第111話 当たり前
115
アルティア神聖国城とアルティア大聖堂を隔てている堀の上に、ゆっくりと跳ね橋が降ろされていく。
ぼくは王国の斥候と一緒に城を貫通してアルティア大聖堂に至る道が途切れた堀の端から跳ね橋が降りてくる様子を見つめていた。幅五メートル、長さ二十メートルあまりの巨大な壁が、ぼくたちに向かって倒れてくるような光景だ。
ぼくに大教皇からの呼び出しを伝えに来た大聖堂からの使者たちが傍らにいる。
使者は城の防衛役である一般のアルティア兵が一人と教会直轄兵が一人、教会の神官が一人のあわせて三人だ。神官が本当の使者で直轄兵はその護衛、普段城勤めをしているアルティア兵は道案内役だった。
ぼくがマリアと話をしている間、ぼくから回答をもらわないと大聖堂に帰れないという使者たちが実は別室で待っていた。
聞けば大教皇との面会はいつでもいいらしい。
お呼び立てするのだから、ぼくさえ都合がつくならば今すぐにでもという話だった。
本来であれば大教皇のような偉い人は時間と予定に追われていそうだけれども、『
違う言い方をすると、大教皇が呼んでいるのだから今すぐ来い、とも捉えられた。
ぼくはマリアに王国の斥候を呼んでもらい、到着を待って使者たちと城へ向かった。
呼びに行ってもらった『
マリアが指令所としている建物から城まで行くには少しの距離だが北門から続く大通りを歩く必要があった。
通りには炊き出しに並ぶ市民の列ができていた。
武装解除に応じた元アルティア兵が市民の誘導を手伝っている。
城まで向かう途中、使者の一人の一般アルティア兵が炊き出しの列と誘導をしている元アルティア兵の様子をずっと目で追っていた。城勤めだったから門担当のアルティア兵と違って投降の機会がなかったのだろう。門担当のアルティア兵の境遇と今の自分の境遇を比べて思うことでもあるのだろうか? どちらがいいのか、ぼくには分からないけれど。
ぼくたちは城を遠巻きに包囲している『
せっかくだから見送ろう、と言ってついてきたマリアとヘルダとはそこで別れた。
相変わらず城はすべての扉が閉ざされて静まり返っていた。
道路がそのまま城を貫通していくのを塞ぐ、表面を鉄板で覆われた巨大な扉ももちろん降りたままだ。
使者たちの後ろについて、その巨大な扉を横目に見ながら建物の脇に回る。
何段か階段があり人間用としては大きな扉があった。
国王も出入りする、この城としての本来の入口だ。今は閉ざされている。
城の主人であるはずの国王が使う扉より大聖堂へ向かう通用門のほうが大きくて正面を向いているという造りは何なのだろう?
国王であって国王でない扱いがあまりにも当たり前だ。
国王に対してすらそれが当たり前なのだからアルティア神聖国民という人たち全体に対する仕打ちがどうかしているのは、もっと当たり前だった。
何なのだろう?
国民を馬鹿にしているのかアルティア教徒を馬鹿にしているのか何様なのか知らないけれども、これから会う大教皇に対して、ぼくには悪感情が湧いてきていた。
使者の一人であるアルティア兵が閉ざされている扉に駆け寄った。
扉には目線の高さに内側から開けられる小さな小窓がありアルティア兵は中にいる誰かと一言二言やりとりをした。
扉が開く。
ぼくは、しがない万年Fランク探索者だからこれまでに入った経験はないけれども、いかにもお城の正面玄関を入った場所ですというエントランスが広がっていた。
何人もの城勤めの一般アルティア兵たちが、ぼくたちを迎え入れた。
一般アルティア兵と教会直轄兵の違いはすぐ分かる。
どちらもそれぞれの組織専用の鎧姿なのはもちろんだけれども、それ以前に顔がやつれているほうが一般アルティア兵で、ふくよかなほうが教会直轄兵だ。ふくよかなのは教会の神官も同じだ。神官は、ややふくよかを越えた丸みすら帯びているけれども。
ぼくたちを城に迎え入れた兵隊たちはやつれていたので一般アルティア兵なのは明らかだ。
違いの理由は、もちろん食べられているか否かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます