第72話 非難
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さすがに、ぼくは呆れかえった。
「どうやら疑いは晴れたみたいなので今度こそ帰ってもいいですよね?」
ぼくは士官に確認した。
「もちろんだ。長く留め置いて悪かった。どちらかバッシュくんを探索者ギルドまで送ってあげてくれ。それから預かっていた剣も返してあげてくれ」
士官に悪びれた様子は、まったくなかった。普通に斥候の二人に指示を出した。
手配をするためか斥候の二人はテントを出て行った。
ぼくは士官と二人きりになった。テーブルを挟んで、お互いに座っている。
「声明では『
士官が口を開いた。
「だからそう言ったじゃないですか」
「ちょっと通訳をしただけの関係にしては君は随分『
お陰で我々は君に手を出せなくなった」
「そんなわけないじゃないですか、え、本当に?」
「おそらく。我々が君を拘束していなければ単に、そうか敵対の意思はないのかと聞き流してしまうところだが、君がここにいる事実があるため安易に聞き流せなくなった。
君に手を出すな、という警告だと我々は受け取った。効果抜群の一言だったな。
冷酷と評判の『
本当に君は何者なんだ?」
「考え過ぎでしょう。ぼくに対して後ろめたい気持ちがあるから、そう感じるんですよ。それにぼくの知る限り『
「まだ暴力に訴えていなかった自分を褒めてやりたい」
士官は不穏な言葉を口にした。そういう予定があったんだ。ぼくは冷たい汗をかいた。
殴られたとしても特に情報を握っていないのだから何も話せない。こいつ、なかなか口が堅いなと、エンドレスに拷問を受けるところだった。
「ところで君は、そんな君のことを心掛けてくれている優しい戦友が今どこでどうしているか気にならないか?」
なるに決まってる。
「ここにいた一万人のアルティア兵が撤退したのは当然『
『
まあ何か作戦があるのかも知れないが、もしかしたら本当に我々との共闘を望んでいるのかも知れん。
生憎、状況がわからないから下手に手を出すわけにはいかないし連絡を取り合おうにも窓口がない。
向こうが援軍を求めているならば待っていれば連絡があるだろうが、その連絡すら出せない状況にあるのかも知れない。
外でやきもきしているだけでは判断が難しいな。
とりあえずは現状を維持して様子を見るしかないが手をこまねいている間に手遅れになったら元も子もない。どうしたものか」
士官は、ちろちろとぼくの顔に目をやったり逆に視線を外したりしながら、ぶつぶつ呟いた。明らかにぼくの気を引くための言葉だ。
ぼくは深く息を吐いた。
「そりゃ、気になりますよ」
士官は前のめりになった。
「君には『
「残念ながら」
ぼくは首を振った。
「この先、もし戦友の安否を知ろうとした時、君ならどうする?」
「『
なにせ、ぼくはオークキングスレイヤーだ。
「だが、当面は行けないな。もしかしたら、このまま居留地も『
『
我々の望みは一致していると思わないか?
お互いに『
多分、今を逃すと君は戦友と再会する機会を失うぞ。
我々が君を居留地まで連れて行こう。君には仲介をお願いしたい。どうだろう?」
「答えるのは今?」
「うむ。すぐ出発だ」
確かに今を逃すと、ぼくは戦友と再会する機会を失うかもしれない。
自分たちはそれどころじゃない状況にあるはずなのに、ぼくがいない場所ですら、ぼくが『
確かルンの分の命の借りは、まだ残っていたんじゃなかったかな?
ぼくは決心した。
「わかりました。こっちの戦友たちに余計な心配を掛けたくないので、ぼくが『
「わかった。ギルドからは探索者を不当に拘束しているとして連日非難を受けているが甘んじてそのまま言われ続けよう」
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