【GL】かわいいに捕まってしまいました。でも嬉しいので誰も助けないでください!

葉っぱ

第1話 江戸時代なのは1話だけ。桃子転生物語

 江戸時代。ここは浅草、浅草寺が活気をもたらした町だ。

 この界隈、寺が多く、その周りには忙しく人が住み働く。遊郭もまた色恋に満ちあふれていた。そのある一軒の屋敷に悲劇が起きた。 


「あれ?母上?なぜ泣いているの?」

 遊んで帰ってきたばかりの少年が家に入ってみると、母が一人で泣いていた。

「あ、ああ。桃次郎。お前かい。ちょっとね、お前に話があるんだ。」

「はい。桃次郎、母上のお話をお聞き致します。」

 桃次郎は礼儀こそ正しいがまだ九つであった。

「あのね、桃次郎、、お前の父上が蒸発してしまったんだよ。。」

「な、なんと!?それは誠にござりますか!?」

「ああ、吉原で色恋に夢中になっちまってね。」

 この界隈でも特に剣豪と名高い父が、色に現を抜かしてしまったとは。

「え、父上はバカなのですか?江戸一番の美女と言われる母上がいるのに。え、なにやってんの?意味不明なんですけど。」

「とにかく、、お前の父がいなければこの剣道場も今日で終わりだ。まして、最近では強さじゃうちとは比較にもならないあの弱小道場の方が人気があるからね。」

 弱小道場はこの道場から1,2分ほど歩けば着く距離に新しくできた道場のことである。

「あんな道場!!師範がちょっと色男なだけでありましょう!?僕が、僕がこの道場を立派に切り盛りして見せます!!」

「ああ、なんて頼もしい。。でもお前はまだ小さい。だからお前、、何年か修行してきなさい。山ごもりをして一人前の剣士になって帰っておいで。それまでは私がなんとかするから。」

「なんてことだ、、僕は、僕は、、誓います!誰よりも強運で頭の切れる、強い人間になると!」


 こうして、まだ幼い桃次郎は一人、京都・鞍馬山へと旅立つことにした。昔、幼い剣豪がそこで天狗に鍛えられたという伝承を信じて・・・。


 翌日、桃次郎は京都へ向かう行商の荷馬車に乗せてもらうことになった。


「それでは、母上。必ずや強くなって帰ってきますから!」

「ああ、頼んだよ。気をつけていくんだよ。」

「母上!母上~!!」


 幼い桃次郎は、最後に母の胸にしがみつき、大量の涙を流した。これが僕の最後の涙になるだろうと誓って。


 涙を堪え孤独を耐え、やがて荷馬車に揺られること半日が経った。当たりは薄暗い、人っ子一人いない山道であった。


「母様が作ってくれた握り飯がこれで最後だ。もうしばらくはこの味が食べられることはないんだな。」


 桃次郎が大事にその握り飯を食べていると、荷馬車が急に止まる。


「な、なぜ止まったのだ?行商人に聞いてみよう、、。」


 荷馬車から外へと出ようとすると、桃次郎は驚愕した。なんと、盗賊に囲まれているではないか。


「なんてことだ!志半ば。ここで死ぬわけにはいかないというのに!しからば、どこかに隠れて、自分だけでも助からねば!母上のために!」


 桃次郎はすぐさま、荷馬車のなかを見渡した。


「あ!これに隠れよう!」


 桃次郎が見つけたのは、唐の「紹興酒」と呼ばれる酒の入ったかめであった。中に入った酒を静かに外に流すと、急いでその中へと入り、近くにあった藁を自分の頭に被せた。


「うう。。なんて匂いだ。これでは酔ってしまう・・・。ぐ、ぐらぐらする・・・ああ、、ここで死ぬわけには、、、、」


 ああ、母上。僕は、、このまま死ぬのでしょうか、、。もし、生まれ変わったら、僕は絶対、色男になります。あんな弱小道場になど負けないように、、。そしてそして、、強運で、賢くて、、なんでも切り抜けられるような、、そんな、、


・・・・・・・・・・・・。。。。。。。。。


 どれほど経ったのだろう・・・。

 僕は確か、、瓶の中に隠れて、、静かだ。。

 出てみよう、、ああ、まだ酔いが回っているようだ、、ううっ・・・


 桃次郎、やがて目を開ける。目の前には天井が。

 ゆっくりとあたりを見渡す。。ベッド、昨晩やりこんだゲーム機、、そして山積みされた漫画、、。


 桃次郎は命が助かるために起こした奇跡によって、別の時代へと転生していた。


 ガチのオタク。黒縁めがねを愛する女、桃子(27)に。

 そして、記憶はやがて薄れていく。


 強く誓った、「色男」「強運」「母への、女性への愛情」だけを残して。


「朝でござるな。」



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次回から、1ミリも悲しい話ではありません。

本作も崩壊していきます。

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