第17話 夕ちゃん、過去を捨てて新しい物語のヒロインへ
数日後。
ついに夕が転職先に初出勤する日になった。そこで仕事を教わるのが夕の想い相手である佐々木樹里という6つ年上の美しい女性だ。
樹里には彼女がいる。その彼女は夕が今まで社員として働いていたカフェにアルバイトとして来ていた学生だ。樹里に出会う前は、そのアルバイトスタッフである叶という女の子と仲良く働いていた。
ある日、夕は樹里に告白された。突然のことで夕はパニックになったんだ。その時、夕には彼氏がいた。返事をする暇もなく、時間だけが流れたある日、アルバイトの叶が樹里に恋をしていたことを知る。傷心の樹里と叶が付き合い始めたことを知ると共に。
それからというもの、夕は樹里に興味を持った。女性との恋愛があり得るという世界観を初めて自分のこととして対峙した夕。ついに樹里を好きになるも、すでに恋人のいる樹里は何度アタックをしても夕を受け入れてはくれなかった。
夕は女の勘で気づいていた。樹里は叶のことが好きだ。だけど、自分のことも好きなままであろうことを。そしてそれは正しかったからこそ、樹里は夕を避けていた節さえある。
そこへ来て、夕の働くカフェが閉店。そして樹里の会社に合併されることになった。リニューアルの工事をする半年間、夕は樹里の元で知識を得るために出向することになった。その初日が今日だ。
「ああ、ドキドキする。もう後には引けないんだけど、、。」
夕は桃子に言われたとおり、桃子と仲睦まじそうに撮った写真を樹里に送っていた。このまま好意を伝え続けても、樹里が夕に振り向く可能性が低かったからだ。
桃子は夕がヒロインとしてハッピーエンドになる筋書きを描いた。
「信頼できていつもそばにいる安心できる人になるの。樹里さんにとって夕さんが、かけがえのない特別な人になるために。」
夕は凄く納得していた。だから桃子の言うとおりにしたんだ。
「いい?今は彼女が安心して夕をそばに置けるように、夕は私と付き合ってることにする。そして、樹里さんと夕の関係に変化が起こせたら、別れたと言えば良い。もしくは、相手が先に恋人と別れるかもしれないしね。」
いつだってこの偽りの関係は別れたことに出来るのだからと、桃子は言った。
「さぁ、、このドアを開けたら、新しい環境だ。行こう。」
勇気を出して、自分がこれから配属される部署のドアを叩く夕。ゆっくりとドアを開けると、カフェの店員しかしたことのない夕にとって、書類とデスクそして、スーツの働く人たちという光景。見慣れない、そんな中に見つけた、、
「あ、いた。樹里さん。ああ、樹里さんだ・・・。」
大好きなあの人が、これからずっと、そばにいる。
夕がヒロインの新しい物語を今、始めようとしていた。
そして、夕の心の隅には、別の思いも浮かんでいた。
(仕事、終わったら早く桃子のところに行きたい。桃子がいるから、なんとか頑張ろう。帰ったら、いっぱい褒めてもらおう。。)
桃子、夕にとってかけがえのない人になっていた。
続く。
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