第22話 恋のタブーはおにぎりさん。

「おはよう、桃子。ヨガ終わったの?」

「あ・・・うん。おはよ。」つーん

「朝食、どうしよっか?」

「あ、私作るよ…。もうご飯炊けてるから、あとは鮭を焼くだけ。。」つんつーん

「そっか。いつもありがとう。」


 桃子、なんと好き避けが始まってしまっていた。そして潜在意識が働いたのだろう。好き避けゆえに「鮭」を、樹里へのやきもちゆえに「焼く」という行為を選んでいたミラクル無意識。


 と、そこへ桃子のスマホに電話がかかってきた。

「あ、ごめん。仕事先からだ。ちょっと部屋ででるね。」*バイト先のコンビニ

「あ、うん。」


 夕は桃子の異変に少し気づいていた。

(どうしたんだろう。朝から急にそっけないというか、、元気ないなぁ。あ、朝が弱い人なのかな?)

 キッチンで代わりに鮭を焼き始める夕。周りを眺めると、お味噌汁ができていて、ご飯も炊けていた。

(電話、時間かかりそうなのかな…。あ、そうだ。)


 夕が朝食をテーブルに運び終わった頃、ようやく桃子が部屋から出てきた。

「ごめんね、夕。ちょっと急に代打で仕事することになっちゃって。。食べ終わったらすぐ出かけないといけないみたいなの。」

「あ、そうなんだ。ちょうどよかった。時間がないとあれかと思って、おにぎりにしておいたの♪」

「・・・・・・え?」

「これならすぐ食べられるでしょ?さ、食べよ?」


 夕は知らなかった。桃子は無意識転生者である。転生前、こどもだった桃子が最後に食べた母の握り飯。その強い記憶がおにぎりを見るだけで桃子に強い母への想いを引き起こさせ、涙が止まらなくなってしまうことを。


「あ、ああ・・・。に、握り飯・・・。」

 見ただけで頬に涙が伝う桃子。

「え!?桃子?ど、どうしたの??」

「あ、ごめん。ちょっと、おにぎりには謎のトラウマがあって・・・。」

「え、そ、そうなの?ごめんっ!?これ私が食べるから、桃子は普通にお茶碗で、、」

「あ、大丈夫。食べられないわけではないの。ただ、涙が止まらなくなるだけで、、変だよね?でも気にしないで?いただきます・・・。」ぐずっぐすぐすっ・・・


「ええ?ほ、本当に大丈夫??」

心配する夕をよそに、震える手で泣きながら桃子は、夕の作ったおにぎりをとると、そっと頬張った。

「だ、大丈夫そう??桃子??」

「あ、ああ・・・。これは、、」


 桃子、無意識に(このおにぎりは、まさしく母上の握った握り飯と同じ味。)と衝撃の感動をしていたのだった。そして、他の女に目移りして消えた父のことで泣いていた母を守りたいという想いが桃子の心を動かした。


「ありがとう。夕。この人生で、一番おいしいおにぎりだったよ。」

「えっ!?号泣してるけどっ!!??」

「もう大丈夫。私、もっと強い人間だったことを今、なんとなく思い出したの。」


 私、夕が好き。心から好き。だからこそ、幸せになってほしいし、私が幸せにしてあげたい。

 幸せにする方法は、私が隣にいることではないかもしれない。だけど私は、それでもいい。夕が笑顔でいられるなら。


「さぁ、夕。そろそろ仕事に行かないとね!今日も、樹里さんと一緒に頑張っておいで!!辛いことがあっても、私が全力で元気にしてあげるから!!」


「う、うん。。なんか、桃子のほうが心配なんだけど、、わ、わかった。」



桃子、夕への無償の愛を誓う。おにぎりの呪いによって。


のろいなのか、それとも、恋のまじないになるのだろうか。。

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