第6話 そしてフランスへ

 僕達は、飛行機に乗り込む。海外旅行は親に数度連れてってもらったが、親と一緒じゃない旅ははじめてだった。


 10時間半ほど飛行機に乗って、僕達は一度、飛行機を降りる。ヨーロッパに到着したのだろうか?


「ココドコ?」


「なんで日本語が、カタコトなんだよ」


「いやっ、不安で……」


「そうか。ここはドーハだよ。カタールの」


「カタール……。ああ、ワールドカップの」


「ああ」


「って事は、中東?」


「そうだよ」


 えっ、なんでヨーロッパに行くのに中東にいるんだ? いやっ、そう言えば、このシーズン、中東でロードレースやってたな~。それを見るのか?


「もしかして、ロードレースを見るのか?」


「えっ、いやっ、中東のレースは2月だろ?」


 あれっ、そうだっけ?


「じゃ、なんでカタール何だよ?」


「チケットが安かったからだよ。さあ、行くぞ!」


「えっ、どこ行くんだよ~?」



 山賀は、それには答えず、どんどん歩く。へ〜結構、近代的だな~。あっ、巨大なぬいぐるみ。とか、キョロキョロ見回しているうちに、山賀の目的地にたどり着いたようだった。


 山賀は、何かカウンターで話している。何を話してるんだろ? 僕は、ただぼーっと立っていた。


 すると、山賀は。


「ドーハの街を、ちょっと観光しよう」


「えっ、観光?」


 その後、他の外国人観光客も合わせて、バスに乗って、ラクダ見たり、馬見たり、モスク見たり、ビル見たり。ちょっと観光すると、また空港に戻る。しかし、暑かった〜。



 再び、飛行機に乗り7時間。ようやくヨーロッパに降り立ったのだった。



 入国審査を受け。ちょっと英語は出来るので、ビザを確認され、無事に入国する。さて、ここはどこ?



「ここは、どこ?」


「あれっ、言ってなかったっけ? フランスのパリだよ」


「へ〜、パリか〜」


 山賀と僕はロードバイク等の荷物を回収すると、税関を通っていよいよだった。



 山賀は、案内板を見つつ、レンタカーのカウンターへと辿り着くと、係員と話し始めた。えっ、フランス語? 良く分からないが、かなり流暢なようで、係員とスムーズに話し合いが出来ているようだ。



 そして、国際免許証とか、書類を提出して、車の鍵をもらうと、今度は駐車場に向けて歩き始めた。僕はただついていくだけという、まあ、山賀は昔からヨーロッパに行くつもりで準備していたのだろうな。



 駐車場に行くと、バンタイプの車が停めてあった、後ろを開けて荷物を積み込んでいく。見ると、車にはバイクラックもついていて、上にも自転車が乗せれるようだが、とりあえず、後ろに積むようだった。



 荷物を積み込むと、山賀が運転席に、僕は助手席に乗り込む。そして、出発したのだが、怖い〜。


「よく運転出来るよな?」


「ん? ああ、逆に日本であまり運転してないから、イメージトレーニングしてたら違和感ないな~」


 だそうだ。そう、フランスは左ハンドルで、車は右側通行なのだ。日本と逆。その中を平然と運転する山賀、僕は、違和感があって怖かった。


 しかし、徐々に慣れてきて、


「おっ、ランナバウトだ」


「そうだな」


 ランナバウト。正式にはラウンドアバウトという、要するに円形交差点だ。


 反時計回りにまわり、ほぼ対角にある道へ抜ける。ツール・ド・フランスのレースを見ていると、レースのいたるところで見ることが出来る。僕は、ヨーロッパに来たという実感が湧いたのだった。


