第2話 桃子、ラブコメを始めるために解雇される

 黒髪三つ編み、黒縁めがね。秋葉原で購入した美少女のイラストが描かれたTシャツを着た女。本人はすでに記憶を失っているが、江戸時代に剣豪になるべく修行するはずだった桃次郎の生まれ変わりである。


 名前は梅沢桃子。プラム感がすごいので一度自己紹介をすれば人に覚えてもらえた。だがたまに桃沢梅子で覚えられることがある。


 そんなときは、

「惜しいでござる。しょっぱいからの甘いで覚えてくださらんと。これにて一件落着。」

 と毎回言う。この桃子。時代劇のファンであり、ガチのオールラウンドオタクであるため、大変話し方に癖がある。


「ふむむ。まだ時間が早いでござるな。滝修行でもしますか。」


 桃子は実家を離れ一人暮らしだが、常に思ったことは声に出すタイプだ。

 ベッドから起き上がると、浴室へと向かう。ヘアゴムを外し、三つ編みをほぐしながら何年前に買ったかわからないふ〇っしーのもこもこ靴下を足に引っかけて脱ぎ散らかす。眼鏡は部屋のテーブルに置いた。


 全てを脱ぎ捨て、裸になると、浴室に入りシャワーからお湯を出す。

「はぁ~極楽でござるな。どれ、今日はこのボディソープにしますか。」

 オールラウンドオタク桃子は世界各国のブランドボディソープを日替わりで使う。その数、100種類はあるであろう。


 シャワーを浴び終わると、タオルを巻いただけの姿で部屋へと戻る。壁に立てかけられた全身鏡の前に映るその姿はまるで、、そう、まるで、、


 日本神話、絶世の美女と言われる木花咲弥姫命 のようであった。

 とにかくかわいい。


 しかし、桃子は会社では擬態していた。擬態なのかなんなのかわからないけれど、三つ編みと黒縁眼鏡、そして会社用の化粧で自分を隠していた。

 そして、逆に話し方だけは普通、いや、それ以上に可愛らしくしていたのだった。


 桃子は百合で育った百合好きだった。自身も女の子が大好物である。そのため選んだ会社は美容系の会社だ。共に働く精鋭は全てかわい子ちゃんである必要が桃子にはあった。


 支度を終えて「乳母車」と名付けた自転車に乗り、駅へと向かう。自転車に乗る間は自分のことを「大五郎」だと信じている。そして電車に乗るときはいつも酔っ払いに絡まれている女性を助けて純愛ストーリーが始まるようにといくつかの車両を移動する。今日は不発だった。だって朝だから。


 会社に着くと、更衣室でなるべく体を隠しながら制服に着替える。なぜなら、桃子の体はものっすおーい綺麗だから。


「この身体、、いざというときに見せることで敵の注意を惹くであろう。ギャップ大事。」


 配属されている部署に入ると、勤務カードを押し、辺りの社員に挨拶をする。


「あ♡おはよーございます♡」

「あ、楓花先輩、今日は髪がゆるふわ~♡」

「おはよ、友梨ちゃん♡今日もお化粧完璧だね♪ナチュラルでかわいい♡」


(ふふふ。今日も妄想が捗るであろう。この会社は美容系、、サイボーグみたいな化粧擬態系もいるけれど、、中にはナチュラルかわい子ちゃんもいるのよ・・・。摂取、摂取、、。)


 桃子は頭が切れる。かわいいに囲まれて働きたい。そしてかわいいが欲しがるもののリサーチもここで出来る。あの人とこの人で百合に挟まれたいという妄想もし放題だ。この会社を選んだのは桃子にとって有意義でしかなかった。


 だが、ここで桃子は窮地に立たされれることになった。


「あ、梅沢さん。ちょっと会議室まで来てくれる?」

「あ、はい。武将、、じゃなくって、部長。」


 会議室に連れて行かれると、総務部の偉い人が数人いた。奇襲か?


「あのね、梅沢さん。実は君が副業をしていることに気づいてね。。」


 な、なんと!!ば、バレたでござるか!な、なぜゆえに・・・!これほど完璧に擬態していたというのに、、。


「キミね、有名過ぎるよ・・・。さすがに注意だけってわけにもいかなくてね、、。会議でキミを解雇することになった・・・。」


 え、ええええ!!?

 ウワァァ━━━━━。゚(゚´Д`゚)゚。

 大変なことになったでござるーーーっ!!

 かわいいの竜宮城から追い出されるーーーっ!!


 桃子。派手に広げた副業がバレた日。解雇通知を叩きつけられたのだった。


 しかし、この物語の主人公、桃子がラブコメを始めるためには必要だったとのちにわかることになる。


 

 

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