第59話 ただの幸せなカップル
梅沢桃子。27歳。
類い希なる商才と、見る人を惹きつける美貌の持ち主。
中身はガチのオールラウンドオタク。童貞じゃないのに童貞気質。ビビり症ですぐ泣く9歳児のままな小学生。
そんな彼女の新しい生活を見てみよう。
朝、目が覚めるとそこにはアイドルグループのポスターから飛び出してきたような生身の人間が隣で寝息を立てている。橘夕。25歳。最推しにして恋人様になって頂いた女神である。
そんな光景に慣れない桃子。刮目とともに自分がなにか犯罪でも犯してこうなっているんじゃないかと一通り記憶の整理をすることから始まる朝。
夕が目を覚ました瞬間。その長いまつげが開いた目によってたなびくとき、桃子は天狗の団扇で煽られたかのような強風を受けた、、、気が毎朝している。
「うぉうっ!」
「あ、おはよ。桃子。」
天使の目覚ましボイスを聞くと、今度は急な抱きつきからの甘いキスが与えられる。
「ん~。ちゅ。桃子~♡」
「・・・。」
へたれだからじゃない。気が利かないからじゃない。こんな甘い空気なのになにも言えないのは、ちょっと気が遠くなっているからである桃子。
「( º﹃º )・・・。」
「あれ、起きてたと思ったけど、寝てたのかな?」
なんだよ、まだそんなことやってんのかよ。そう思うかもしれない。いい加減にしろと思うかもしれない。でもまぁ許してやって欲しい。大好きなアイドルがポスターから飛び出してきたとして、9歳の貴方ならすぐに慣れることが出来ますか?まぁ、桃子よりは早く慣れるかもしれないね…。
桃子が意識の中でアルプス山脈を散歩し終えた頃、ベッドから起き上がってキッチンへと向かう。
「あ、桃子起きた?おはよう♡」
「あ、桃子様。おはようございます。桃子様が一番最後でございますよ。」
朝から来てくれることになった家政婦の草村さんが、とっておきの紅茶を入れてくれている。
「オイ、コッチデマッテロヨ‼」
「あ、うん。」
リビングでは、テレビをつけて朝の占いが始まるのを待っているメジェ君が、日経新聞とエジプト新聞を読んでいる。
紅茶を飲んでいる間に、4人分の朝食が並べられると、桃子のマネージャーに就任した夕が、今日の一日のスケジュールを読み始める。
「今日は、お昼に妙さんが来ます。草村さんの作った冷やし中華が食べたいそうです。」
「あら。じゃあ、ごまだれですね。錦糸卵を多めにしてあげないと♪」
「それから、午後は真央晴カップルが桃子の代わりにゲーム配信をしに来ます。」
「真央氏達もだんだん人気が出てきたから、高校卒業と同時にあのチャンネルは譲ってあげよう♪」
「これであのお二人も食いっぱぐれがないですね。草村、安心致しました。」
「オイ‼ブラウンノウラナイハジマッタゾ‼」
「あ、ありがとメジェ君。皆で観よう!」
とこんな感じに、急激に賑やかになっていた。
「一日中、机の前にいたら体に悪いわ?後で散歩に行きましょうね?」
「うん。わかった!」
朝食を取り終えると、二人は近くの公園まで散歩に出かけた。まだ日差しも強くない午前中。仕事や学校に行き交う人の慌ただしさとは無縁の2人。
「ねぇ、桃子。こうして忙しくても2人の時間もしっかり取れて、毎日賑やかで、幸せだね?」
「うん。夕。私も夢なんじゃないかって思うくらい毎日幸せだなぁって思ってた。」
「あのね?桃子の漫画のアシスタントするの、私、やりがいがあってすごく楽しいの。もっと上手になるから待っててね?」
「そうなの?夕は早く料理がやりたいんじゃないかって・・・」
「うん。それもあるけど。でも今は今やってることが楽しいから。早く桃子の仕事が落ち着くといいね。」
「うん!落ち着いたら2人で旅行でも行こうね!妙ちゃんに相談してみるね。」
「うん。でも、旅行はもちろん行きたいけど、恋人らしいデートがしたいな♪」
「例えば?」
「うーん、そうだなぁ。映画を観たり、景色の良いところに行ったり、2人でお酒を飲んだりとか。」
「わかった!週末はそうできるように、頑張って仕事するね!」
「頼りにしてます♡」
え・・・?
なんのオチもないの?
そうです。ただの幸せなカップルです。
今日はそういう日にしてあげました。
続く。
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