第6話 母性とは最強のチートであるとナポレオンも言った

 桃子、コンビニアルバイト初日を終え帰宅。


「むふふ。かーいかったなー♡真央ちゃん。高校生ってあんなにかわいかったっけ?やっぱり会社はクビになって良かったんじゃないかな。」


 桃子は副業がバレないように擬態していた。会社を辞めた以上、好きに顔を出して構わない。ただし、あまりの美貌に周りがうるさくなければだ。


 桃子はあちこちで有名人だった。何しろこの美貌で才能溢れる同人界の期待の星である。桃子は「ピーチ@顔出しごめんなすって」のホームページ、そしてあらゆるSNSを駆使していた。


「さてと。今日もコメントをちぇっくせねば。ちぇちぇちぇちぇっくぽいんっ♪」


『ピーチさん!漫画も貴方も大好きです!結婚してください!』

『コミケ初参戦してピーチさんの素顔を見ました!素敵すぎます!!』

『動画で顔出ししないのはあまりに綺麗だからと聞きました、本当ですか!?』


「むむ。今日も顔のことばかりでござるな。やはりネットで恋愛は望めないである。」


 でも、私には真央ちゃんがいるからね♪

 早く明日にならないかなっ☆


「さ、あとはゲーム配信と、漫画描いて、美貌の維持をして、、次のラジオで話す内容も考えないとな。」


 桃子は週一回、ローカルラジオ番組のDJすらしていた。


 そう。桃子はただの、金持ちで有名人でチート美貌をもった賢い女だった。


 翌日。るんるん気分でバイトに出勤する。桃子のシフトは多少の変動はあるが、週4回、14時から20時までとなった。


 今日ももう少ししたら真央が来る。下校時間になれば近所の女子高生がわらわらとやってくる。桃子にとってこの仕事は楽しいだけだった。唯一の弱点を除いては。


「あ、桃子さん。おはようございます!」

「あああんっ!!真央たんっ!♡」

「も、桃子さんって、、テンションがすごいですね。笑」

「だってだって、、真央ちゃんがかわいいから♡」

「じゃあ、お姉さんができたみたいでうれしいかな。今日も品出しお願いしますね!」


 はぁ・・・こんな普通のやりとりだけで、、私の代謝は上がる、、。寿命も延びる。


「じゃあ、、えっと。サンドイッチと、おにぎりの辺りをお願いします。」

「ぎゃうっ!!!?な、なんですとっ!しまった!!」

「え、?な、なんか問題あります??」


「お、おにぎりだけは、、握り飯だけは、、ダメなんだ・・・。」

「はい?」

「な、な、涙が止まらなくなるから・・・!!」

「・・・なんで?」

「わかんないの・・・。手作りは特にダメ、、」

「た、食べられないの?てかもう泣いてる・・・。」

「食べられる、、ただ、涙が止まらなくなり、母に感謝を伝えたくなるの、、」

「そっか。とりあえず、泣いちゃったから休憩入ろうね、桃子さん。。」


 桃子、バイト2日目にして年下かわい子ちゃんから慈愛を受け取る。


 桃子は転生前に母から作ってもらった握り飯を最後の思い出にして、母とは会えなくその人生を終えた。その強い悲しみがおにぎりを見るだけで無意識によみがえり涙が止まらなくなるのだった。


 現世の桃子の母である米子は、そんな桃子のためにスパムおにぎりを開発したが、決しておにぎりとは言わずに桃子に食べさせたという感動の物語はいつか別の話で・・・。


 控え室にて。桃子はやっと涙を止めて、真央の介抱を受けていた。優しく背中をなでられ、時に頭をなでられ、桃子の真央の母性への好感度はじわじわと上がっていった。


「そ、そうだ。今日は店長もいるし、ちょっと早く上がってもいいですよ。それで、、えっと、これだ。」


 ガサゴソと自身のカバンから真央が出しだのは、、


「これ、今日食べきらなかったおにぎりなんです。私が作ったやつだから、、そんなに美味しくないかも知れないけど、、これを食べて、思い切り泣いたら、もう次からは涙がでないかも。」


「ま、真央ちゃん・・・。な、なんて、優しいの・・・。」



 桃子は完全に真央に懐いた。10歳年下の女の子の母性に落ちたのだった。

 その日、帰宅すると桃子は真央のおにぎりを食べながら思い切り泣いた。

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