第36話 かわいいと苦労するの。

 週末。夕は以前働いていたカフェのオーナーと会っていた。


「お久しぶりです、オーナー。お話ってなんでしょうか?」

「うん、あのね?僕のカフェ、廃業寸前だったのを会長が子会社化してくれて別業態にリニュアルするって話したでしょ?」

「はい、半年後にオープンだから、それまでは会長の会社で勉強をと言われて。」

「うん、それなんだけどさぁ、、実はうちの店って廃業しそうだったわけじゃないんだよね。。」

「え、ええ!?」


 またしても寝耳に水だった夕。もう驚くことばっかりなんですけどぉ~な夕。。

「じゃあ、なんで・・・。」

「それがさ、会長は、夕ちゃんをそばに置きたかったんだよね。。」

「え、鹿之助さんが??」

「うん。それで、何度も夕ちゃんを鹿之助会長の秘書にって。なんなら養女にって話が出てたんだけど、僕が勝手に断ってたのね?そしたら裏で手を回されて子会社になったってワケ。その方が僕も利益が出るからなにも言えなかったんだよね。。潰されそうだったし。」

「ま、まさか、、そんなことが。。」

「それでね、僕と、会長の息子で僕の同級生である社長がね、なんとか君を秘書にするのだけは回避しようと思って、半年は佐々木さんの下で働かせるって言ってたの。そしたら、エジプト事業を拡大して良いから支社を作れって社長が言われちゃって。社長としてはエジプト支社作りたかったの。だから、佐々木さんを向こうに飛ばすことになって。それも出世だから断りづらくされててね。」


 なんてことなの。夕の勤めていたカフェの常連である鹿之助会長(87)。以前から夕を溺愛していたが、とうとう夕をそばに置きたくて裏で手を回していたようだ。


「なるほど、、樹里さんが居なくなれば、私はあの部署に居る意味が少なくなる。そして鹿之助さんの秘書に、、ってワケですね、、」

「うん。で、とうとう僕たちも止められないし、多分君は僕の会社に戻ってくれそうにないんだ。。だからどうしようかって話をしたくて呼んだんだよねー。」


(そうか。それで急にこんなことに・・・。ならもう、樹里さんがいない今、私がこの会社にいる意味は本当に・・・。っていうか、鹿之助さんの秘書、絶対嫌だ。。)


「わ、わかりました・・・。オーナー、お願いです。あの会社を辞めさせてください。私、、秘書になりたくありません。」

「わかった。だけど、夕ちゃん、他に働く当ては??」

「それは、、でも、元々は私、健康的な食事の仕事がしたくてカフェに入りました。また、自分がやりたいことができる仕事を探します!!」


 と言うことで、鹿之助会長にバレないように、しばらく秘密にするものの、夕が樹里と働いた会社を辞める動きは水面下で進んでいくのだった。


(困ったな。急に仕事がなくなっちゃった。。桃子になんて言えば、、。いや、桃子に相談すればなんだって解決できる気がする。。樹里さんを諦めたこと、、それに私が今好きなのは桃子だと言うこと。。桃子に打ち明けることがいっぱいなんですけど、、なんだこれ??なんかもう、、今私が相談できるのって、、桃子しかいなくない??


 あ、親友の華恋がいるか。。でもなぁ、あいつぶっ飛んでるからなぁ~。)



 この日、夕は初めて、一人で赤提灯の居酒屋に入った。


 日本酒とやきとり。しみったれた顔の、25歳会社員を初体験したのだった。



 オサケハヌルメ・・・カンガ・・・ィィィィィィ

 サカ・・・アブッタァァァッ・・・ガイィィィィィ

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