、どのみちお前は盗賊にやられていた。」

「な、なんてことだ、、。でも、、あなたが助けてくれたのですね、、。それに関してはお礼を言わねばなりません。」

「じゃあ、母上のところに連れて行ってあげよう。話すことはできないが、遠くから見ることはできる。」

「そうですか、、もう話すことができないのですね、、あ!ああっ!!ゆ、夕は!!僕の恋人っ!!夕は無事ですかっ!?」

「ああ、心配いらないよ。夕は現世でカラオケしてるよ。ただし、お前があまりにもこどもっぽくて浮気性だから、お前のことを嫌いになってしまうかもしれないんだ。」

「そ、そんな、、、僕は彼女を愛しているのに。。」

「うーん。お前はどっちかというと、夕に母上を重ねているんだよね。おっかさんが恋しいんだ。」

「た、確かに、、彼女の握り飯は母上の握り飯のように美味しくて、、」


「よし。わかった。今からブラウンが、お前の母上にお金を払って握り飯をこしらえてもらってこよう。お前はそれを食べて、きちんと夕と母上を切り離すんだ。いいね?」

「わ、わかりました、、。母上は元気なの?」

「ああ、お前がいなくなって、母上は再婚した。ちゃんと幸せだから安心するがよい。」

「そうか。ならば僕は、もう守るべきは一人なのですね?」

「そうだ。やっと気づいたか。さぁ、母上のところに行こう。」

「はい。」


 山道を人里の方へとしばらく歩くと、夜が明けてきてうっすらと白んできた。

「ほら、あそこがお前の家だよ。いいか?お前は母上に見えないからね?」

「わかりました。」


 二人が家に近づくと、桃次郎の母はどうやらちょうど庭で朝飯を炊いていたようだ。

「頼もう。すまんが、旅のブラウンだ。お金たくさん払うから握り飯を2つ分けてくださいな!」

「え、旅の方ですか。うちは貧乏ですので、お金をくださるなら差し上げますよ。」

「うん。じゃあ、これ今持ってる江戸のお金全部あげる~!」ジャラジャラ

「ええっ!!こ、小判をこんなにもっ!!今すぐ作ります!」


 このブラウンの小判のおかげで、桃次郎の母親は生活を立て直し、再婚して幸せになるのだった。


「ああ、母上。もう一度抱きしめて欲しかった。だけど僕はもう、この世界の人間ではないんだ。そうだ、いつか母上のお墓参りをしよう。夕と一緒に。」


 ブラウンが握り飯をもらうと、2人は町から離れて河川敷へと移った。

「さあ。桃次郎。握り飯、お食べ?」

「ありがとうございます、ブラウン殿。ああ、なつかしいっ!もぐっ。。ま、まさに母上の味だ。。そうだ。夕の握り飯は夕が作ったから旨かったんだ。母上に似ているからじゃない!!」

「そうか。さぁ、そろそろ現代へ戻るよ。いいかい?もう、江戸であったことは忘れるんだ。戻ったら、夕のことだけを愛するといい。」

「わかりました!」

「じゃあ、この持ってきたバームクーヘンに、魔方陣ぺたってして、、さ、乗って乗って!」

「はい!帰りましょう!夕のところへ!!」

「ブラウンブラウン、お家が一番~!るーるーるるるー」


 シュンっ!!・・・・・・・・・・


(ああ、母上は幸せになったんだ。良かった。僕は、これからは夕だけを大切にして・・・。あ、意識が薄れて、、ああ、、、)


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「も・・・こ、ももこ、、桃子?」

「ん、んぅ、、、?」

「あ、起きた?ソファで寝ないでベッドで寝たら?」

「あ・・・。たしか、、夕が草村さんと出かけて、、」

「うん。スナックが朝になって閉店したから戻ってきたの。じゃあ、お休み。私は1人で客間で寝るから、、」

「ちょっと待って!!夕っ!!」


 ガバッと起き上がると、桃子は夕を思い切り抱きしめた。


「え、桃子、、。悪いけど今そういう気分じゃ、、」

「ごめん!夕!私は夕だけが好き!愛してる!もう一度チャンスをください!!」

「桃子・・・。でももう私、自信がないの。あなたが他の女の子達と仲良くしているのを見るのは嫌なの。」

「もう、絶対にそんなことはしないって約束する!お願い!捨てないでっ!!」

「桃子、、わかった。今度だけだよ?もう次はないからね?」

「あ、ありがとう!!夕!」


「やれやれ。これで一件落着かな。」

「オツカレチャン‼」

 ブラウンとメジェ君は、ベランダからこっそりと、2人が抱き合い、しっかりとキスをするのを見守っていた。



 続く。

 

 

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