第28話 貴方の萌える手で私を抱きしめて
一行が予約していたイタリアンレストランに入ると、店内で一番良い席に通された。シャンソンの歌手が歌うステージと噴水が近くにある。
樹里はともかく、夕や学生である叶はその高級感に面を食らった。
「梅沢様、いつもありがとうございます。」
「こんばんは。今日は大切なお客様なの。よろしくお願いしますね。」
支配人らしき男性が桃子に挨拶をする。
「ちょっと、、桃子。。ここ、高いんじゃ・・・。」
「そんなことないわ。今日は私が招待したんだから遠慮などしないで。皆さんが好き嫌いなければコースにしましょうか♡」
少し気合いの入りすぎてる桃子だったが、夕のために完璧に今日をセッティングしなければいけないと思っていたから仕方ない。健気な金持ち美人、少年の心を持つ桃子。
桃子の勧めにに従って、コース料理を頼んだ一行。まずは食前にグラスのシャンパーニュが支配人から提供された。
「では、まずは自己紹介させてください。夕とお付き合いさせて頂いてます、梅沢桃子と言います。職業はクリエイター。漫画家としての仕事がメインですが、ラジオのDJなどもしております。普段は株を少々。」
「な、なんかすごそうですね、、。あ、私は夕さんが今勤めている会社の、一応上司に当たります。佐々木樹里と申します。お会いできてうれしいです。」
「存じ上げております。あと実は私、御社の株を取り急ぎ買い広げまして、、若輩者ながら一応株主です♡」
「え、な、なんと。か、株主様でいらっしゃいましたか!し、失礼致しました!」
桃子、勢い余って株主になっていた。怯えてすぐさま仕事モードになった樹里に気づいてはいない。
こうして、まずは年齢が上の二人が名刺を交換し合いながら話していると、コースの料理が提供されだした。
「前菜の真鯛のカルパッチョ、ファビュラスな女神風でございます。」
「どうもありがとう。そろそろ白ワインを頂こうかしら。」
「桃子様、いつものシャルドネで宜しいですか?エチケットを桃子様がデザインした【食べ頃のネコちゃん】で。」
「そうね、ボトルでお願い。」
もう、叶にとっては別世界過ぎて驚きが隠せない。樹里のスーツの裾を握りしめて固まっていた。夕は夕で緊張している様子だ。桃子と樹里の会話が続く。
「桃子さん、ここはいつも来てらっしゃるのですね。」
「あ、はい。仕事の接待などで良く連れてこられて、気に入ってしまって♡」
食前のグラスシャンパンを飲み干すと、次々にコース料理が提供され、桃子オリジナルの白ワインをグラスに注がれ舌鼓を打つ。
「わお、樹里さん。これすっごい美味しいね。」ヤバクネ?
「うん、叶。ワインも良く合う。」ナンテナモウアジワカラン。
洗練された大人の装い、整った顔。品のある話し方。ついには株主ときたもんだ。どれをとっても一流の桃子。動画チャンネルで有名な桃子は、食事マナーの専門家や料理研究家とのコラボも数こなし、人脈が潤沢であった。それゆえ、自身のマナーも鍛錬を欠かさなかった美魔女風味桃子。
普段からそういった片鱗は見え隠れしていたが、さすがの夕も惚れ直したような顔をした。
「桃子、、こんなところをいつも、、。す、凄いね。」
「いやだ、今日は夕の大切なお友達を紹介してもらえるんだから、かっこつけてるだけよ?」
「えへへ、そうだとしてもかっこいいよ、桃子は。」
「夕だって今日の服、とてもかわいいわ。目に焼き付けておきたいから料理が見えなくて食べるのが大変。」
「も、桃子ったら…」
「夕…。私のエクストラヴァージンオリーブ天使…。」
樹里と叶は、2人のやりとりを見て小声で話した。
「ね、ねぇ、樹里?あの二人、お互いしか見えてなくない??」
「ホントだね、叶。。なんて言うかすっごく、、」
「「好きそう。両思いって感じね。。」」
そんな風に言われているとは気づかない桃子。自分が、さらに夕にふさわしい恋人にみえるようにと必死だった。
「桃子?おおちゃんはね、ずっと私が働いていたカフェでバイトしてくれてたの。」
「そうなんだね。これからよろしくお願いします。えっとなんてお呼びしたら?」
「あ、えーと。太田叶です。叶で大丈夫です。」マダチョットツーン
「じゃあ、叶さん。ああ、なんて可愛らしいんでしょう。まだ学生さんだと聞いたけれど、、これではモテすぎて樹里さんも心配じゃないかしら?」