「じゃあ、一番有名なランナバウト行くか」


「一番有名なランナバウト?」


 山賀は、パリ市内へと車を走らせる。そして、僕は思わず声をあげる。


「お〜、凱旋門だ、凱旋門。聖地だ聖地」


「だな」


 車は、凱旋門を左手に見つつ、ランナバウトを周回する。


 そう聖地だ。ここからヨーロッパ周遊に出発したんだ、ムッシュさん達は……。


「ツール・ド・フランスのゴール、聖地凱旋門。やっぱり、良いもんだな」


「ああ」


 山賀の言葉に頷きつつ、違う映像を思い浮かべていた。そう言えば、ツール・ド・フランスのゴールでもあったな~。



 そして、シャンゼリゼ通りを少し走って、通りを外れ、小さなホテルの前で停まると、山賀は車を降りて、ホテルに入り、すぐ出て来て。


「荷物おろすぞ」


「ロードバイクもか?」


「ああ、パリは大都市だから一応な」


「オッケー」


 荷物をおろすと、山賀はホテルの駐車場に車を移動させて戻ってくる。そして、チェックインして、荷物を持って部屋へ。


 こじんまりした部屋だが、綺麗な部屋だった。しかし、部屋には、大きめベッドが一つ。


「ダブルベッドか? ツインで予約したんだけどな~」


 そう言いつつ、山賀は部屋を出て行こうとする。


 しかし、僕はムッシュの番組見て知っていた。もしかして。


「山賀、ちょっと待ってくれ」


「ん?」


 僕は、ベッドの真ん中に手を突っ込む。やっぱり、そうだった。小さめベッドを二つくっつけているだけだった。僕は、両脇に引き離す。


「へ〜。ツインだったんだ。ちゃんと」


「ああ」


 ムッシュ感謝します。



 そして、シャンゼリゼ通りに出て、適当な店に入る。山賀がフランス語で話しかけると、予約してないが、ちゃんとシャンゼリゼ通り沿いの窓際の席に案内された。



「さすがに疲れたな~、明日はゆっくり休むか~」


「パリの観光は?」


「行ってきても良いぞ」


「えっ、山賀は行かないのか?」


「ああ、昔、住んでいたからな~」


「えっ、パリ住んでいたのか?」


「ああ、小学校の時な、母親が、離婚して日本に帰ってきたんだ。父親は、いまだにいるぞ」


「えっ、ああ。そうか……」


 その後は、聞けなかった。



 その後は、ロードレースの話などをしてフランス料理を食べる。優雅な時間だった。



 そして、翌日、パリ観光を一人行う。山賀は、軽くサイクリングして、後は休むそうだった。


 僕は、なんとか、凱旋門、ルーブル美術館、エッフェル塔などを観光して、ホテルにたどり着いたのだった。



 そして、翌早朝、移動を開始する。



「さて、行くか。山が俺を待っている」


「山賀だもんな」


「ああ」


 くだらない事を言いつつ、パリを出発。一路……。どこに向かうんだ?



「今日の目的地は?」


「アルプスの麓。ル・ブール=ドワザンって街だよ。ラルプ・デュエズが見えるんだ」


「ラルプ・デュエズか〜。山賀の憧れだもんな」


「ああ」


 ラルプ・デュエズは、ツール・ド・フランスの屈指の名勝負が繰り広げられた、山だった。ラルプは多分、アルプスって言う意味で。デュエズが場所だろうか?


「早速、走るのか?」


「う〜ん、ラルプ・デュエズは、スキーリゾートだからな〜。まだ、雪残っているかもだから。様子次第だな。まあ、雪残ってたらブリアンソンとかに行くかな?」


「え〜と?」


「街の名前だよ」


「ふ〜ん」


 まるで、分からない。後で調べよう。



 パリから1日走って、 ル・ブール=ドワザンの街にやってきた。高いビルとか無く、田舎街で、白やベージュ色の壁で、灰色とか黒色の屋根の3階建てくらいの建物が多い。スキーリゾートの街のようだった。


 その街の外れにあるコテージのあるホテルに入る。そして、そのコテージが僕達の宿泊場所だった。


「パリのホテルより安いが、部屋も広くて良いな~」


「だな」


 コテージは、簡単なキッチンもついて、ベッドルームも二つあった。のんびり出来そうだった。


 朝や夜は、宿のおばちゃんが作る料理付きで、パリよりも安いそうだった。



「さて、明日から少し流しつつ走るか?」


 明日から走るのは良いが、これからどうするんだろうか?


「なあ、つてはあるのか?」


 山賀の尊敬する新城さんも若くして渡欧した。しかし、それはお父さんの知り合いの名選手福島さんという知り合いのつてで渡欧していた。


「ない」


「はあ?」


「レースに出る」


 そう言って、山賀はメモを渡して来た。そこには、びっしりとレースの日程と、場所、そして、コースプロフィールが書かれていた。


「アマチュアが出れて賞金もある、俺が勝てそうなレースだ。アシストを頼むぞ」


「は?」



 そして、翌日から、フランスの地を本格的に走り始めた、最初のレースは2週間後この近くだった。



「じゃあ、おばちゃん行って来るよ!」


 多分、山賀がこう挨拶して宿を出発する。宿のおばちゃんは、朝、パスタ等の食事を多めに出してくれた。良くロードレースに出るお客さんも泊まるので、そういう食事にしてくれたそうだ。そして、補給食のサンドイッチも作ってくれた。パワーバーだけでは、味気ないから有り難かった。


 ツールポーチに補給食や、ビニールテープ 、紙やすり、 CO2ボンベ 、インフレーター 、マルチツール 、タイヤレバー、 チューブ 等の簡易修理も出来る器具も入れて、飲み物を入れたボトルも多めにつけ。


 さあ、出発だった。



 山賀と二人、左手に真っ白な大きな尖峰を持つ切り立った山々を見つつ、綺麗な緑の大地を走り始めた。

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