「あ、はい。そうなんです。最近も大学で言い寄られてるなんて聞いて、こっちは気が気じゃなくって。。」
「あら、でも。樹里さんだってこんなに、エキゾチックな側面もあって、美しいのだから、二人は他の人など見えないでしょう?」
「まぁ、そうですね、、ね、樹里??」テレテレ
「う、うん。そうだね、叶。。」テレテレ
桃子、人心掌握完了の鐘が鳴った。ゴォォォン‼
「あの、樹里さん、そして叶さん。こうしてお呼びだてしたのは他でもない。夕と私の関係についてお話したく。
私、夕のことを心から愛してるんです。それこそ、身を焦がすほどに、ひと目見たときから運命だと感じました。
まだ出会ったばかりで、どこまで夕に信用してもらえているかわかりませんが、私の愛は本物です。そして、これから私達は同棲することになりました。何卒、夕のことを、仕事でも私的にも、よろしくお願い致します。」
深々と頭を下げる桃子。そして、愛してるという言葉に驚く夕。
(も、桃子、、。あ、愛してるって、、演技だけど、ちょっと、、ドキッとして、、顔が熱い…。)
「ぐすっ…。ご、ごめんなさい。私、ちょっと、感極まってしまって…。お化粧室に失礼しますね。ごめん、夕。ちょっと席を外すね?」*また泣いた。
「あ、うん。。」
ここまで、完璧なまでの恋人を演じきった桃子。実は動悸がそろそろやばいので救命丸を飲みに一度逃げたのだった。
(うぉーーーーー!!!すげーーー緊張したーーー!!!ついうっかり泣きながら愛してるとか言っちゃったしっ!!ワインがちょっと回っちゃってて余計なことをーーー!!(>人<;)アセアセ)
その頃の3人。
「夕ちゃん。いやぁ、今日は会えて良かったなって思ったよ。」
「あ、私も本当にそう思う~。」
樹里と叶がニヤニヤしながら夕にそう言う。
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると、、」
「だって。ねぇ?」
「うん。ねー?」
「え、なんですか?」
「夕さんと桃子さん。お互いのことをすっっっっっっごい好きでしょ。もう目がそう言ってるもんね?樹里?」
「うん。見つめ合ってるときの空気が、本当に愛しいんだなってわかったよ。良かったね、いい人に出会えて。」
「え・・・・・・?」
とそこへ、冷静さを2%取り戻した桃子がテーブルに戻ってきた。
「夕、お待たせ。話は弾んでるかしら??」
夕、ワインを飲み過ぎたのかもしれない。心臓が少しいつもよりうるさく感じられ、なぜか桃子がいつもより眩しく見えた。目のレンズが光の調節をうまく出来なくなったのだろうか?老化現象??
いや、ちがう。きっと、あのワインが並ぶカウンターにある大きなワイン樽のせいだろう。あれがきっと、夕を異世界に連れ込んだのかもしれない。
桃子に恋をした世界に・・・。
(どうしよう、、私。桃子が、好きかも、しれない・・・?)
夕の席の後ろには、、ローマ神話の愛の神、ヴィーナスの絵が掛けられていた。キラーン
しかし桃子はそこで終わらなかった。
突如、レストランの照明が落とされ、ステージだけにスポットライトが当てられた。
「な、なに?何かショーが始まるのかな?」
「ええ。シャンソンの時間のようね。」
そう言うと、桃子はグラスに注がれたワインを一気に飲み干し、ステージの上に上がった。
夕、樹里、叶「「「え?」」」
すると、レストラン、、いや、会場の全ての客が立ち上がり、拍手と共にイントロが始まる。そう、桃子はこの店を貸し切り、他の客は全てエキストラだった。
「愛する、夕に捧げます・・・。聴いてください。愛の、賛歌。」ジャーン
アーナターノ・・・モエ・・・テデー‼
桃子、泣きながら夕への愛を熱唱。
樹里、叶は衝撃過ぎて固まる。そして夕は、、固まりはしているが涙を流しながら桃子の歌に魅せられていた。
そう、勢い余った桃子。無意識に本気で夕を口説き落としていた驚愕のエラーだった。レストラン内、全てのスタッフ、そして観客がスタンディングオベーションの求愛。完全に夕の心を射止めていた。意図せずに。。
夕(桃子、、私、気づいたの。。・・・貴方が好き。。)
続く。
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